人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2018-8-31 9:40
 国際リニアコライダー(ILC)では、宇宙誕生時の大爆発「ビッグバン」直後の宇宙の状態を再現するそうですが、ビッグバンが起きる前の宇宙とはどんな姿だったのですか? 何があったのでしょうか?

答えがまだわからない問題です

 「ビッグバンの前は何があり、どんな様子だったのか?」という謎は、単純な疑問でありながら、答えを出すのは非常に難しいものです。
 現在、世界中の天文学者、宇宙学者、物理学者たちが「こうではないか? ああではないか?」と議論したり、理論を出したりして研究を続けています。残念ながら、今の時点では「こうでしょう」と学者の皆さんが認めている学説(考え)はありません。つまり、まだ明確な答えが見つかっていないのです。
 しかしながら、現在最も有力な考え方として知られているのが、日本の宇宙物理学者である佐藤勝彦・東京大学名誉教授や、アメリカの宇宙物理学者アラン・グース氏が相次いで提唱した「インフレーション理論」があります。
 この理論は宇宙の異常な膨張が、宇宙が誕生した10のマイナス36乗秒後に始まり、10のマイナス34乗秒後に終了したという現象について述べたものです。


 「10のマイナス36乗」というのは、「0」と小数点を書いた後に「0」を35個並べ、最後に「1」を付けて表現した数値です。要は、とんでもないわずかな時間の中で「宇宙の異常な膨張が起きた」というのです。この異常な膨張によって宇宙は「火の玉」になったと考えられています。
 具体的にどれくらい宇宙が膨張したのかというと、インフレーション前の大きさは、直径が10のマイナス33乗cmだったと言われており、物質をこれ以上こまかくできない究極の粒子「素粒子」よりもはるかに小さい大きさです。それがインフレーション直後、いわゆる「ビッグバン」の時には直径1cm程度になっていたと考えられています。
 この理論では、最初の宇宙は「無」から生まれたと考えられています。物理学的に「無」とは「ゆらぎ」のある状態のことをいいます。ちょっと難しいですが、別の言い方をすると、「物理的に可能な限りエネルギーを抜いた状態」のことをいいます。実は量子物理学では、エネルギーを抜くだけ抜いても「振動」、すなわち「ゆらぎ」は残るのです。このような「ゆらぎ」によって宇宙が生まれたり、消滅したりしています。「無」と「有」の間を行ったり来たりゆらいでいる状態です。
 そのような状態から「トンネル効果」という特別な効果(現象)によって、突然パッと現在の宇宙が生まれたのではないか、と考えられています。これはウクライナ生まれのアメリカの物理学者アレキサンダー・ビレンキン氏が唱えた説です。
 このように「宇宙は無から誕生し、インフレーションという爆発的な膨張によって火の玉となり、ビッグバンという再度大爆発が起きた。その後、膨張し続けている」と考えられていますが、これ自体、完成された理論ではありません。これからの研究に期待が寄せられています。
 現在の宇宙に存在するすべての物質は、ビッグバン時代につくられた莫大(ばくだい)なエネルギーがもととなっています。ビッグバンによって、素粒子ができ、それによって陽子や中性子ができ、さらに電子を取り込んで原子となり、物質の生成が進んでいきました。それが「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる状態で、宇宙創成から約38万年後のことです。光が直進できるようになり、その後数億年たって星もでき、銀河や銀河団が形成され、私たち人間などの生物がつくられていったのです。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)

番記者のつぶやき
 あまりにも巨大な数のことを「天文学的な数値」というように言うことがあります。果てしなく広がっているような宇宙や天体までの距離、巨大な星の質量などは、日常生活で使っている数値をはるかに超える大きさですから、そのようなたとえが誕生したと思います。
 一方で、素粒子物理学者などは宇宙誕生直後のわずかな時間とか、素粒子の大きさなど、非常に小さな世界を研究の対象にしています。ところが、こうした目に見えない小さなものやわずか一瞬の出来事を「素粒子物理学的数値」と表現するかというと、そうでもありません。天文学のほうが、一般的になじみがあるということなのでしょうか? 「いや、決してそんなことはない」と、素粒子物理学者の方は心の中で思っていることでしょう。
 桁数が多くて書ききれないために、接頭辞(せっとうじ)という言葉をつけて、桁数を省略する表記をすることがあります。「キロ」や「メガ」「ギガ」「センチ」「マイクロ」などは、皆さんもよく聞くことがある代表的な接頭辞です。(児玉直人)
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tanko 2018-8-25 9:40
 一関市を拠点に活動している市民団体「ILC誘致を考える会」は24日、ILC(国際リニアコライダー)誘致に関する問題点と公開質問状を勝部修・一関市長に提出した。実験終了後に高レベル放射性廃棄物の処理施設になるのではという懸念や、ILC誘致活動に子どもたちを巻き込んでいることへの責任、地元への経済効果額などについて、今月中に文書で回答するよう求めた。同団体は今後、県に対しても同様の行動を起こす方針で、「ILCは一関だけが関係するプロジェクトではない。県への行動となれば、奥州市や平泉町など近隣自治体の住民意見も反映させなければいけない」としている。

 質問状提出後、同考える会共同代表の千坂げんぽう(※)氏(73)と、原田徹郎(てつお)氏(74)が一関市役所で会見した。原田氏が会長を務める市民環境団体「一関水と緑を守る会」の関係者や、建設想定エリア内にある同市大東町の住民らもオブザーバーとして出席した。
 質問項目は▽放射化する地下水・空気・施設への対応▽核廃棄物処分場への転用懸念▽地元負担と経済効果▽自然災害や工事残土、電力への対応▽地元の雇用不安▽誘致運動への子どもの参加と大人の責任――に関すること。考える会会員約50人から寄せられた意見をまとめ、会の総意として提出した。
 ILC稼働時に生じる放射線の影響に関する質問では、「(リスク情報を)速やかに住民に伝え、対策を提言すべきだ」とし、見解を求めた。民間研究所が文部科学省の委託を受け実施したリスク調査では、放射化した地下水が広域に移動することのないよう、適切な対応策が必要だと指摘。調査結果は同省ILC有識者会議の技術設計報告書検証作業部会にも報告されている。考える会は、このような公的な場で明らかになったリスクを、候補地の地元住民に速やかに伝えるべきと主張している。
 放射性廃棄物処分場への懸念については「県や市は転用を認めないと明言しているが、知事や市長が交代しても保証されるのか。国が地元の意向を無視して強行しても異議を唱えることができるか」と、問いただしている。
 原田氏は「ILCそのものに反対している人たちばかりではないが、核廃棄物や放射線に関係する事柄については賛成できない、不安に思うという人が多い」と語る。オブザーバー参加の地元住民の一人は「就職先が増え、人口減少にもいい効果があると思い、当初は賛成していたが、(安全対策がしっかりされていなければ)福島の二の舞になってしまう」と指摘。別の住民は「合意形成や理解構築の不十分さが発端となり、市民や県民が分裂状態になることだけは避けてほしい」と訴えた。
 一方、質問状を受け取った勝部市長は報道陣の取材に応じ「一通り読ませていただいたが、専門家や研究者が検討している事柄なども含まれている。地元市長として回答できるのは、これまで市が進めてきた周知、PRの部分ぐらい」と答えた。考える会側の要請通り、文書で回答するという。

学術会議への意見書に県が反応 提出者、不満あらわ

 一関市在住の僧侶ら有志6人が日本学術会議(山極寿一会長)に今月提出したILC関連の意見書に対し、県関係者が記者会見を開いて意見書への見解や対応策などを示したことに、有志の一人である千坂げんぽう(※)氏(73)は「意見書は学術会議に出したものだ」などと不満をあらわにした。
 千坂氏によると、県側から意見書の内容に対する問い合わせや、会見を開くというような知らせはなかったという。
 千坂氏が共同代表を務める「ILC誘致を考える会」は24日、一関市長にILCに関する公開質問状を提出。千坂氏や同じく共同代表を務める原田徹郎氏は、提出後に開いた記者会見で、県にも質問状を出したい意向を示した。千坂氏は「ILCが実現すれば、多くの県税を使うことにもなる。一関、県南だけの問題ではなくなってくる」と話す。
 意見書は、ILC候補地の地元で展開している誘致運動などの問題点を指摘する内容。今月10日付で学術会議に提出し、22日には学術会議の「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」(家(いえ)泰弘委員長)で委員らに配布された。
 これを受け東北ILC準備室長を務める素粒子物理学者の鈴木厚人(あつと)・県立大学学長と、県の大平尚(ひさし)企画理事が23日、県庁内で記者会見。リスクマネジメント説明会の開催やホームページでの説明充実など、地元への理解を得るための方針を説明していた。

写真=会見する千坂げんぽう氏(左)と原田徹郎氏(一関市役所)

※注釈…千坂氏の名前の漢字表記は、山へんに諺のつくりで「げん」、峰で「ぽう」
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tanko 2018-8-24 13:50
  天文学観測の国際プロジェクト「スクエア・キロメートル・アレイ」(SKA=Square Kilometer Array)を運用するSKA機構(本部イギリス、フィリップ・ダイヤモンド機構長)は、SKAの科学技術に貢献する観測装置として、水沢星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹(まれき)所長)が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA(ベラ))を公式認定した。遠く離れた離島にある電波望遠鏡を連動させるVERAの高度な観測技術や運用実績が、SKAプロジェクトに役立つと期待が寄せられている。緯度観測所開設から来年で120年を迎える国立天文台最古の研究施設は、新たな国際プロジェクトの中で存在感を示すことになる。

SKAは小型のパラボラアンテナを数千台、地面に直接設置する低周波アンテナを数百万台設置。それらを連動させることによって、実際には製造不可能な1平方kmの集光面積を持つ世界最大級の電波望遠鏡による研究を推進するプロジェクトだ。
 どのように星や銀河がつくられたのか、地球外生命体はいるのかなど、さまざまな謎の解明に挑む。本間所長は「地球外生命体、つまり『宇宙人はいるのか』という疑問は誰もが一度は抱く。たとえ見つからなくても、それはそれで私たち人類に大きな確証を与えることになる」と説明する。
 SKAにはオーストラリア、カナダ、中国、インド、イタリア、ニュージーランド、南アフリカ、スウェーデン、オランダ、フランス、スペイン、イギリスの12カ国が参加している。アンテナの設置場所は南アフリカとオーストラリア。携帯電話や放送用に用いる人工電波の影響を受けにくく、一定の広さを確保できる環境を重視し、コスト検証も重ねて選ばれた。既に建設が始まっており、2020年から初期観測をスタートさせる。
 日本は正式メンバーではないが、SKA機構理事会に国立天文台の代表者がオブザーバーとして参加。日本学術会議が2014年に策定した「大型研究計画に関するマスタープラン2014」の中で、SKAは天文学・宇宙物理学分野における重点大型研究計画の一つとして位置付けられている。
 参加国への仲間入りを見据えた活動が進む中、今年7月、VERAが「パスファインダー」と呼ばれる、科学・技術貢献に期待される装置としてSKA機構の公式認定を受けた。VERAは小笠原諸島の父島などにも観測アンテナがあり、水沢の制御室で遠隔操作やデータの送受信、処理を行っている。こうした環境での運用実績は、南半球の2カ国に観測施設を置き、北半球のイギリスに本部があるSKAにも大きく貢献できるという。
 本間所長は「緯度観測所の時代もそうだが、天文学は世界が一緒になって観測や研究をするのが基本。既に水沢のVERAはアジアの観測網と連動した観測をしているが、今後はSKAも含めた国際的な観測ネットワークの仲間に入り、研究していくことになるだろう」と期待。SKA機構のダイヤモンド機構長は「VERAを通じた日本の皆さんのさらなる国際協力を楽しみにしている。日本のSKA参加検討を前進させる契機になれば」とコメントしている。

写真1=SKAの完成イメージ(SKA機構ホームページより)
写真2=国立天文台水沢キャンパス内にあるVERA用20mアンテナ
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tanko 2018-8-24 13:40
 北上山地への誘致が正念場を迎える国際リニアコライダー(ILC)。金ケ崎町は、町民への啓発事業として高エネルギー加速器研究機構(KEK)=茨城県つくば市=の視察研修を実施した。ILCへの導入を視野に進められている、最先端技術の開発現場を写真で紹介する。


写真1=実験時の電子と陽電子ビームの衝突精度を高めるため、高品質なビームの生成と小さく絞り込むための技術開発が行われている先端加速器試験施設(ATF)


写真2=電子ビームの密度を高めダンピングリングの実験装置


写真3=ILCに設置されるクライオモジュールの内部構造。電子・陽電子ビームが通過する超伝導加速空洞ユニットは外部の影響を受けないよう、つり下げて設置される


写真4=ILCに設置されるものと同じ全長�q?のクライオモジュール(写真奥の円筒)。超伝導リニアック試験施設棟の地下10mに掘られた全長100mのトンネル内で、今後ビーム加速試験が行われる


写真5=希少金属ニオブ製の超伝導加速空洞。中小企業も参入できるよう製造工程の研究も進められている
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tanko 2018-8-24 12:40
 東北ILC準備室長を務める鈴木厚人・県立大学学長(素粒子物理学)と、県の大平尚(ひさし)・企画理事は23日、県庁内で会見。北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)に対し、誘致運動の在り方に一関市内の市民有志らが苦言を呈していることに、県の基本的考え方や今後の対応について説明した。大平理事はさまざまな不安要素や疑問への対応について、リスクマネジメント説明会の開催など、住民の理解を得るための取り組みを充実させる考えを示した。運用終了後、高レベル放射性廃棄物の処分施設に転用されるのではとの指摘については、国際プロジェクトとして作られた施設が、日本の都合で廃棄物処理の場に勝手に転用することはできないと、可能性を否定した。

 会見は、一関市在住の僧侶で「ILC誘致を考える会」の千坂げんぽう(※)共同代表ら計6人が、日本学術会議(山極寿一会長)にILC建設に関する意見書を提出したことを受け開いた。同会議では「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」(家(いえ)泰弘委員長)を設置し、ILCの日本誘致の是非を議論している。
 千坂氏らは意見書の中で、地元負担などのリスク検証不足や、誘致活動に子どもたちを利用している点などを懸念。素粒子物理学者や地元行政の取り組み姿勢に苦言を呈した。一方で、ILCの科学的意義には理解したい姿勢も示しており、地域住民の理解構築がないまま誘致を進めれば「将来に必ず禍根を残す」と主張している。
 意見書は学術会議宛のもの。県や関係自治体に対する意見書や質問状のようなものは23日時点で提出されていないが、報道などを通じてILCを推進する鈴木学長や県の関係者も知るところに。
 大平理事は基本的な考え方として、講演会などを通じて県民理解の取り組みをしてきたと説明。「世界・日本における加速器の建設や運転実績、現地調査から(ILCの)実現に伴うリスクは克服できるものと考えている」とした上で、「それは住民らの理解があってのもの」と付け加えた。
 「リスクなどに関し、講演会の質疑応答で不十分との指摘もある。(県などの)ホームページにもQ&Aを掲載してきたが、事実を正確に伝えるため、内容を充実させる。リスクマネジメント説明会なども開催する」と述べた。
 鈴木学長は「いろいろな意見が出るのは良いことで、事実はしっかりと出すべき」とした。誘致運動に子どもたちを利用しているとの指摘があったことに「そういう気持ちは全くない」と理解を求めながら、「これから注意しないといけない」との認識を示した。
 頑丈な地下岩盤があることから、研究施設としての役割を終えた後、高レベル放射性廃棄物処分施設に転用されるのではとの懸念について大平理事は、「法律上で地下300mよりも深い地層の処分と規定されている。ILCは標高100m、地表から50〜100mの場所に建設される施設で、(廃棄物処理施設の条件に)全く該当しない。ILCは世界の国々が協力する国際プロジェクト。日本が勝手に(転用を)決めることはできない」と否定した。鈴木学長も「講演会などで必ず出てくる質問。深さや構造からもILCの施設は全く該当しない。もっと理解してもらう仕組みを考えないといけない」との考えを示した。
 地元自治体の財政負担について、大平理事は「建設費を自治体に負担せよということはない。ただ、周辺の道路や下水など社会インフラ整備は自治体として必要になる」と説明した。

写真=会見で質問に答える鈴木厚人学長(右)と大平尚理事(中央)

※注釈…千坂氏の名前の漢字表記は、山へんに諺のつくりで「げん」、峰で「ぽう」
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tanko 2018-8-24 9:30
 宇宙全体のうち、95%は私たちがまだ知らない物質のようです。国際リニアコライダー(ILC)では、それらが何なのか調べるそうですが、発見できたとして、私たちの生活にどのように活用していくことができるのですか?

新しい科学や技術に応用

 まだ知らない物質とは、「ダークエネルギー」や「ダークマター」のことですね。
 ダークエネルギーは「暗黒エネルギー」とも言われ、宇宙全体の約70%を占めると考えられています。ダークマターは「暗黒物質」とも呼ばれており、宇宙全体の約25%を占めると考えられています。「暗黒」と言っても「真っ黒い色」をしているわけではなく、現時点では正体がよく分からないから「ダーク」「暗黒」と呼んでいます。
 ダークエネルギー、ダークマター両方合わせて95%ですから、残りの5%が私たち人類がその存在を知っている物質です。科学技術が進んで、まるで何でも分かっているような錯覚になりますが、実は私たちは宇宙のわずかなことしか知らないのです。
 宇宙は現在も膨張し続けています。さらに最近の観測結果では、その膨張する速度が速くなっているということが分かっています。研究者の間では、宇宙を膨張させているエネルギー、すなわち、膨張させている力の元になっているのがダークエネルギーではないかと考えられています。
 ダークエネルギーがどのようなものなのか、どのような性質があるのかが分かると「宇宙は今後も今までと同じように膨張し続けるのか」「膨張しないで止まるのか」「膨張が止まったらそのままでいるのか、それとも今度は収縮していくのか」など、宇宙の未来の姿を予測することができるかもしれません。
 ダークマターは、現在の宇宙がどうしてこのような姿になっているのかを説明する上で、欠くことができない存在です。「もしダークマターの存在を無視すると、宇宙に点在する銀河がバラバラに飛び散ってしまっているはずだ」と研究者たちは考えています。ダークマターがなければ、今の宇宙の姿を理論的に説明できないのです。目に見える銀河と目に見えないダークマターとが引力で引き合っているから、今の宇宙は成り立っていると考えられています。
 宇宙や物質の研究をしている人たちにとっては、面白いテーマかもしれません。しかし、ダークエネルギーやダークマターの正体が分かったからといって、私たちの日常生活が急に変わるとか、変化が起こるというようなことはないと思います。
 素粒子物理学などの理論は、今まで考えられていたものと変わってくるかもしれません。今の素粒子物理学は「標準理論」という理論に基づいて、さまざまな物理現象が説明されています。もしダークエネルギー、ダークマターの存在や性質が解明されれば「今までの理論や説明は間違っている」「このように考えられる」など新しい理論や考えが生まれるかもしれません。
 さらにこのような基礎研究の成果を通じ、物質やエネルギーの性質が今まで以上に詳しく分かってくると、それらの性質を利用して、新しい科学や技術、商品開発などへの応用が開けるかも知れません。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)

番記者のつぶやき

 先日、東京都内でノーベル物理学賞を受賞したシェルドン・グラショー氏(85)とバリー・バリッシュ氏(82)の記者会見に出席しました。グラショー氏は、力を伝える素粒子である「電磁気力」と「弱い力」の統一理論(電弱統一理論)に貢献。物質を構成する素粒子の一種「チャームクォーク」の存在も予言しています。不老不死や完全性の象徴として古代から用いられている絵「ウロボロスの蛇」を使い、「素粒子の研究を進めることで、宇宙全体の構造が分かる」と提唱した人物としても知られています。
 会見前に親交のある日本人研究者がグラショー氏について「とてもユーモアにあふれた先生」と紹介していましたが、全くその通りでした。会見でグラショー氏はこう述べていました。
 「普通、科学者というのは自分が考えた理論がなんとか正しいものであってほしいと悩み、そして希望するものです。しかし、素粒子物理学者は標準理論が間違っていてほしいとも思っています。というのは、答えが見つかっていない質問が非常に多くあるからです。そして非常に多くの疑問が残っているからです。ILCによってそういった疑問の答えが見つかることを期待します」
 間違いを指摘された瞬間は落ち込むことが多いですが、より正しいものを追求したい思いが強いからこそ、「間違っていてほしい」という感情が湧いてくるのかなとも感じました。
(児玉直人)

写真=「素粒子物理学者は標準理論が間違っていてほしいと思っている」。ユーモアあふれる表現を交えながら語るシェルドン・グラショー氏=今月7日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で
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tanko 2018-8-24 9:30
 国際リニアコライダー計画展は、9月5日から7日まで、横浜市のパシフィコ横浜で開かれる。県国際リニアコライダー推進協議会、いわて加速器関連産業研究会、県内自治体が「VACUUM2018真空展」の協力を得て、出展する。
 同真空展は、日本真空工業会、日本真空学会の主催。会場の一角で行われる国際リニアコライダー計画展では、ILC計画の概要、真空技術をはじめとするILCの要素技術、建設候補地の機運の高まりなど、ブース展示や特別講演で紹介される。
 企画展示では、クライオモジュール実寸大ポスターを首都圏で初めて公開する。
 世界最先端の大規模研究施設を世界に一つだけ建設する国際プロジェクトの実現に期待が高まるなか、昨年度に続き同真空展の主催者から本県に出展に打診があったことから、展示会実施が決まった。首都圏で開催される全国規模の展示会や商談会でILCのPR展示を実施するのは、昨年に続き2回目。
 特別講演は同7日午後1時から。「ILCが拓く新技術とイノベーション」と銘打ち、岩手県立大学の鈴木厚人学長が話す。聴講無料。
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tanko 2018-8-19 17:30
 「いわて銀河フェスタ2018」は18日、水沢星ガ丘町の国立天文台水沢キャンパスで開かれた。今年6月から本格運用を始めた天文学専用スーパーコンピューター(スパコン)「アテルイ?」が初めて一般に公開されたほか、天文学研究の世界を楽しく気軽に体験できるコーナーが随所に設けられ、多くの家族連れでにぎわった。


 同キャンパスに拠点を置く水沢VLBI観測所や市、NPO法人イーハトーブ宇宙実践センターなどで構成する実行委員会が主催。胆江日日新聞社などが後援した。同日は朝から心地よい風が吹き、大勢の人たちが天文学をはじめとする自然科学の世界に触れた。
 スパコン「アテルイ?」の見学では、冷却用ファンの回転音が鳴り響く室内で、同天文台天文シミュレーションプロジェクトのスタッフが装置の概要を説明した。昨年度まで稼働していた機械の後継機として導入されたばかりで、一般市民に披露されるのはこの日が初めて。1秒に約3000兆回の計算ができる能力がある点や、国内外で150人の研究者が利用している点などの説明にメモを取りながら聞き入る人もいた。
 子どもたちの人気を集めた体験コーナーの一つがペットボトルロケット。家族と一緒に一関市から訪れた小学1年の千條華子さん(6)は「高く飛んで行って楽しかった」と話していた。
 本館1階では、VLBI観測所の本間希樹所長が所長室を開放して子どもたちからの質問に答えるコーナーも。宇宙遊学館前には宇宙や星空をイメージしたクラフト用品やアクセサリーを販売するブースも設けられた。

写真1=初めて一般向けに公開された天文学専用スパコン「アテルイ?」
写真2=子どもたちの質問に答える本間希樹所長
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tanko 2018-8-18 9:30
地元リスク検証不足/子どもを利用しPR/「復興」絡め意義強調

 一関市や平泉町内の僧侶、社会学が専門の大学教授らによる有志が、素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の建設に関する意見書を日本学術会議(山極寿一会長)に提出した。地元負担などのリスク検証不足や、子どもを利用した誘致PRを問題視。素粒子物理学者や地元行政の取り組み姿勢に苦言を呈しながら、地域住民への懇切丁寧な説明と理解構築の努力がないまま誘致を進めれば「将来に必ず禍根を残す」と主張している。他分野の学術研究者からもILC計画に対しては厳しい指摘が出ているが、有力候補地・北上山地の地元関係者から突き付けられた批判を推進派側はどう受け止め、対応していくのか。
(児玉直人)

 意見書を提出したのは「ILC誘致を考える会」共同代表を務める一関市の僧侶・千坂げんぽう(※)氏(73)ら計6人。同会議に設置された「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」(家(いえ)泰弘委員長)の第1回会合開催日の今月10日付で提出した。
 意見書は「ILCの学術的意義についてはできる限り理解したいと考えている」と前置きした上で?地元で展開している誘致運動の問題点?大規模で複雑な科学的公共事業に伴う内在的問題点――の二つを指摘した。
 取材に応じた千坂氏が特に問題視しているのが、子どもたちを利用した誘致活動。意見書では学校などでの出前授業を例示していたが、このほかにもポスターコンクールの開催、誘致を期待させる内容で小中学生が描いた絵をプリントした印刷物やのぼり旗の作製、国内外の研究者が集う歓迎行事での中学生による英語スピーチ、着ぐるみやキャラクターグッズを使ったPRなども展開されてきた。
 短大教授を務めた経歴がある千坂氏は「子どもたちの側からILCに対する説得が進んでいくため、親や周囲の大人たちが疑問を抱いても声に出しにくい雰囲気が築かれていく」と分析。自然や宇宙の営み、科学全般に興味関心を持ってもらうという範ちゅうを超えているとして、強く批判している。
 財政負担など、学術会議の検討委や文部科学省のILC有識者会議で取り沙汰された不確定要素が、候補地の地元住民に十分に伝わっていない点も指摘。東日本大震災復興の切り札、起爆剤としてILC計画が有効だとする趣旨の主張にも疑問を投げ掛ける。
 千坂氏は「リスク情報が知れ渡っていない中で、『子どもたちのため』『被災者のため』というような雰囲気が醸成されている。議会や地域の経済界、産業界、そして子どもを含む一般住民すべてが賛成している大政翼賛会的な状況にある」と警鐘を鳴らす。
 意見書は“ILC反対”を明確にするものではないと千坂氏は強調。メリットだけが独り歩きするのではなく、リスクやコストも適正に評価し、決定していく仕組みの必要性を訴える。科学と地域が両立する可能性を踏まえた、広範な議論の実現を学術会議側に期待している。
 学術会議事務局によると、提出された意見書は21日の第2回会合で各委員に配布されるという。
 千坂氏を除く意見書提出有志は、山下祐介氏(首都大学東京教授)、茅野恒秀氏(信州大学准教授)、高塚龍之氏(岩手大学名誉教授)、菅野成寛氏(中尊寺釈尊院)、佐々木邦世氏(同寺円乗院)。

写真=日本学術会議に提出した意見書の写しを手にする千坂げんぽう氏
※注釈…千坂氏の名前の漢字表記は、山へんに諺のつくりで「げん」、峰で「ぽう」
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tanko 2018-8-11 12:10
素粒子学界=科学的意義強調、他分野委員=疑問や厳しい指摘

 【東京=児玉直人】北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の国内誘致の是非を議論する、日本学術会議(山極寿一会長)の「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」の第1回会議が10日、東京都港区の日本学術会議2階会議室で開かれた。素粒子物理学以外の分野を専門とする研究者らも名を連ねる同委員会。科学的意義に一定の理解を示したものの、スケジュールやコスト、地元との合意形成に対し、疑問の声や厳しい指摘が相次いだ。委員長には、日本学術振興会理事の家(いえ)泰弘氏が就任した。

 同検討委は物理学のほか、哲学や環境学、土木工学など他の学術分野の専門家を含む10人で構成。下部組織として技術検証分科会を設置しており、7人の分科会委員のうち3人は上部委員会の委員が兼任している。分科会の委員長には、慶応大学先導研究センター特任教授の米田雅子氏が選ばれた。
 同日はILC計画を推進する国際研究者組織、リニアコライダー・コラボレーション物理作業部会共同議長の藤井恵介氏らがILCの研究意義や施設設計について説明。文部科学省のILC有識者会議の委員を務めた大阪大学核物理研究センター長の中野貴志氏らも、有識者会議での議論のまとめについて報告した。
 藤井氏は、物質に質量を与えているヒッグス粒子について「複数種類存在する素粒子かもしれない。新しい物理を発見するためにヒッグスの精密測定の期待が高まっている」と強調。全長20kmの施設規模に見直された現計画は、ヒッグス粒子だけの研究施設と受け止められがちだが「新粒子探索の可能性はある」と説明。見直し後の施設であってもノーベル賞級の発見が期待できるとアピールした。
 これに対し、検討委員会委員からは厳しい質問や指摘が相次いだ。分科会委員で土木工学などが専門の経済調査会理事長・望月常好氏は、ILCの加速器を通り抜ける電子ビームが最後に到達する「ビームダンプ」と呼ばれる設備に関連して質問した。
 ビームダンプでは、水とビームが反応し放射性物質の一種「トリチウム(三重水素)」が発生。人体への影響は弱い放射性物質ではあるが、除去処理が難しく、東京電力福島第1原発事故の汚染水処理を難しくしている存在だ。
 望月氏は「ILC実現には地元との合意形成が不可欠。夢に向かうのはいいが、例えばビームダンプが壊れた場合はどうなるかなど、しっかり説明できなければ、地元との合意は得られない」と指摘。さらに「用地交渉や環境アセスメント、人的体制の確保など相当の時間を要するが、建設前の準備期間が4年となっている。明らかに短い」と疑問を呈した。
 このほかにも「国内の物理学者、素粒子物理学者の間では、ILCに対する賛同をしっかり得られているのか」「(見直し計画に対しては)科学的意義がしっかりあるという説明だが、世間一般では予算削減が目的だと受け止めている人が多い」といった指摘もあった。
 ILCを推進する素粒子物理学者らの間では、ヨーロッパの次期素粒子計画策定作業のスケジュール上、年内に日本政府が前向きな意思表示をしなければ、実現が厳しくなるとみている。一方、同検討委員会は来年7月まで設置することが可能だ。会議終了後、報道陣の取材に応じた家委員長は「課題が多岐にわたっており、しっかりと審議を尽くさないといけない。文科省からも『速やかに』との要請を受けているが、かといって締め切りを設定するわけではない」との考えを示した。

写真=日本学術会議のILC見直し案検討委員会の委員長に就任した家泰弘・日本学術振興会理事(中央)。写真左は2015年ノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章・東京大教授

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