人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2015-4-27 9:40
 国際リニアコライダー(ILC)立地評価会議で社会環境基盤専門委員を務めた中央大学理工学部の石川幹子教授はこのほど、東京都文京区の同大学後楽園キャンパスで胆江日日新聞社の取材に応じた。石川教授は「ILCを取り巻く都市デザインは国や科学者が考えるものではない。地元住民が自ら考え、豊かな自然や歴史・文化といった『地域の財産』に気付き、世界に向け発信しなくてはならない」と指摘。住民参加型のワークショップなどを通じ、候補地周辺の地域が持つ潜在的な良さを生かしたまちづくりを進めるよう提唱している。
(児玉直人)

 ILC計画をめぐっては、素粒子物理学の研究者組織が科学的意義を強調。産業界でも経済的波及効果や関連産業への参入に期待を高めている。文部科学省では、日本誘致判断の参考材料を検討する有識者会議が諸課題の検証を進めている。
 ILCを誘致する上では、まちづくりも重要な要素となる。国際都市形成という過去に例のない対応が求められ、構想を練るには相当の時間と議論が必要になることが予想されるが、表立った動きや議論の盛り上がりはない。
 行政や大学の一部関係者の担当者レベルでは内々に検討が進められている。奥州市は今年12月中に、まちづくりビジョンを策定する予定だが、その方針は3月下旬に市議会に説明したばかりだ。
 石川教授は「のぼり旗や看板を設置して地元の熱意を伝えているが、何か空回りしているような気がする。それに科学的意義や経済的発展など、いわば一部分だけの話題で盛り上がっているかのようだ」と指摘する。
 巨大なプロジェクトを迎え入れる上では、環境や人口減、社会資本の老朽化といった時代が抱える課題を考えなければならないという。「今までの地域は拡大路線を歩んできた。今後は持続可能な社会と地域固有の文化の継承、そして震災復興を意識する必要がある。北上山地に潜在的な魅力があり、それを生かしたまちづくりをすることに地域の皆さんは早く気付いてほしい」と訴える。
 具体的な取り組み方法として石川教授は、住民参加型のワークショップを提唱。地域の豊かな自然や散居集落といった景観、そこに根付いた文化や地場産業などを財産と位置付け、次の世代に財産を引き継ぐための方途や対策を考えていくという。小さな集落単位で行われるワークショップの積み重ねが、地域全体の大きな都市計画を形成していく。
 「外国人の研究者たちを迎え入れ、彼らの生活を支えるのは地域の役目であり、研究者組織や国にはできない仕事。地域の方々が考えて実践し、世界に発信しなくてはいけない」と石川教授。「ILCが来る来ないに関係なく、地域の将来を考える取り組みは必ずやらなければいけない。住民と行政、大学などが一緒になって意見を交わし、その結果を発表し合ってほしい。ワークショップは、出だしさえしっかりすれば、意外とおもしろい。ぜひ実践してほしい」と呼び掛けている。

写真=胆沢平野の散居集落。景観やそこに根付く歴史と文化は「地域の財産」と石川教授。ILCとまちづくりを考える上で、意識する必要があるという(資料)
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tanko 2015-4-26 10:50
"Observing Life in Oshu (Visit by PR Staff from Seven Countries and Nine Research Centers)"
In English http://www.city.oshu.iwate.jp/htm/ilc/english/news.viewer.html?prm=2015042600

 岩手県入りしている世界各国の素粒子物理研究所の広報担当者は24日、奥州市内を訪ね、大型商業施設を視察するなど住環境を把握した。水沢区の奥州宇宙遊学館では、県内在住外国人で構成するILCサポート委員会(ビル・ルイス委員長)との意見交換も行い、ILC計画に関する一般住民への効果的な周知方法などを探った。

 広報担当者の本県訪問は、岐阜県で行われた国際会議に合わせて企画。23日から2日間の日程で、初日は一関市内でILC建設候補地の北上山地などを視察した。
 奥州宇宙遊学館での意見交換には日本を含め、カナダやドイツ、中国、イギリスなど7カ国9研究機関の11人が参加した。
 ILC計画を効果的に一般住民へ周知する方法として、広報担当者の1人は「ILCをテーマにしたイベント開催だけでは不十分」と指摘。ILCとは関係がない行事の中にサプライズでILCイベントを組み込むことで、「科学に抵抗がある人にも触れてもらいやすくなる」などと提案した。
 ルイス委員長も「ILCは知れば知るほど、すごさが分かる。サプライズイベントはとってもいいアイデア。サポート委員会の次のミーティングでも話し合いたい」と共感した。
 席上、奥州市国際交流協会が市内高校生1408人を対象に実施したアンケート結果も紹介。ILC誘致で心配な事柄に「環境変化」「有害物質の発生」なども寄せられたことに触れ、イギリスのステファニー・ヒルズさんは「分かりやすく論理的な説明で不安を払拭(ふっしょく)してほしい」と要望した。
 本県の印象について、カナダのメリッサ・バルックさんは「ILC誘致に向け、官民挙げてサポートしていることが伝わってきた」。中国の郭立軍(グオリジュン)さんは「岩手は自然も地質も素晴らしい。地域住民と自治体、サポート委が努力しており、ILC誘致を頑張ってほしい」と話した。
 同日視察した水沢区佐倉河の商業施設コープアテルイでは、100円ショップが好評で、「たくさん買う人もおり、楽しんでいた」(奥州市ILC推進室)という。

写真=ILCサポート委員会と意見交換する世界各国研究機関の広報担当者たち
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tanko 2015-4-23 10:40
"Calling for the Early Realization of the ILC: Researchers the World Issue Tokyo Statement"
In English http://www.city.oshu.iwate.jp/htm/ilc/english/news.viewer.html?prm=2015042300

 【東京=児玉直人】 国際リニアコライダー(ILC)計画を推進する国際研究者組織、リニアコライダー・コラボレーション(LCC)最高責任者のリン・エバンス氏は22日、ILCに携わる国内外の研究者を代表し、ILCの早期実現などを主張する「東京宣言」を発表した。同日、東京大学本郷キャンパス・伊藤謝恩ホールで開かれた「ILC東京シンポジウム」の席上で示された。巨額な費用と技術の国際分担が可能になる仕組みづくりについて、政府間協議が加速するよう研究者サイドも努力する姿勢を明確にした。

 シンポジウムは、20日から24日かけ茨城県つくば市で開かれている国際会議「アジアリニアコライダーワークショップ(ALCW)2015」に合わせ企画。LCCと、日本の産学官連携ILC誘致組織・先端加速器科学推進協議会(AAA、会長=西岡喬三菱重工相談役)が主催し、本県関係者を含め300人余りが参加した。
 同宣言は、LCCとALCW2015に参加している研究者の総意として発表。ILCが早期に実現すべき計画であることを強調するとともに、ILC建設への意欲や実現に向けた科学者界の取り組みなども盛り込んだ。
 エバンス氏は「われわれはILCの実現を切望しているが、現在、日本政府においてプロジェクトの評価をしていることについて深く謝意を申し上げる」とした上で、「国際的な費用や技術分担の仕組みを構築する必要がある。政府間協議の促進へ私たち科学者が役立つよう努力する」と述べた。
 シンポジウムでは、日本創生会議座長で前岩手県知事の増田寛也氏が、人口減問題と地方創生を絡めながらILC誘致の意義を主張。続くパネルディスカッションでは、LCCのエバンス氏や東京大学の相原博昭副学長(物理学)らが登壇し、ILCの科学的意義や日本誘致実現をめぐり意見を交わした。
 相原氏は文部科学省が設置しているILC有識者会議について「文科省が一つのプロジェクトにこれほど真剣に議論を尽くすことは、かつてなかった。海外から見れば、日本政府の動きがスローに見えるかもしれないが、周りとの調和を図りながら進めている。もどかしいかもしれないが『やるな』という人は一人もいない。道筋さえ見えるようになれば、個人的な意見だが実現すると思う」との見解を示した。
 エバンス氏も「(ILCを)必ず日本で造れると確信している。技術基盤もある。来年の今ごろには、(日本政府による)よい結果が出てほしい」と期待を込めた。

写真=ILCの日本誘致実現に対する期待などの声が上がった国内外研究者によるパネルディスカッション(東京大・伊藤謝恩ホール)
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tanko 2015-4-22 8:55
"MEXT Panel of Experts Meeting " (Article Summary)
In English http://www.city.oshu.iwate.jp/htm/ilc/english/news.viewer.html?prm=2015042200

 【東京=児玉直人】 文部科学省の国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議(座長・平野真一名古屋大学名誉教授)の第3回会合は21日、東京・霞が関の同省3階特別会議室で開かれ、科学的意義やコスト、人材などに関する二つの作業部会が中間報告した。海外との費用負担の枠組みや国民理解の形成、コストの考え方に対しさまざまな課題が示されたことから、今後さらに議論を深める方針。年度内に政府の日本誘致判断の参考材料となる検討結果をまとめる予定だが、十分な議論を尽くしたいとの考えが委員の間に強く、平野座長は「ゴールはまだ決めていない。不確定な部分をより詰めていきたい」と話している。

 有識者会議は昨年5月に設置。国内の理系大学教授ら13人で構成している。早ければ本年度中にも検討結果を取りまとめる。会議内には、科学的意義や投資効果などを協議する「素粒子原子核物理作業部会」と、世界の研究者らがまとめたILCの技術設計報告書(TDR)の内容を検証する「TDR検証作業部会」を設置。誘致する上でのメリットや解決すべき課題を洗い出している。
 3回目の会議は両部会の検討状況について中間報告が行われた。
 このうち素粒子原子核物理作業部会からは、「巨額な経費を要する国際プロジェクトであることから、日本の財政状況を鑑み、国際協力による応分の経費負担を前提に進めるべきだ」「国民や他の科学分野の理解・協力を得る必要がある」「ILC誘致の判断が遅れた場合は国際的求心力が失われる可能性があるため、判断の遅延を招かない体制を整備する必要がある」などの留意点が示された。
 他の学術分野に対する理解構築に関し、法政大学理工学部の岡村定矩教授は「ILCが高エネルギー科学の分野の研究だと思っているうちは、(特定研究分野に巨額予算がつぎ込まれるという恐れから)なかなか抜け出せない。さまざまな分野の基本になっていることを調べるのだという認識を広めないといけない」と指摘した。
 東京大学大学院理学研究科の横山広美准教授も国民理解について言及。「国の財政が厳しく、社会保障の在り方などに関心が向く中、日本の未来にとって夢の投資とできるか考えなくてはいけない。国民目線に立った説明が求められる」と強調した。
 このほか、日本学術振興会の京橋倫久監事は「人材確保や育成に関する方策も考えるべきだ」と提言。既存の2作業部会に加え、新たに人材に関する作業部会を設置することを確認した。
 次回会議は6月に予定。終了後、平野座長は「2年をめどにまとめるとしているが、議論のゴールはまだ決まっていない。やるからにはしっかりとした議論をしたい」と話していた。

写真=ILC国内誘致をめぐる課題点などを議論した文部科学省の有識者会議第3回会合(東京・霞が関)
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tanko 2015-4-21 5:40
 奥州市国際交流協会(佐藤剛会長)は今月1日から、岩手県立胆沢病院(勝又宇一郎院長)と医療通訳システムの運用を進めている。素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の北上山地誘致実現を意識し、国際研究都市の構築に向けた具体的な取り組みとして今後、注目を集めそうだ。同協会は同病院での通訳システム導入を足掛かりに、通訳が派遣できる医療機関や対応可能言語の数を増やしたい考え。ILC関連の視察で24日に市内を訪れる海外研究機関の広報担当者にもPRする予定だ。
(児玉直人)

 ILC実現を見据えたまちづくりを進める上では、地域の国際化が重要なポイント。ILCに携わる外国人研究者やその家族を受け入れるための仕組み作りが求められる。
 医療をめぐる環境もその一つ。医療保険制度や治療に対する考え方が国によって異なるケースがあり、正確な意思疎通を図る上では言葉の壁をクリアしなくてはならない。
 同協会は昨年度、市の補助を受け医療通訳ボランティアの養成事業を進めていた。多文化医療サービス研究会=神奈川県=の西村明夫代表らを講師に招き、5回にわたる研修を実施。最終選考を経て、市内外から集まった17人が医療通訳ボランティアとして登録された。
 通訳派遣を受けられるのは、同協会と覚書を交わした医療機関のみ。責任の所在や双方の役割を明確にした上で対応する必要があるためで、「医療機関も協会も、患者さんの命を扱うという点を特に重要視している」と同協会の渡部千春事務局長は説明する。
 通訳の派遣は「日本語の会話が困難な外国人患者が訪れた」など、医療機関側が通訳の必要性を判断した上で行われる。医療機関から派遣要請を受けた同協会は、登録者リストの中から派遣可能な通訳者を探し、病院に向かうよう伝える。
 胆沢病院では運用開始後、中国人患者に対する通訳派遣があった。再来患者で、来院する日も事前に把握できていたこともあってスムーズに対応できた。
 同病院の河野聡事務局長は「外国人患者の滞在期間によっても適応される保険が違う。お互いに確認したいことが言葉の壁によって阻まれてはよくないので、通訳者の存在は非常にありがたい」と話す。現時点で対応できるのは英語と中国語、韓国語の3カ国語のみだが、「ILCが実現したら、さらに対応できる言語を増やしてもらえたら」と希望する。
 同協会は今後、同病院以外にも派遣可能な医療機関を増やしたい考え。対応できる言語やボランティア数の増加、能力向上にも力を注ぎたいとしている。
 今月24日には、ILC候補地視察のため、海外の素粒子物理学研究施設の広報担当者ら12人が県南地域を視察。奥州宇宙遊学館では、奥州市内外の外国人市民らで組織する「ILCサポート委員会」との意見交換が予定されており、医療通訳システムについてもPRする。

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