人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2019-5-31 15:50
 岩手県は本年度、北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)の誘致事業に関連し、水沢や水沢工業など県立8高校を「ILC推進モデル校」に指定した。718万1000円を投じ、国内外の素粒子研究施設の見学や外国人受け入れなど、モデル校の取り組みを支援する。
 モデル校指定は、ILCが実現した場合の地域社会を見据え、研究職のみならず国際研究都市を支える上で必要な幅広い分野の人材を育成しようと、県が2017年度から実施。ILCに関する課題研究などを実践している高校を中心に、モデル校として指定し、関連する授業や研修に対する経費面を支援している。
 水沢は2017年度から続くモデル校。本年度の予算額は100万円で、代表生徒による米国カリフォルニア州のSLAC国立加速器研究所への訪問や現地での研究発表などを行う予定だ。
 一方、2018年度からモデル校になっている水沢工業は、ILC関連の講演会を開催するほか、ILC関連装置の技術開発が行われている高エネルギー加速器研究機構=茨城県つくば市=の見学、文化祭でのILC関連装置の模型展示などを予定している。予算額は74万4000円。
 このほか本年度は大船渡東、福岡の2校が新たに加わった。大船渡東は、ILCで働く外国人研究者や家族のための食事について考える一方、販売実習を通じたILCの情報発信について取り組む方針だ。
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tanko 2019-5-26 14:00
 ブラックホールの撮影に成功した国際研究プロジェクト、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)の日本人研究者代表を務めている国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長は25日、奥州宇宙遊学館で地域住民を対象に成果を報告した。講演依頼が各地から相次いでいる中、一般向けに成果報告するのはこの日が初めて。観測事業に理解、協力を示してくれている地域住民に感謝の意を伝えながら、研究の意義や発表記者会見後のこぼれ話などを分かりやすく、ユーモアを交えながら紹介した。
 人類史上初となる快挙もさることながら、今年は同観測所の前身、水沢緯度観測所が設置されてちょうど120年。1世紀以上にわたり、天文観測に理解と協力を示してくれた地域住民に感謝の意を込め、真っ先に報告の場を設けたいと、同観測所と市などが主催。同観測所がある水沢南地区の住民を対象に呼び掛けたところ、定員の50人を上回る約餠人が集まった。
 本間所長は「太陽や月などの天体写真を見ると、全体が輝いて見えるか、光が照らされた部分が明るく見え、外側が暗い。ところが、ブラックホールの写真は真ん中が暗い。光を発しない天体であることを端的に示している」と、撮影と解析によって得られた写真の特徴を説明した。
 「何か成果を出すと、新たな宿題が生じるのが科学の世界の宿命。ブラックホールから飛び出す『ジェット』が、今回は撮影されていない。EHTは来年以降も続くプロジェクトなので、ジェットの根源がどうなっているのか、おそらく分かってくるだろう」と話した。
 科学的成果のほか、記者会見前後の心境や想像以上の国民の関心、反響の大きさにも触れた。発表前まで「『CG(コンピューター・グラフィックス)の再現画像のほうがきれい』と言われないか、気持ちが落ち着かなかった」と本間所長。
 100年にわたるブラックホール研究の流れをジグソーパズルに例え、「今回の成果で最後の1ピースを埋めることができた」と報道陣を前に話したところ、ブラックホールの撮影画像を用いた本物のジグソーパズルが商品化されることに。「ほとんどが黒のピースなので相当難しいパズルになるだろう」と話すと、会場は笑い声に包まれた。
 報告会後半は、本間所長と研究に携わった同観測所の小山友明・特任専門員と田崎文得・特任研究員も登壇し、研究の舞台裏を紹介するパネルディスカッションが行われた。
 同観測所と市などは、6月2日午前10時から市文化会館(Zホール)で同様の報告会を開く。あらかじめ募集した児童生徒のほか、広く一般の聴講も可能。入場無料だが整理券が必要となる。問い合わせは市ILC推進室(電話0197・24・2111、内線1442)へ。
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本間所長、講演要旨

 4月10日、都内でブラックホール撮影に関する記者会見を開いた。午後10時の会見となった理由は、世界同時に会見するため。画像を午後10時7分(日本時間)に出すことも決まっていた。
 撮影したブラックホールだが、おとめ座の方向の「M87」という巨大な銀河の真ん中を非常に大きく拡大して撮った。地球から5500万光年の位置にある。
 一般的な天体写真では、天体は丸く全体が輝いて見える。しかしブラックホールの写真は真ん中が暗い。光を出さない天体の性質を端的に示している。
 この写真で大事なのは「穴」。ブラックホールは重力が強くて光さえ出てこない。吸い込まれたものは、二度と出てこられない化け物のような恐ろしい天体だ。
 ドーナツのように見える周囲の明るい部分は、空間と時間がゆがんで光がまとわりついて、真っすぐ飛べず、光の薄い衣ができている状況だ。
 撮影したブラックホールの直径は1000億km。太陽系の数十倍に当たる。私たちの日常からすると大きなスケールだが、M87銀河の規模からすると中心部の点にすぎない。温度は60億度以上あり、地球上では作れない温度だ。その高温が飛び散らず止まっていられるのは、非常に強い重力が隠れているため。だからブラックホールの存在が分かる。
 撮影は国際研究プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が行った。広い宇宙だがターゲットは二つしかない。M87と、いて座のAスター。どちらでもいいから、穴を見られるか、200人が何年も必死に力を注いできた。ターゲットはとにかく小さい。月の上のテニスボールを地球から見た時の大きさに相当する。
 国際協力ならではの苦労もある。コミュニケーションは英語で、インターネット会議は深夜まで続く。会議や観測で海外出張することも多い。意見の相違も多々発生する。日本人はお互いの意見を尊重し、うまく落としどころを探すが、欧米はまず自己主張がスタート。さらに自分たちそれぞれに進みたい方向へ行こうとする。これをどう束ねるかが難しい。
 プロジェクトが空中分解しそうな場面は何回かあった。それでも続けることができたのは、ブラックホールがそれだけ魅力的な天体で、しっかりとした姿をみんなが見たがっていたからだ。
 4月10日の記者会見は成果が大きい上、写真を見せる時間まで決められているほどシビアだった。当初はテレビや新聞のトップを十分に狙える成果だったが、発表の日の夜、桜田義孝五輪相辞任が飛び込み、その座を奪われてしまった。
 ワイドショーなど、お茶の間系番組からも解説の声がかかった。ブラックホールを見ていたら、芸能界のスターも見ることができた。
 今年は緯度観測所が開所して120年。節目の年に成果を出せて本当によかった。緯度観測所は北緯39度8分上に観測地点を設け、地球回転にまつわる謎を明らかにした。ここはもともと、国際協力による研究が進められていた場所であり、それが今も続いている。
 120年間変わらず研究活動ができたのは地元の皆さんのおかげ。ご支援やご理解をいただいたからこそ。奥州、岩手の皆さんにお礼を申し上げたい。今回の成果は、自分たちのものだと思ってほしい。

写真=研究成果や裏話などを分かりやすく、ユーモアを交え紹介した(左から)本間希樹所長、小山友明・特任専門員、田崎文得・特任研究員

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