人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2017-11-19 11:20
 第8回全国少年少女チャレンジ創造コンテスト全国大会(25日、東京工業大学)に本県代表として、奥州市少年少女発明クラブのチーム「江刺青龍」が出場する。アイデア満載の発明品で全国の舞台に臨むキャプテンの小野礼司君(12)は「決勝コンテスト出場を目標に頑張りたい」と意気込んでいる。

 創造の楽しさを子どもたちに味わってもらおうと毎年開催されるコンテスト。地区予選を勝ち抜いた全国の小学3年生〜中学生3年生の3人一組60チームが出場する。
 コンテストの課題は「からくりパフォーマンスカー」。動力車と山車を連結させ、環境、宇宙、地元などPRしたいテーマを決めて各チームが工夫を凝らしたパフォーマンスを繰り広げる。
 江刺青龍は、キャプテンの小野君と東海林誉峯(ほだか)君(11)、小野賢悟君(14)の江刺っ子3人で結成。「おらが街 I LOVE 江刺!!」と名付けた作品は、江刺リンゴと国際リニアコライダー(ILC)をモチーフに制作した。
 作品は、リンゴ生産やILCの電子・陽電子衝突の様子などを再現。子どもたちの想像力をふんだんに盛り込み、全国の発明自慢たちとの熱戦に臨む。
 小野君と東海林君は「見た人が笑顔になれる作品を完成させる。良いパフォーマンスをみせたい」と声をそろえ、健闘を誓った。大会当日は江刺甚句の法被を来て出場するという。

写真=全国少年少女チャレンジ創造コンテスト全国大会に挑む江刺青龍
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tanko 2017-11-18 11:10
 ILC誘致を巡る動きについて、ドイツ・マインツ大学の斎藤武彦教授のインタビュー記事が本紙に掲載された。「誘致活動に懸念要素」の見出しが目に留まり、読むとそこに市民への重要なメッセージが込められているように思う。
 斎藤教授は、米国の重力波観測施設「LIGO」にかかわっている3人の物理学者が、ことしのノーベル賞を受賞したことに触れ、それは日本で建設中の重力波研究施設「KAGRA」の敗北であると語った。
 なぜなら、LIGO関係者の受賞は、KAGRAが動きだす前にその目的が果たされたことを意味しているということだった。
 敗北は、ILCでも起きる可能性があるという。当初の計画を10km短縮したILCが、ヨーロッパや中国が考える超巨大加速器との研究争いに勝てる保証はなく、後れを取れば、莫大な費用やエネルギーが無駄になるというわけだ。
 斎藤教授の指摘は、地元住民への関係情報の少なさ、実現さえすればバラ色の未来が訪れるかのように喧伝する誘致関係者や自治体担当者への苦言に思える。
 記事を読み頭をよぎったのは、最終保管場所が定まらない放射性廃棄物の存在である。仮に誘致が成功し、さしたる成果もなく研究期間を終えるならば、世論次第ではその施設への転用だってあり得るのではないか。
 ここ1年が政府判断に向けた正念場と言われる中、杞憂であればいいが、あらゆる事態を想定して臨まないと、子々孫々までの責任が負えなくなる。
 KAGRA敗北の真偽はいずれにしても、「ILC実現を強く願うあまり、冷静な判断や住民目線の対応を見失っては本末転倒」との斎藤教授の言葉の意味は重いのではないか。
菊地 うん一(仮名=64歳、江刺区)
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tanko 2017-11-17 11:00
 放射線以外にもILCでは気を付けなくてはいけないことがあるように思います。岩手の美しい自然環境が壊されるようなことはないのでしょうか。

A:極力、悪影響を与えない対策がとられます。

 前回は放射線に関する安全対策などについて説明しました。ILCでは、ほかにも注意すべき点があります。
 一つ目は「液体ヘリウム」の取り扱いです。ILCでは液体ヘリウムを使い、電子や陽電子を光速近くにまで加速する管(加速管)をマイナス271度にまで冷やします。
 なぜ液体ヘリウムを使って冷やすかというと、ニオブと呼ばれる金属で作る加速管を超伝導状態(電気抵抗がゼロになり、電流がいつまでも流れ続ける状態)にして使用するためです。
 もし液体ヘリウムが装置の外に漏れ、通常の室温まで暖められると気体に変わり、体積が約700倍に膨れ上がるのです。
 気体となり膨れ上がったヘリウムが、加速管などの装置を壊さないよう、安全用のバルブなどが装備されます。万が一、液体ヘリウムが漏れた場合は、安全バルブや排気ダクトを通して外へ出ていくので、「容器が爆発する」というようなことはありません。
 ヘリウムは軽い元素で、お祭りの屋台などで売っているフワフワ浮かぶ風船にも使われています。燃えることもなく、人体に影響はありません。すぐに空へと上昇していき、地上にたまることはありません。
 二つ目は消費電力についてです。ILCの運転には、約16万kWの電力を使うと見込まれています。一見、大きな数字に感じますが、これは東北電力で供給している電力の数パーセントの規模です。ILCを運転したからといって、工場や家庭への電力不足が生じるという事態は考えられません。冷房や暖房などを多く使う夏や冬においても、心配はないと思います。
 ILCのような大型の装置は年に1回、定期点検が義務付けられています。電力需要が増える夏や冬に合わせてILCを停止させ、点検を実施するなどの対策も考えられています。
 最後は、自然への影響についてです。ILC本体装置は、地下に設置されます。トンネルは幅約10m、高さ約5mのかまぼこ型のトンネルです。このほど示された建設計画案では、約20kmの長さに整備して実験を進め、状況を見ながら約30km、最大で約50kmの長さにまで延長することも考えられています。
 大規模な施設とはいえ本体は地下に造られるので、地上には液体ヘリウムの冷却設備や一部の付帯設備、研究棟や事務棟、会議室などの建設が考えられます。これら建設に当たっては、事前に「自然環境への影響調査」を行い、極力悪影響が及ばない対策がとられます。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

“番記者”のつぶやき
 奥州市の西側にある胆沢ダムを建設するときには、近くの山から採取した岩や土を大量に使ってダムの堤体(水をせき止める本体)を造りました。水没する地域の木も伐採しました。同時に工事を進めた国は、地元住民の皆さんと共に周辺の自然環境を保護する取り組みを積極的に行いました。工事を進める人たちと、地元の人たちとの良好な関係が築かれていたことで「反対運動は皆無に等しかった」と、地元関係者の一人は話しています。とてもいい事例として、ILCを建設する際には生かしてほしいものですね。
(児玉直人)

写真=加速管を収納する「クライオモジュール」と呼ばれる装置(試作品)の断面。加速管のほか液体ヘリウムを送り込んだり、回収したりする管なども取り付けられる
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tanko 2017-11-15 12:20
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」計画を巡り、研究者による国際組織は今月「ステージング」と呼ばれる段階的な建設方針を了承した。新方針に準じて北上山地に建設した場合、一関市東部に施設全体が収まり、奥州市内にILC本体は当面造られないことが予想される。とはいえ、ILC本体のみで国際研究都市が成り立つわけではなく、居住地域や教育設備などさまざまな機能を周辺に配置しなくてはならない。奥州市の誘致関係者は「市域に入るか否かによって、ILCと共に歩む姿勢が変わるものではない」と強調。日本政府の国内誘致判断が来年に迫るとされる中、国際研究施設を迎え入れるにふさわしい都市づくりをより具体的に検討していく必要性を訴える。
(児玉直人)

 「ステージング」は、素粒子の衝突現象を捉える検出器を中心に、両端へ直線10km、全長約20kmによる規模で実験をスタートさせ、段階的に施設規模(全長距離)を拡張していく手法。当初は全長約30kmでの始動を想定し、将来的に約50kmまで伸ばす構想を描いていたが、始動時の規模を一段階短く設定することで、約1兆円とされる初期投資コストの抑制を図る狙いがある。
 ILCの具体的な建設場所や施設の配置場所については正式に公表されていない。日本政府に至っては北上山地を候補地と認めているわけでもないが、本紙はこれまで研究者らが示してきた諸資料などを基に、ステージングで示された全長20kmの施設規模を推測した。
 すると、南端は一関市の室根山付近、北端は阿原山南側の一関市大東町鳥海地区という姿が浮かび上がった。ちなみに全長約30kmに拡張されると、北端部は江刺区伊手の中心部南側、同50kmだと市立人首小学校の北西にまで達する。
 阿原山からほど近い江刺区の伊手地区センター。2013(平成25)年に、ILCに携わる国内外の研究者らが視察に訪れたことがある。地質調査等に伴う地元向けの説明会では、「ぜひ実現を」という住民の期待感が漂った。
 境田洋春センター長は「伊手地区の地下にILCができるという大きな期待がある」と語る。地上からは見えない地下に造る実験施設とはいえ、世界最先端の研究が「わが地元」で行われているという誇りは、ある意味で地域住民の力にもなり得る。
 「ソフト面に気持ちの高まりをシフトして、地域の子どもたちの将来にILCをどう生かせるか、地域として何ができるか、みんなで考えていかなくてはいけない。そのためにも、政府が早く誘致を判断してほしい」と願う。
 来年3月で任期満了を迎える市議会。ILC特別委員会の渡辺忠委員長は、ステージング方針を踏まえ議会としての協議や国への要望活動の実施を検討している。「一番良くないのは『奥州市にILCが届かなかったから、これで終わり』という雰囲気になり、受け入れやまちづくりに対するトーンが下がってしまうこと」と警戒。「研究者の住環境や関連企業の受け入れなど、周辺部が果たすべき役割、市民や地元企業が活躍できる場を形成しなくてはいけない」と訴える。

図=ILCの建設想定エリア
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tanko 2017-11-11 21:30
 奥州市江刺区東部を含む北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)について、世界の主要物理学者らによる二つの組織は日本時間の10日未明、「ステージング」と呼ばれる段階的な建設方針について、正式に支持する声明を発表。日本が主導権を持った国際プロジェクトとして時宜を得て実現することを奨励した。世界の研究者たちから、あらためて日本政府側にILC誘致のゴーサインを求めるボールが投げ掛けられた格好だ。

 声明を発表したのは、世界主要加速器研究所の所長や研究代表者らで組織する「国際将来加速器委員会(ICFA)」と「リニアコライダー国際推進委員会(LCB)」。両組織は、国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」が提案していたステージングについて協議していた。
 ステージングを支持する声明は、同セミナー最終日の9日午前11時すぎ(日本時間10日午前2時すぎ)に発表された。日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)によると、今セミナーでICFA委員長職を退くヨアキム・ムニック氏(ドイツ電子シンクロトロン研究所)は「世界の主要な素粒子物理学研究者の意見が、このように一致したことは非常に喜ばしい。素粒子物理学はヒッグス粒子の発見のような、世界の注目を集める目覚ましい成果を挙げてきた。次のステップは、より強力な加速器を用いて根源的な謎をより深く解明するためのさらに国際的な取り組みとなる。世界の科学者はこの心躍る未来に向け一致団結して取り組んでいく」と述べたという。
 ステージングの正式支持を受け、文部科学省のILC有識者会議は、声明やステージングの内容を精査した上で、次回以降の協議を進める見通し。東北ILC準備室による地元受け入れ態勢の方針については、年内にも公表できるよう調整を進めるという。


 【解説】 加速器を使った素粒子物理の実験では、加速させる粒子に与えるエネルギーの大きさによって、研究対象が異なってくる。物理の世界では、電子1個が1ボルトの電圧で加速される時のエネルギーの大きさを「1電子ボルト」と呼んでおり、単位は「eV」が用いられている。素粒子実験施設の加速器では、光の速さに近い状態で粒子を加速させるため、エネルギーの数値も膨大となる。
 「ステージング」では、全長20kmの施設規模からILCをスタートさせるが、この規模で得られるエネルギーの大きさは250ギガ電子ボルト(250GeV)。ギガは「10億」の意味なので、250の10億倍のエネルギーが得られる。
 250GeVのエネルギー領域では、物質に質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」の詳細な研究が可能。「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれる未知の素粒子が見つかるかもしれないという。
 加速器の台数を増やし、全長をさらに伸ばせば、エネルギーはさらに大きくなる。当初計画の30kmでは、ヒッグス粒子を二つ同時に生成できる。南端が宮城県気仙沼市まで達する50kmは、人類にとって未知の領域だ。
 空港の滑走路を延伸するような施設拡張は、直線型加速器施設であるILCだからこそ可能なもの。欧州合同原子核研究機構(CERN、スイス)や中国で計画されている大型加速器は、円形のため、同様の拡張をするには、直径を長くした施設を新造するしかない。拡張性が劣る上、ILCでは30km以上の拡張で実現できる高エネルギー領域の研究は不可能という。
 「段階的」「多段化」という意味合いを持つ「ステージング」。研究者らは、規模縮小やILCのレベルを下げることではないと強調する。
 だが、ILC誘致をめぐるこれまでの動向では、約1兆円のコストに対する懸念が出たこともあって、「ステージング」より「コストカット」「ダウンサイジング」という印象がぬぐえない。良かれと思い取り組んだ支出抑制が、「ILCの魅力低下」と映ってしまっては元も子もない。
 「ILCの価値は何ら変わっていない」。今、必死に熱意を見せるのは候補地の地元関係者や子どもたちではない。この分野に関係する日本や世界の研究者であろう。候補地周辺や一部の研究者のみならず、日本社会全体にILCの必要性を語り掛けてほしい。
(児玉直人)
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tanko 2017-11-10 20:40
 北上山地が有力候補地となっている素粒子研究施設「国際リニアコライダー(ILC)」誘致を意識し、地元企業にILC関連産業への参入を考えてもらうセミナーが9日、江刺区内のホテルで開かれた。
 市と市ILC推進連絡会議が主催。市内企業や商工団体のほか、市議会議員や行政職員ら約100人が集まった。
 セミナーは2部構成。前半は、岩手大学・東北大学客員教授の吉岡正和氏が、ILCプロジェクトの現状と関連産業の参入に向けて講演した。
 冒頭、吉岡氏は重力波研究施設の立ち上げなどに貢献し、今年のノーベル物理学賞に輝いた米国のバリー・バリッシュ氏を紹介。バリッシュ氏は、米国の重力波観測施設「LIGO(ライゴ)」の研究責任者だった一方、ILCの技術設計報告書をまとめ上げる国際共同設計チームの最高責任者を務めた人物。受賞決定後にILC関係者に寄せられたメッセージには、ILCと同様、LIGOもコストや技術面で批判を受けたとしながら「必要なのは不屈の努力と忍耐、支援、そして少しの幸運だ」と記されていたといい、吉岡氏は「私たちも肝に銘じてやらなくては」と気を引き締めた。
 「ILCは、欧州合同原子核研究所(CERN、スイス)と車の両輪のように動くことで、新たな発見を目指している」と吉岡氏。「CERNには2500人が勤務し、うち2000人はハイレベルな技術者たち。彼らは定年後、近隣の企業や大学に入るケースが多い。ILCでも同じようなことが想定され、この地域の企業や大学に与える影響は素晴らしいものがある」と強調した。
 その上で「彼らが住みたいと思えるような環境を整える必要がある」と述べ、ILCの立地と地域活性化との関係性を考えていく必要性を訴えた。
 後半は、いわて産業振興センターの今健一・ILCコーディネーターが、いわて加速器関連産業研究会の取り組みについて紹介した。

写真=ILCと関連産業参入などについて講演する吉岡正和氏

日本のKAGRA「失敗」ではない(吉岡氏、本紙報道に見解)

 江刺区で開かれたILCセミナーで講師を務めた吉岡正和氏は講演の前段、本紙10月27日付に掲載されたドイツ・マインツ大学教授の斎藤武彦氏のインタビュー記事で、米国の重力波観測施設「LIGO」の成果がノーベル賞受賞につながり、「建設中の日本の重力波研究施設KAGRAにとっては敗北だ」とする趣旨の考えが述べられたことに対し、「失敗でもなんでもない」と指摘した。
 吉岡氏は「KAGRA(カグラ)は来年にも動きだす。今後、LIGOや世界中の重力波研究施設と連携し同時検出することで新たな発見が期待される、非常に楽しみな装置だ。重力波研究はILCと目的が共通するところがある」などとアピールした。
 斎藤氏は本紙インタビューで、ILCが当初計画よりも短い直線20kmの規模で建設を始めることにより、中国で計画されている素粒子実験施設や欧州のCERNの優位性が高まり、次々と新成果を出す可能性があると指摘。LIGOとKAGRAの間で起きたノーベル賞受賞のような「成果の差」が、ILCでも起きかねないと懸念していた。
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tanko 2017-11-10 11:00
 ILCでは電子と陽電子という素粒子を光速に近いスピードでぶつけるという話でした。でも、それってとても危ないんじゃないですか? 原発事故みたいなことが起きないのか心配です。
A:原発事故のように内部が溶ける(メルトダウン)ようなことは考えられません

 電子と陽電子はほとんど重さがない素粒子(計算すると約0.00000000000000000000000000000091kg)です。たとえ光の速さに近い速度で衝突しても、発生するエネルギーは、0.3ジュールぐらいしかありません。1立方cm(1?)の水の温度を1度上げるのに必要なエネルギーが4.2ジュールですから、非常に小さなエネルギーでしかないことが分かります。従って電子と陽電子の衝突によって発生するエネルギーの大きさに対する心配はありません。
 むしろ衝突しなかった電子や陽電子が持っているエネルギー(熱)を下げる方が課題です。このエネルギーは「ビームダンプ」と呼ばれる水槽によって処理されます。
 放射線の発生と被ばく対策も気がかりだと思います。ILCは放射線発生装置であることには間違いありません。運転中、加速器トンネル内は電子のエネルギーが高いため、電子ビームがパイプや容器の壁に当たったりすると「制動放射線」と呼ばれる一種のX線が放出されます。
 衝突しなかった電子と陽電子は、先ほど紹介した「ビームダンプ」という水槽に導かれ消滅しますが、水槽の水と反応し、わずかですが放射性物質が生成されます。しかし、これらの放射性物質は数時間足らずでなくなります。
 最も特徴的なことは、これら放射線の発生は、加速器の運転停止とともに止まります。原発事故のように、人間の手で止めたくても止められない――というようなトラブルはまず起きないと思います。
 また加速器トンネル内の空気中のチリなどが、放射化して放射線を出す物質になる場合があります。しかし、これら放射性物質が外部に直接放出されることはありません。加速器トンネルやアクセストンネル内の空気は、必ず排気ダクトを経由して放出されることになっています。この排気ダクトにはフィルターや放射線モニターなどが設置されおり、これによって一般大気への汚染空気の排気の監視や除去が行われます。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

“番記者”のつぶやき
 「衝突」「ぶつける」という言葉だけを聞くと、まるで交通事故でも起きたかのような印象を受けますが、電子や陽電子の特長やエネルギーに関する知識が分かれば、特段怖いことではないと感じることができるのではないでしょうか。
 放射線管理に関しては、東京電力福島第1原発事故で私たちが受けたショックが大きいため、特に心配に思う人が多いと思います。原発のような事故がILCで起きることは、システム上、考えにくくても「なぜ大丈夫なのか」「万が一のときはどんな対策を取るのか」ということは、特に科学の専門知識がない一般の人たちに向けて丁寧に説明し、理解してもらう努力を続けてほしいものですね。
(児玉直人)

写真=高エネルギー加速器研究機構にある超伝導リニアック試験施設(STF、Superconducting RF Test Facility)の入り口。停止中は放射線が出ないので中に入れます。中に人がいる時には、装置が動かないようにするなど、厳重な安全対策が取られています(茨城県つくば市)
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tanko 2017-11-5 11:40
 平野達男参院議員(岩手選挙区)らILC議連所属の国会議員3人はこのほど、フランスで開かれた国際リニアコライダー(ILC)関連の国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2017」にインターネットを通じて参加。平野氏は、来年1月に議連の欧州訪問を計画していることを伝え、ILC実現に向けた日欧の議会間、政府間の議論の発展に期待を寄せた。
 同会議は、ドイツに接しているフランス北東部の都市ストラスブールで10月23日から5日間開催。ILCのように直線型加速器によって素粒子実験を行う物理学者らが集まる定例国際会議で、リニアコライダー・コラボレーション(LCC)が主催している。昨年は盛岡市が会場だった。
 同議連幹事の平野氏は、27日に行われたILCの準備状況などを紹介する会議に、同議連会長の河村建夫衆院議員(山口3区)、幹事長の塩谷立衆院議員(静岡8区)と共に参加。当初は直接現地で登壇する計画だったが、衆院解散に伴う総選挙が行われた関係もあり、ネット中継で対応することになった。平野氏は東北大学大学院=仙台市=の山本均教授の研究室から、河村、塩谷両氏は東京からネット中継でメッセージを送った。
 平野氏は、ILC有力候補地となっている北上山地の特性や周辺環境などを紹介しながら「壮大な科学的目標に向け多くの科学者がこの地に集い、共同研究を行うことは異文化の相互理解や世界平和にも貢献するだろう」と期待。「来年はILC実現に向けたまさに重要な1年。議連としては、1月初めに欧州へ参るための日程調整を進めている。この機会に日欧間で議会、政府間での議論が発展していくことを願っている」と述べた。
 ネット中継をサーポートした山本教授によると、ヨーロッパ側の関係者からは「ILCには興味があり、ぜひ一緒に進めたい」との意思表明があったという。
 現地では東北ILC準備室長の鈴木厚人・県立大学長が、東北地方でのILC受け入れに向けた準備動向について発表した。

写真=LCWS参加の研究者らにメッセージを送る平野達男参院議員(提供)

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