ブラックホールのジェットを高精度撮影(国際研究チームEHT)
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- tanko 2020-4-9 11:40
写真=EHTによる観測で高解像度の画像が得られた「3C279」の超高速ジェットの姿(写真右側)。左上と左下の画像は、同時期に異なる波長で別の観測網で撮影したもの(C)J.Y. Kim (MPIfR), Boston University Blazar Program (VLBA and GMVA), and the Event Horizon Telescope Collaboration
国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)所属の研究者らが参加している天文学の国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」は日本時間の8日、地球から50億光年離れたブラックホールから噴出する「超高速ジェット」の高解像度撮影に成功したと発表した。研究チームの一員で、同観測所の秦和弘助教は「(8台の電波望遠鏡を連動させる)EHTによる観測が、ブラックホール撮影のみならず、ジェットの解明にも極めて有効であることを示した」と成果を強調する。
観測は2017(平成29)年4月、国立天文台がチリに設置している「アルマ望遠鏡」など、南北アメリカ大陸、ヨーロッパ、南極の6カ所8台の電波望遠鏡を連動させ実施。一つの天体を観測する「VLBI(超長基線電波干渉法)」と呼ばれる手法を用いた。
観測対象は、おとめ座の方向にある銀河「3C279」で、中心部に太陽の約10億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在する。大量のガスが吸い込まれることで、巨大なエネルギーが超高速ジェットとして放出。極めて強い光も放っている。
しかし、地球から50億光年も離れているため、地上からの観測ではほとんど「点」にしか見えず、ジェットの構造やどのように生成されているのかなど詳細は不明だった。
今回の観測では、ジェットの根元部分が詳しく見ることができ、▽通常は真っすぐ伸びているジェットが少しねじれた形状をしている▽ジェットに垂直な構造が見える――ことなどが判明した。
研究チームの一員で、超高速ジェットを研究し続けている秦助教は「地球からはるか遠くに位置するので、ジェットの根元の構造を詳しく撮影するには、これまで以上に高い視力が必要だった」と説明。今回の解像度は、月面に置かれたミカンを地球上から認識できるほどの視力に相当するという。
EHTは今春、構成する電波望遠鏡を6カ所8台から9カ所11台に増やし、観測に入る予定だったが、新型コロナウイルスの影響で今年の作業は中止に。本間所長は「当面は、既に観測している『いて座Aスター』に潜むブラックホールの解析作業を進める」と話している。
(児玉直人)