人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2017-2-10 9:40
国際協力 間近に

 奥州市教育委員会が主催する本年度の「中学生科学体験研修」はこのほど、茨城県つくば市を訪問する2泊3日の日程で実施された。旧水沢市時代から続く教育研修事業だが、江刺区東部の北上山地が素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)の有力候補地に浮上してからは、同研修が果たす役割の重要性はますます高まっている。14回目となる今回、本紙は初めて現地の研修を取材。ILC計画と密接な関係がある高エネルギー加速器研究機構(KEK)での様子にILC関連装置の開発状況も加えながら、数回にわたり連載する。
(児玉直人)

 旧水沢市が同研修事業を始めたのは2003(平成15)年度のこと。同年5月、ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊氏が、市内の中高生を対象に講演したのがきっかけだった。
 2006年2月の市町村合併からしばらくは、水沢区内の中学生に限定していたが、2008年度からは奥州市全体の生徒から希望者を募る形に。初年度9人だった参加生徒は少しずつ増え、12回目の2014年度以降は31人で推移している。学校によって希望者が多くなるケースもあり、参加動機などを基に厳選するという。
 本年度の研修を担当した市教委の小松山浩樹指導主事は「参加経験のある先輩やきょうだいの話を聞き、『行きたい』『見てみたい』という子が多いようだ」と説明。毎回、研修から戻って数週間後に市教委による報告会が行われるが、これとは別に参加生徒の学校によっては独自に校内報告会を開いているケースもあり、後輩たちに研修の魅力が伝わっているようだ。
 最近はILC計画の存在も、少なからず参加を後押しする要因になっている。市ILC推進室は小中学校へのILC出前授業を展開しており、研究内容や誘致する意義は、市内の児童生徒にある程度浸透してきている。
 「申込書を見ると、ILCに特化した動機を明確に書いている生徒たちもいる」と小松山指導主事。出前授業で聞いた話や資料映像で触れた世界を実際に見て、学び、確かめる機会にもなる。
 市立江刺第一中の菊地舞桜(まを)さん(14)は「英語が得意だし、理科も好き。ILCに来る外国人のためになる仕事が、自分が暮らす地域の近くでできたらうれしい。日本の文化も伝えたいし、逆に海外のいい文化や考え方も地域のために取り入れることができたら素晴らしいと思う」と参加理由を話してくれた。
 研修先のKEKや宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターは、海外の研究機関と連携したプロジェクトに数多く関与している。そのような現場を直接見ることは、理系の知識を育むことだけにとどまらず、ILCが地域社会にもたらす国際化、教育・文化面への波及効果に対し、イメージを膨らませることにも結びついたかもしれない。
(つづく)

写真=電子、陽電子の衝突現象をとらえるKEKの「Belle検出器」(矢印部分)。写真奥の通路を歩くのは、今回の科学研修に参加した生徒たち。通路の手すりには、検出器の開発に携わっている研究者の出身地や所属研究所の所在地を示す国旗が掲げられている。人種や言葉、文化の違いを越え、一つの目標に向かって活動していることがうかがえる
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tanko 2017-2-9 10:10
 奥州市議会のILC誘致及び国際科学技術研究圏域調査特別委員会(渡辺忠委員長、議長を除く全議員で構成)は5日、ILCサポート委員会(ビル・ルイス委員長、事務局・市国際交流協会)との懇話会を市役所本庁で開いた。海外の文化や考え方、生活習慣に認識を深め、ILC(国際リニアコライダー)誘致実現に向けた取り組みに生かす狙い。市民と外国人が共に暮らしやすい地域の在り方を探った。

 同サポート委は2013(平成25)年1月、外国人市民で設立。市長や県知事にILC誘致に関する提案書を提出してきたほか、複数のILC関連会合にパネリストや講師として参加。奥州市をインターネットで海外に紹介する動画制作への協力など幅広く活動している。現在はアメリカやイギリス、フィリピン、ペルーなど9カ国出身の20人で構成する。
 懇話会には、いずれもアメリカ出身で水沢区在住のルイス委員長、ディーン・ルツラーさん、アンナ・トマスさんの3人が出席した。
 ルイス委員長は、ILCの実現で世界各国から訪れる学者や技術者のために、英語以外の言語で対応する必要性をアドバイス。外国人と地域で暮らす市民に対し、「外国人に日常生活を合わせてほしいのではなく、ルールやマナーを教えてほしい」と話した。
 奥州市ILC国際化推進員も務めるトマスさんは、外国人市民が日常生活で不便に感じている部分を説明。「110番」「119番」通報で相手と意思疎通ができない不安を挙げたほか、病院や金融機関が多言語表記になることを願った。
 市議とサポート委メンバーが3班に分かれ、市民と外国人が共に暮らしやすい地域に向けてアイデアを出し合う話し合いも実施。各班からは「病院スタッフに外国人を採用し、警察や消防には外国語対応可能な人員の配置が必要」「ケーブルテレビでの外国語放送」「方言を教える」「地産地消の料理を教える」など、さまざまなアイデアが寄せられた。
 渡辺委員長は「ILC誘致と平行して取り組むテーマになりそうなアイデアも多い。市当局にも提案しながら幅広く取り組みたい」と話した。

写真=市民と外国人が共に暮らしやすい地域づくりへアイデアを出し合う市議やILCサポート委メンバー
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tanko 2017-2-4 10:10
 トヨタ自動車系列の自動車工場で使用する部品をトラックで輸送している愛知陸運?(本社・愛知県小牧市、星野晴秋社長)は、国際リニアコライダー(ILC)のPR広告を貼り付けたトラックを走行させる。2日、愛知県内で披露された。
 同社は震災復興支援などの観点から、沿岸地域の風景や世界遺産・平泉、橋野鉄鋼山の大型写真を貼り付けた「ラッピングトラック」を昨年4月デビューさせた。愛知県内から金ケ崎町西根森山のトヨタ自動車東日本岩手工場まで走行している。
 これまで左側面の下部と後面には、いわて国体・いわて大会のラッピングが施されていたが、両大会の終了に伴い同じ箇所にILCのPR広告を貼り付けた。衣替えの必要経費は県ILC推進協議会(谷村邦久会長)が支援した。
 同社には、金ケ崎町のアスパラガスやJA岩手ふるさと管内の農作物をPRするラッピングトラックもあり、東京と静岡の間で走行しているという。

写真=ILCのラッピング広告が施された愛知陸運のトラック
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tanko 2017-2-3 10:10
 ILC有識者会議は、6回目の会合で作業部会をまた新設した。検証すべき事柄はもちろん重要なことだ。
 ただ、有識者会議設置当初から指摘されていながら、本当に解決するつもりがあるのかと首をかしげたくなる「最大の課題」が手つかずのような気がする。「国民理解の形成」だ。
 なぜ国民の間にILCが浸透していないのか――。問い掛け自体は実に単純だ。本紙も機会を見つけては、ILCの周知の在り方について取り上げてきた。
 「今回もそういう指摘はあったが、それに対する回答は『その通りですね』という程度だった」。傍聴した市担当職員はそう話す。震災復興、地方創生、教育など今の日本や地域が抱えている問題とリンクさせた議論がもっと前面に出てきていいはずだが、まだまだ「物理のお話」に終始している。ILCを身近な話題、問題と捉える人はどれだけいるのだろうか。これでは国民の関心は高まるはずがない。
 五輪や新市場など「東京」の問題が全国的な関心を呼んでいるのは、生活に身近なスポーツや食が関係しているからではないか。「基礎科学があるから今の生活が……」ということは、説明されてはじめて分かること。直感ではない。
 もし政府がゴーサインを出さなかったとき、「国民理解の形成が不十分だから」との理由が挙げられたとしても、今の状況だったら何ら不思議ではない。
(児玉直人)
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tanko 2017-2-3 10:00
 文部科学省の国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議(座長・平野真一名古屋大学名誉教授)は、ILCを実現する上での国内体制の在り方や管理運営体制について検証する。1日に東京都千代田区の同省5階会議室で開かれた第6回会合で、関連事項を専従的に検証する部会「体制およびマネジメントの在り方検証作業部会」設置を了承した。同有識者会議の作業部会設置は四つ目となる。

 同有識者会議はILCの日本誘致を実現する上で解決すべき課題などを検証。政府判断の参考材料となる。
 会議を傍聴した奥州市ILC推進室の担当によると、同日の会合には高エネルギー加速器研究機構(KEK)の山内正則機構長、東京大学素粒子物理国際研究センターの駒宮幸男センター長が招かれた。
 山内機構長は、文科省と米国エネルギー省との協議経過を報告。課題となっている膨大な建設費を削減するため、今年4月からKEKと米国のフェルミ国立加速器研究所(FNAL)が共同で、加速空洞に用いる素材の低価格化などの研究を開始することを紹介した。ILCでは電子、陽電子が駆け抜ける加速空洞の製造に「ニオブ」と呼ばれる金属を使用する計画だが、価格が高いことから純度を落としたニオブでも必要な能力を発揮できるかどうかを研究する。
 駒宮センター長は、昨年12月に盛岡市で開かれた国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2016」で明らかにした、段階的な施設建設によるコスト抑制策を説明した。当初は全長31kmの直線トンネルを掘り、実験をスタートさせる予定だったものを同20kmに短縮。コンパクトサイズで実験を開始する内容だが、出席委員からは「建設費用は削減されるだろうが、維持費用も減らすことはできるのか」「1兆円だった建設費がたとえ半額になっても金額は大きい。国民は果たして受け入れるだろうか」といった質問や疑問も投げ掛けられたという。
 設置を確認した四つ目の作業部会は、KEKや国内の関係大学の研究者を中心とした国内体制の在り方、国際研究所の意思決定メカニズムなどを検証する。部会座長は、元国立天文台長の観山正見・広島大学特任教授が務める。

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