人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2020-8-8 10:16

写真=大江昌嗣理事長(左)考案の水準器で傾斜の測定に挑戦する水沢第一高校の生徒たち(手前)

 水沢第一高校(大内誠光校長、生徒363人)の3年生3人は、胆沢扇状地の開拓史を語る上で欠かせない堰(農業用水路)の謎に迫る研究に取り組んでいる。水を流すのが困難な地形を400年以上前の人々はどのように克服し、農業用水を供給したのか――。当時、使われていたと思われる測量技術を用いながら、測地と研究を行い、扇状地の模型を粘土で製作。10月開催予定の同校文化祭での披露を目指す。
(松川歩基)

 6月に水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(中東重雄館長)で開かれた、「サイエンスカフェ」に同校を運営する学校法人協和学院の伊藤勝理事長が出席したのがきっかけ。同館の指定管理者、NPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの大江昌嗣理事長=国立天文台名誉教授=が「胆沢扇状地の昔」と題し講演。同扇状地の地形と農業用水整備の歩みについて、科学技術の観点から解説した。
 講演後、同校の生徒に当時の測量を体験させられないかという話に。偶然にも同校体育科の千田一馬教諭が、胆沢平野開拓の祖として知られる後藤寿庵(じゅあん)の意志を継ぎ、水路開削を進めた千田左馬(さま)の子孫に当たり、千田教諭の声掛けで生徒3人が集まった。
 今月5日には、胆沢若柳周辺の堰跡地や用水路を巡る調査が行われた。生徒3人は伊藤理事長、大江理事長、中東館長とともに胆沢扇状地に広がる水路網構築の秘密に迫った。
 生徒たちは大江理事長が考案した手作り水準器や、スマートフォンのアプリを使って堰周辺の傾斜や標高を調査した。大江理事長の水準器は、長さ130cmほどの細長い木製の筒の内部に水をためる構造。水平に設置した筒を望遠鏡のようにのぞき、離れた位置に置いた測定棒を見て傾斜を測る。大江理事長によると、水を使って水平基準を判断する技法は、胆沢平野の堰掘削が行われた約400年前にも使われていたと推察される。
 一般に水はけの良い扇状地は果樹園などの栽培に向くと考えられている。しかし、胆沢扇状地には水田が広がり、日本でも有数の穀倉地帯として知られている。
 現在の胆沢川は、同扇状地の北側を流れている。南にいくほど標高が高くなり、北側の胆沢川から普通に水を引くのは難しい地形にある。
 400年以上前の人々がどのように地面の傾斜を正確にとらえ、扇状地の南側にまで農業用水を届けたのか――。生徒たちは自ら測量しながら先人の知恵に触れ、研究成果を扇状地の模型という形で再現する。
 参加している生徒の一人、本間大輝君(17)は「実際歩いてみると大変な作業だということがよくわかる。当時はすべて手探りの状態だったと思うし、近くに整った道もなかった。それを考えると本当にすごい。模型で再現するのが楽しみ」と意欲を燃やしていた。
 大江理事長は「自分たちの足で歩き、具体的な数字を見ることで当時の人の苦労やその技術の高さを感じられる。若い子たちにとって少しでも何か感じるものがあればうれしい」と話し、真剣に測定する生徒たちを見守った。
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tanko 2020-8-8 10:09

写真=佐々木隆局長に要望書を手渡す小沢昌記市長(左)

 奥州市から岩手県への要望会は7日、市役所本庁で開かれ、小沢昌記市長が達増拓也知事宛ての要望書を佐々木隆県南広域振興局長に手渡した。要望内容は、国際リニアコライダー(ILC)実現に向けた取り組みなど28項目。小沢市長は「内容を十分検討し、一つでも実現してもらえるようお願いしたい」と求めた。
 市側は小沢市長や及川新太、新田伸幸両副市長、田面木茂樹教育長、各部長らが出席。要望書共同提出者の市議会から、小野寺隆夫議長ら市議6人が同席した。県南局側は佐々木局長のほか副局長や各部長らが参加し、奥州選挙区選出の県議も顔をそろえた。
 市の本年度県統一要望は、28項目のうち新規が6項目、継続が22項目。ILCをはじめ、▽地域医療の充実と公立病院における医師確保▽地方財政基盤の充実強化▽路線バス事業に対する支援事業の拡充――の4項目を重点要望に掲げた。
 小沢市長は医師確保について「県立病院でも厳しいことは承知しているが、市にとって極めて重要な課題。スクラムを組み、より良い方向へ進みたい」と述べた。バス事業に関しては「人を呼び込み住みやすい地域をつくるため、公共交通の整備は大きな力になる。特段の配慮を」と求めた。
 佐々木局長は「ILC実現に向けて関係機関との連携を強化し国へ働き掛けながら、受け入れ環境の整備などに取り組む」と強調。感染症病床を備える市総合水沢病院への呼吸器内科医の継続的な配置を市が要望していることから、「引き続き協議し調整に努める」と答えた。
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tanko 2020-8-7 11:20

写真=規約や本年度事業などを決めた東北ILC事業推進センターの総会(一関市内)

 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の受け入れ環境整備を具体検討する組織「東北ILC事業推進センター」が6日、発足した。胆江2市町を含むILC建設の有力候補地・北上山地周辺の16市町などで構成。センター代表には、岩手県立大学長で素粒子物理学者の鈴木厚人氏が就任した。今月2日には、素粒子分野の研究者組織・国際将来加速器委員会(ICFA)が「国際推進チーム(IDT=International Development Team)」を立ち上げている。同センターはIDTの動きと歩調を合わせながら、地元が主体となり有力候補地周辺の地質調査や研究者らの定住に対応したまづくり、ILC建設に対する地域住民の理解促進活動などを進める。
(児玉直人)

 同センターは、東北ILC推進協議会(共同代表=大野英男・東北大学総長、高橋宏明・東北経済連合会名誉会長)の内部組織だった東北ILC準備室(室長・鈴木学長)を発展解消し設立された。16市町のほか、岩手・宮城両県、東北大、岩手大、岩手県立大、岩手県ILC推進協議会(会長・谷村邦久県商工会議所連合会長)の22団体から成る。16市町の中には、宮城県栗原市など宮城県北の4市も含まれている。
 同センターが検討する事柄は?候補地周辺の環境整備など地域主導で取り組むべき課題?研究者や家族の定住に対応したまちづくり?地域住民の理解促進?自然環境や社会、経済への影響?地域資源の活用や振興?加速器関連産業の振興――など。
 研究者界からの助言を得られる組織体制とし、候補地の地元と研究者界が密接に連携しながら検討作業を進める。協議内容は候補地の地元に関する事柄が多くを占めるが、広域の受け入れに関して協議するため、東北6県に新潟県を加えた「東北七県ILC推進会議」を内部に設置する。
 一関市内のホテルで開かれた設立総会には、構成団体市町の担当職員ら36人が出席。設立経過や規約、本年度事業計画などを決めた。本年度は組織基盤強化のほか、早急に取り組むべき課題を整理し検討に入る。
 本年度の具体的事業と予算額は?候補地周辺の地形・地質調査(1300万円)?港湾活用による物流の研究・検討(200万円)?まちづくり、受け入れ環境に向けた検討(250万円)?地域住民の理解促進活動(230万円)?地域に人材を呼び込む方策の検討(100万円)?加速器関連産業の振興方策の検討(50万円)――などとなっている。費用は構成団体の負担金で賄う。
 総会後は、鈴木学長がこれまでのILC計画の流れについて講演した。
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tanko 2020-8-6 16:50


日中韓8局の電波望遠鏡で観測したブラックホールの「ジェット」の様子(写真上)。同じ観測データの中から日本の入来、石垣、小笠原の3局のデータを外し再構成した画像(写真下)。精度が大幅に落ちてしまうのが分かる=(C)EAVN collaboration

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の秦(はだ)和弘助教は、日中韓3国の国際観測で得られたデータを使い、予算が削減された場合に発生する研究への影響を検証した。本年度当初に削減された予算が追加されないままの観測体制では、観測レベルが10〜20年前に逆戻りするほど精度が悪化することが分かった。秦助教は「海外の研究者や大学院生は、高精度の観測データを期待して研究活用をしている。仮に日本の都合で急に運用停止となっていたら、研究の質は格段に下がり、国際的信用は大きく失墜していただろう」と指摘。120年以上にわたり水沢地域にあり続ける同観測所は、今なお世界の天文学研究で大きな役割を果たしていることを明らかにした。
(児玉直人)

 秦助教が検証に使ったのは、国際プロジェクト「東アジアVLBIネットワーク(EAVN)」によって撮影したブラックホールの画像。本間所長らが直接撮影に成功し話題となったのと同じブラックホールを観測している。日中韓の電波望遠鏡8局を連携させるEAVNは、より広い範囲を観測しており、ブラックホールから噴き出している「ジェット」という現象を捉えている。
 8局のうち4局は、水沢など同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA(ベラ))で構成。8局による観測データを基にした画像は、ブラックホールの中心部から帯状に噴き出すジェットの形や大きさなどが詳しく確認できる。
 秦助教は予算削減の影響を検証すべく、入来(鹿児島)、石垣(沖縄)、小笠原(東京)の3局のデータを意図的に除去し、画像を再構成。結果、ブラックホールがあると思われる部分は楕円形にぼんやり輝き、その周囲は薄いオレンジ色の幕が掛かったようになった。
 データを除去した3局は、追加予算措置がなければ6月末にも運用停止になる望遠鏡だった。秦助教は「人間の視力に当たる解像度が2倍以上悪くなり、ピンボケになったため、ブラックホールの中心部がぼんやりとした楕円形になった。感度の低下で雑音(ノイズ)が入り込み、周囲のもやもやとした幕のような形になった。これでは、ジェットの姿が分からない」と説明する。
 同観測所の施設名にもなっている「VLBI」は、離れた電波望遠鏡を連動させ同じ天体を観測する技法。「EAVN8局の中でも、VERAは東端と南端のほとんどをカバーしている。ここが抜けると大幅に観測の質が低下する」と秦助教。水沢を含めたVERA4局は、高精度な観測をする上で極めて重要な場所に配置されていると強調する。
 VERA観測網を運用する同観測所の安定的運用は、国内外の天文学者を育てる環境にも影響を与える。秦助教は「日本だけでなく海外の研究者、大学院生も観測データを使い研究を進めている。彼らのような存在を配慮せず、急に予算が減らされ運用停止の危機となれば、研究に生かす材料が失われる。まさに寝耳に水。特に大学院生たちのやる気は大きく失われる。信用問題に発展しかねない」と警鐘を鳴らす。
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tanko 2020-8-5 16:50

写真=ウェブ中継で水沢VLBI観測所の運用継続を要望する小沢昌記市長(左)と小野寺隆夫議長

 奥州市と市議会は4日、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の活動継続に関する萩生田光一・文部科学大臣宛ての要望書を提出した。新型コロナウイルスの感染再拡大の状況を受け、要望書はすでに同省へ送付済み。同日は小沢昌記市長と小野寺隆夫議長がウェブ中継により、文科政務官の青山周平衆院議員(比例東海、自民)に要望趣旨を伝えた。
 青山政務官は冒頭、6月11日に胆江地区の天文愛好家らで組織する「VERA(ベラ)サポーターズクラブ」からも今回と同趣旨の要望を受けたことに触れ、「水沢観測所が地元の皆さんからたくさん応援を受けていると感じた」と述べた。
 小沢市長は、同観測所の前身、旧水沢緯度観測所の木村栄・初代所長が発見した「Z項」に由来する施設名などを紹介。「天文台と水沢地域は強く深く密着しており、なくてはならない存在。今回の問題は基礎科学予算全体の縮小によって起きたと思う。全体予算の拡大をお願いしたい」と訴えた。
 具体的なやりとりは10分余りにわたり、非公開で行われた。終了後、小沢市長は報道陣に「青山政務官はサポーターズクラブの要望を受けたこともあって、全体の流れを理解されているようだった。今後は地元選出議員をはじめ、基礎科学分野に造詣が深い国会関係者にも要望していく」と話した。
 同観測所は、国内4カ所に同一仕様の電波望遠鏡を配置し、高精度の天体観測を行うVERA(天文広域精測望遠鏡)観測網を運用。2年ほど前からは近隣諸国の電波望遠鏡も組み合わせた、より精度の高い国際観測事業を展開してきた。
 しかし、同天文台執行部から本年度当初予算の大幅削減方針が示され、観測網維持が困難な状況に追い込まれた。その後、予算が追加補正され年度内の観測網運用は可能になったが、来年度以降の見通しについては明確になっていない。
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tanko 2020-8-4 13:00

写真=本間希樹所長の案内で電波望遠鏡を見学する畑野君枝議員(中央)と高橋千鶴子議員(右)

 共産党の畑野君枝衆院議員(比例南関東ブロック)は3日、水沢星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所などを訪問。同観測所の本年度当初予算が大幅に削減された影響について、本間希樹所長から状況説明を受けた。畑野議員は「基礎研究が無ければ科学は発展しない。世界的にも貴重な研究をしている施設を維持できるよう、国としてもしっかり取り組んでいかなければいけない問題だ」との考えを示した。
(児玉直人)

 畑野議員は衆院の文部科学委員会、科学技術・イノベーション推進特別委員会に所属。5月28日の同特別委での質疑では、同観測所の予算削減に触れながら、日本の研究力低下に関する問題を指摘。「研究費の競争資金化や短期的に結果が出る研究が評価されている。いわゆる『選択と集中』が推進され、研究者の興味や創意に基づく自由な研究を行う環境が後退してきたのでは」と述べ、学術的な研究や基礎研究を充実させる必要性を主張していた。
 3日は、衆院比例東北ブロック選出で同党の高橋千鶴子議員や同党奥州市議団らも同行。同観測所では本間所長や同天文台の渡部潤一副台長が応対したほか、文科省の担当職員も同席した。
 本間所長は「やりたい研究はいっぱいある一方、経費削減の努力もしており、当初見込まれたコストの平均以下で運用している。われわれの研究は10年ぐらいの歳月をかけて取り組んでおり、安定して臨める環境が必要。『来年はどうなる、その次は……』という不安定な状況では観測現場は疲弊する」と訴えた。
 一行は観測所敷地内を見学後、市役所に小沢昌記市長らを訪問。小沢市長は「開所120周年、ブラックホールの撮影成功という快挙の後に、(予算削減は)何なのだという思い。未来に光を与えるためにも、基礎科学研究は必要なもの」と語った。
 畑野議員は報道陣の取材に「9月には来年度予算の概算要求が始まる。観測所が運用するVERA(天文広域精測望遠鏡)観測網4局が来年度以降も稼働できるよう、高橋議員と共に国会の場で求めていき、基礎研究予算の問題にもしっかり取り組んでいきたい」と述べた。

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