人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC計画 ロードマップ掲載可能性 ほぼゼロ

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tanko 2020-2-1 14:10
 日本学術会議(山極寿一会長)が1月30日に策定、公表した「学術の大型施設計画・大規模研究計画に関するマスタープラン」(マスタープラン2020)の重点大型研究計画に、北上山地を有力候補地とする素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」が選ばれなかった。同プランは2010(平成22)年から策定が始まり、今回で5度目。そのいずれにもILC計画は「大型研究計画」に選ばれてきた。しかし、速やかに実施すべき「重点大型研究計画」に位置付けられたことは一度もない。文部科学省が5月以降に策定する「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ」への記載は、重点計画になることが前提。有識者の一人は「ILC計画がロードマップに記載される可能性はほぼない」と強調している。
(児玉直人)

 同プランは、学術的意義の高い大型研究の在り方に一定指針を与えるもの。2010年に初めて策定され、翌年に小改訂を施した「マスタープラン2011」を公表。以後、3年おきに策定している。「プラン2014」以降は、選定した大型研究計画の中から速やかに実施すべきプロジェクトを明確にする「重点大型研究計画」の選定が導入されている。
 ILC計画は、今回を含め5回策定された同プランのすべてで、大型研究計画として名を連ねた。しかし、より実現への優先度が高まる重点計画に位置付けられたことはない。
 重点計画を選定する前段として、学術会議は当該計画の関係者へのヒアリング(聞き取り調査)を行う。ILC計画に関しては、今回のほか「プラン2014」策定時にも行われている。しかし、ほぼ同時期に学術会議内に設置されたILC検討委員会で、協議が別途進められていたため、評価対象からは除外された。「プラン2017」ではヒアリング対象にはならなかった。
 「プラン2020」では、新規提案のほか「プラン2017」に掲載し今回改定された提案を「区分?」、過去のマスタープランに掲載され現在実施中の計画を「区分?」と分類。区分?には150件の応募があり、146件が大型研究計画に選ばれた。区分?については、応募があった15件すべてを大型研究計画に位置付け。総数は161件となった。
 区分?の146件の中から、ILC計画を含む59件を選びヒアリングを実施。評価の末、31件を重点計画に選んだ。ILCは選外となった。
 学術分野別に見ると▽物理学…7件▽融合領域…5件▽総合工学…3件▽基礎医学、地球惑星科学、化学…各2件▽人文・社会科学、基礎生物学、統合生物学、農学、臨床医学、歯学、薬学、数理科学、情報学、土木工学・建築学…各1件。このうち基礎医学分野の「健康社会の創生と国際連携に向けた多次元脳・生体イメージングセンターの構築」は、高磁場MRIで得られた脳イメージデータを用い、人間の知能を担う情報処理原理の解明を目指すもの。臨床観察データを集積するネットワークの中には、岩手医科大学が名を連ねている。
 ILC計画について文部科学省は、マスタープランを基に策定するロードマップに掲載されるという「正式なプロセス」を経る必要があると強調している。
 今回のマスタープランの策定結果に対し、本県の誘致関係者らは「計画は着実に進展している」(県ILC推進協議会・谷村邦久会長)、「学術大型計画とされたILC計画は今後、次なる段階に進展していくものと期待している」(小沢昌記奥州市長)など、誘致実現への期待を維持している。
 大型科学プロジェクトに詳しい有識者の一人は匿名を条件に、胆江日日新聞社の取材に答え「ロードマップは予算付けのための審査であり、マスタープランの重点リストを基に審査する。今回のように学術的価値と実現性の審査を受け、重点リストの選外になったプロジェクトを再度拾い上げ、審査することはないだろう」と話した。
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