人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
投稿者 : 
tanko 2014-1-3 10:19
 国際リニアコライダー(ILC)計画の調査検討費が新年度予算に計上される。具体的な使途は決まっていないようだが、予算案に5000万円を計上することが閣議で決まった。本県の達増拓也知事が「大きな一歩を踏み出した」と評価するなど、北上山地への誘致実現に向けて地域の期待が高まる
 ILC計画にあたってはこの夏、研究者らで組織する立地評価会議が国内候補地を北上山地に選んだ。世界での候補地が5カ所というが、欧州諸国や米国は予算的に余裕がないとされる。学者間では、日本の誘致を期待していると伝えられていることから、北上山地が国内候補地とはいえ、事実上は最終候補地と考えられる
 計画が実現すると、20カ国以上の2000人ともいわれる研究者が、世界的にも例がない研究施設に集まる。実験・研究の対象になるのは、重さを生む素粒子「ヒッグス粒子」のほかにも、ノーベル賞クラスの素粒子が数多いという
 そんな世界的研究施設が江刺を含む北上山地に建設されるとなると、研究成果が東北から発信される。新たな学術都市が生まれることの波及効果は大きいのは、巷間言われている通りだ
 期待が膨らむ一方で、現状ではまだ、研究者組織が候補地を選んだことにとどまる。各国政府が国の方針として決めたわけではないのが実情だ。日本でも、北上山地への絞り込みが決まった際、文部科学省は「参考にする」と冷ややかだった。数年かけて誘致に乗り出すかどうか判断するとの立場のようだ
 人件費を含めて1兆円規模の予算が見込まれ、日本の負担割合も不透明な状況。ILCの運転中に放射線が発生することに伴う事故の懸念、自然や生態系への影響など、問題提起する動きが出てこないとも限らない。新年度の調査検討費が事業効果に加えて、不安要素を払しょくするデータ収集などに役立てられるのかどうか。期待を込めて見守りたい。
(和)
投稿者 : 
tanko 2014-1-1 12:40
 「大人になっても私は地元に暮らしたい。でも、自分がやりたいことの夢もかなえたい。ILCは両方の願いをかなえてくれるかも」。奥州市水沢区羽田町に住む及川瑞歩さん(12)は科学、とりわけ天文学に興味を寄せる小学6年生。北上山地が候補地となっている素粒子実験施設・ILC(国際リニアコライダー)は、子どもたちの夢をどう現実のものにしてくれるのだろうか。
(児玉直人)

 瑞歩さんが通う奥州市立羽田小学校に昨年10月、独マインツ大学の斎藤武彦教授が訪れ、宇宙の謎やILCに関した授業をしてくれた。「世界にたった一つの施設が、自分の身近な場所に来るなんて信じられなかった」と目を輝かせる。
 5年生のころ、太陽系準惑星・冥王星の第1衛星「カロン」の名が付いた楽曲を聴いた。そのとき、冥王星が太陽系の惑星から外された理由など、宇宙に関する疑問が次々とわいてきた。気が付いたら、いろいろ独自に調べ関心はさらに深まっていった。その探求心はやがて「物質は何でできているのか」という、原子や素粒子の世界にも入り込み始めている。
 将来の夢は科学者。だが「どんな仕事に就いても困らないよう、今の自分がやるべき勉強をしっかりやります」ときっぱり。
 ILCは科学者だけが活躍する場ではない。装置の開発やメンテナンスを行うエンジニアも多数滞在。外国人研究者とその家族の生活を支援する事務職員や保育・教育スタッフなどは、外国語の能力を生かすことになる。キャンパスのレストランで、多くの人を喜ばせるコックもいるだろう。想定される職種は実に多様だ。
 大都会や海外に飛び出さなくても、岩手に世界がやってくる。それがILCだ。
------------------------------------------------------------------------

子どもたちへ 気軽に議論し合おう(ILC計画最前線に立つ山本均さん)
 東北大学大学院教授の山本均さんは少年時代、鉄腕アトムや天文学に興味を持ち、科学者を志した。国際研究者組織「リニアコライダーコラボレーション(LCC)」の物理・測定器部門代表として、ILC計画の最前線に立つ日本人の一人だ。
 「物理って、当たり前のこととか、単純な疑問をやたら難しく研究しているように見えるでしょうね。私たちの研究成果は、根本的な人間の知識であり将来永劫変わることはない。それを見つけることに価値があり、こうした研究に対し多くの国は誇りを持ち、出資をしてくれるのです」
 山本さんは、ILCに携わるかもしれない子どもたちに対して「おかしいと思ったことは『おかしい』と伝える姿勢を持って」と訴える。
 「もちろん、相手が傷つくことをずけずけ言う、非難するということではないです。自分や相手の意見を気軽に言ったり聞いたりする雰囲気が大事です。それが無ければ物事の進展や成長はない。学校でもそういうやりとりをしてほしい。友だちに対しても先生に対してもね」。子どもだけでなく、大人の社会にも相通じることかもしれない。

 やまもと・ひとし 大阪市出身。京都大学理学部卒業後、米カリフォルニア工科大学大学院で博士号取得。ハワイ大学教授などを経て10年前から東北大大学院教授。東北大赴任直後から茶道を習い始め、表千家講師の資格を取得。仙台市在住。58歳。

------------------------------------------------------------------------
沿岸にも貢献できる姿を(ドイツ・マインツ大学教授・斎藤武彦さん)
 ILCは岩手の未来を担う子どもたちに、大きな影響を与えます。研究に携わる世界中の専門家から直接学べるような環境ができますから、岩手の科学教育は世界トップレベルになるでしょう。
 ただ、現状をみると沿岸と内陸とではILCに対する温度差があるように思えます。沿岸の子どもたちの教育や地域経済に貢献できる形にすることも大切です。
 沿岸の子どもたちも含め、科学の専門知識を学べる大学の理学部のような教育施設が必要だと思います。岩手で育ち、学び、学位を取った研究者が、ILCでノーベル賞を取った――となれば素敵なことです。
 何らかの災害を受けた地域が「世界トップレベルの域に達するような復興を遂げた」という例はあまり聞きません。ひょっとしたら、ILCの実現で岩手で起きる発展は、世界初の事例になるかもしれません。
 2014年が岩手にとってさらなる素晴らしい前進の年になることをドイツの地から応援しています。

さいとう・たけひこ
 神奈川県茅ケ崎市出身。筑波大学大学院を経て、2001年にドイツへ移住。専門は原子核構造物理学。42歳。
投稿者 : 
tanko 2014-1-1 11:30
 北上山地が候補地となっている素粒子研究施設「国際リニアコライダー(ILC)」について政府は、新年度一般会計予算案にILC調査検討費5000万円を計上した。可決されれば、文部科学省を中心に国内誘致に向けた具体協議を始める。これと並行し国際交渉の実施も求められるが、日本政府がどの時点で国際社会に交渉開始の意思表示をするかが計画進展の鍵を握る。
 政府がILCの名が付いた予算案を計上するのは今回が初。調査検討を進める組織には、政府のほか素粒子物理学以外の学術関係者も入り、中立的な見地で想定される諸課題とその対応策を協議するとみられる。
 ILC国内誘致をめぐっては昨年、日本学術会議(大西隆会長)が「2〜3年かけ集中的な調査・検討が必要」とし、政府に調査経費などを措置するよう提言。ILCを推進する国際的研究者組織「リニアコライダーコラボレーション(LCC)」で物理・測定器部門の代表を務める山本均氏(東北大大学院教授)は「学術会議の提言に沿った対応で、前向きなステップだ」と評価する。
 学術会議は国内協議と並行し、ILC計画に参加予定の国々と交渉を開始するよう求めている。山本氏は「われわれとしては、海外との交渉開始を日本政府に正式表明してもらいたい。これによって各国が本格参入しやすくなる」と説明する。また「ここで言う表明は、あくまで交渉の開始を指す」と強調。国内の協議、国際交渉の双方のまとまりを受け、初めて最終的な建設判断に至るという。
 研究者サイドは実験装置の詳細設計に加え、北上山地に特化した設計作業を本格化させる。一方で、胆江地区など建設地の地元が絡む動きとして、国際研究都市形成への計画策定が求められてくる。
 協議体制など具体的な中身は決まっていないが、
 山本氏は「ILC建設のゴーサインが出たら、周辺環境整備もすぐに着手できなければいけない」とし、地元における早期の受け入れ態勢構築を促す。
 LCCの最新スケジュールでは、2016(平成28)年には国際交渉や設計作業などを終え、建設への判断が下される。入札など2年ほどの準備期間を経て2018年に建設整備に着手する。
 全長50kmの地下トンネルを掘削し実験設備を備え付けるのに必要な工期は9年。ただ、初期段階では全長約30kmのトンネルで実験する可能性が高く、実際の運用開始は2027年よりも前になるようだ。30kmトンネルでの実験は10年ほど実施するとみられ、その後、全長50kmに延長して実験の高度化を図る。
(児玉直人)

当ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は胆江日日新聞社に帰属します。
〒023-0042 岩手県奥州市水沢柳町8 TEL:0197-24-2244 FAX:0197-24-1281

ページの先頭へ移動