人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILCに期待、明記(欧州の素粒子物理戦略)

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tanko 2020-6-21 9:30

次期欧州素粒子物理戦略の内容について見解を述べる県立大の鈴木厚人学長

 欧州合同原子核研究所(CERN)の理事会は19日夜(日本時間)、「次期欧州素粒子物理戦略(2020 Update of the European Strategy for Particles Physics)」を承認、公表した。北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)への期待が明記され、時宜を得てILC計画が進む形であれば「欧州の素粒子物理学界はILCに協力する」とした。ILCを推進する研究者らは「日米欧の足並みがそろった」と評価。今後、建設費だけで約8000億円と試算される膨大な経費や技術、人員確保を巡る国際分担が最大の焦点となる。(児玉直人)

 同戦略は、欧州の素粒子物理学研究における中長期的な研究指針。2006年に最初の戦略が策定され、6〜7年に一度更新している。
 今回見直された次期戦略では、「ヒッグスファクトリー(ヒッグス粒子の製作所)が、最も優先度の高い次のコライダー(衝突型加速器)だ」と強調。ヒッグスファクトリーは、物質に質量を与えるとされる「ヒッグス粒子」を大量に生成して、その性質を精密に調べるタイプのコライダーで、ILCもこれに該当する。
 欧州の素粒子物理学界では将来、かつてない最高レベルのエネルギーで陽子と陽子を衝突させる次世代円形衝突型加速器「FCC(Future Circular Collider)」の構想を打ち出している。CERNが運用する大型ハドロン衝突型加速器(LHC)同様、地下に整備するイメージで周長は約100km。LHCの約4倍になる。「ILCのタイムリーな実現はこの戦略に適合する」とし、その場合は欧州の素粒子物理学界はILC計画の推進に協力するとした。
 同戦略公表後、ILC計画を推進する県立大学の鈴木厚人学長と、岩手大学理工学部の成田晋也教授が県庁で記者会見。鈴木学長は「個人的には想像以上の強いメッセージ。これで日米欧の考えが出そろったことになるので、一刻も早く政府間交渉をして日本政府としての態度を決めてほしい」と期待を込めた。
 ILC計画は、文部科学省の「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ(ロードマップ2020)」への掲載審査に応募している。新型コロナウイルス感染症の影響で、作業は遅れているが今月下旬から書面審査を再開し、策定・公表は9月以降となる見通しだ。


 達増拓也知事のコメント ILC計画に対する欧州の協力姿勢が明確に示されたことは、ILC実現に向けて極めて意義深い。米国からの支持も表明されており、建設準備に向けて国内外の取り組みが進展することを期待する。本県としても、関係機関と連携し、引き続き実現に向け取り組んでいく。

 谷村邦久・県ILC推進協議会長のコメント ILCが最優先の研究計画と認められたことは、誘致実現に向けて大きく前進したと考える。日本の未来を担う若者・子どもたちに夢と希望を与え、地方創生の起爆剤となるILCの誘致実現を目指し、引き続き受け入れ態勢の準備に全力を尽くす。

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コロナ禍での誘致「理解に苦しむ」(考える会共同代表)
 次期欧州素粒子物理戦略に、国際リニアコライダー(ILC)への期待が明記されたことについて、「ILC誘致を考える会」の原田徹郎共同代表=一関市=は20日、胆江日日新聞社の取材に応じ「新型コロナウイルスで世界中が大変なときなのに、理解に苦しむ」と違和感をあらわにした。同会は近日中に文部科学省と県、同市に対しILC誘致を中断し新型コロナ対策を充実させるよう求める要請文を提出する予定だ。
 要請文提出は、2月ごろに予定していた。しかし、新型コロナの感染拡大を受け、状況が落ち着くまで実施を見合わせていた。
 欧州の戦略に明記され、ILCについて国際的協議が進展する可能性が高まったことを受け、原田共同代表は「新型コロナの感染が広がってから、個人経営者などから『とてもILCどころではない』という声を聞く。生活が困窮している人たちからすれば、到底理解を得られるはずがない」と批判した。
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