人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

BHジェットとガス保温の関係、有力説に疑問投げ掛け(天文台水沢の赤堀研究員=三鷹勤務=ら新成果)

投稿者 : 
tanko 2020-9-2 10:50

写真=ほうおう座銀河団の中心にある銀河から噴き出すジェットの想像図(国立天文台提供)

 国立天文台三鷹キャンパス=東京都三鷹市=に勤務する同天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)所属の赤堀卓也・特任研究員らは、銀河団内のガスと、ブラックホール(BH)から噴出されるプラズマ粒子「ジェット」との関係性について、有力説に疑問を投げ掛ける新たな研究成果を発表した。銀河団のガスは、ジェットによって温められていると考えられていたが、赤堀研究員らは冷え続けている銀河団の内部にジェットが存在していることを確認。『日本天文学会欧文報告』8月号に掲載された。
(児玉直人)

 銀河団とは、数多くの星が集まった銀河の集団。これまで確認されている銀河団の中には、水素を主成分とする1000万度を超えるガスが大量に閉じ込められているとされている。
 ガスは、強いX線を放射することにより熱と圧力を失う。圧力低下したガスは、暗黒物質(ダークマター)と呼ばれる正体不明の物質の重力で、銀河団中心部の銀河に引き寄せ集められる。さらにX線放射で冷却が進むと、爆発的に大量の星が作られる。
 一方、地球が属する天の川銀河近くの銀河団では、逆にガスが保温し続けられている例がほとんど。「超大質量BHから噴出されるジェットから熱エネルギーが供給されているため」とする説が有力とされてきた。
 赤堀研究員らの国際チームが今回、観測対象にしたのは、ほうおう座銀河団の中心部。地球からの距離は約59億光年。ほうおう座は南十字星などと同様、主に赤道付近や南半球で確認できる星座で、日本では鹿児島以南で見られる。
 赤堀研究員らはすでに、南米チリのアルマ望遠鏡によって、同銀河団のガス温度が例外的に低くなっている点を突き止めていた。有力説に基づけば「同銀河団にジェットは存在しない」となるが、「従来の観測は解像度や感度が不足しており、ジェットを確認できなかったのでは」との疑問を抱いた。
 そこで同銀河団の長時間観測に適した、オーストラリアの電波望遠鏡を使い観測を実施。その結果、同銀河団中心部の銀河でジェットの存在を確認した。さらに、噴き出した時期が異なっていると思われる、2組で構成されていたことも分かった。うち一つは、同銀河団の年齢よりも非常に若く、誕生から数百万年と推定された。
 赤堀研究員は、南半球に国際プロジェクトとして整備される電波望遠鏡観測網「スクエア・キロメートル・アレイ(SKA)」を活用した観測の継続を望んでいる。「さらに高感度・高解像度でこの天体を観測し、地球近傍の銀河団との違いがなぜ生じているのか解明したい」と抱負を語る。
 電波望遠鏡による天体観測は同観測所の「お家芸」で、本間所長らによるBH撮影などの成果にも表れている。同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)は、赤堀研究員が活用を望むSKAプロジェクトの「科学技術に貢献する観測装置」として、国際組織のSKA機構から公式認定を受けている。
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