人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

“人工星”観測に悪影響(国立天文台が懸念表明)

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tanko 2019-7-12 18:50

写真=米ローウェル天文台が撮影した銀河(白い点々)の写真に写り込んだ、スターリンクの光跡(国際ダークスカイ協会ホームページより)


写真=水沢VLBI観測所の電波望遠鏡

 人類初のブラックホール撮影成功や「はやぶさ2」の小惑星再着地など、世間の注目を集めている天文学や宇宙科学界だが、今後の観測や研究に支障を来す問題に頭を悩ませている。国際天文学連合(IAU)や日本の国立天文台(常田佐久台長)は、通信衛星が天文観測へ悪影響を及ぼすとする懸念を相次いで表明。米国の民間会社が進める巨大通信衛星ネットワークの構築により、打ち上げられた人工衛星約200基が常時“人工星”となって、夜空に見えてしまうという。地上の人工照明と同様、天文研究や星空観察をする側にとっては厄介な存在。同天文台水沢VLBI観測所の研究者は、「生活の発展と天文研究が共存できる道を探す必要がある」と訴えている。
(児玉直人)

水沢の研究者「生活発展との共存を」
 IAUは6月3日、同天文台は今月9日にそれぞれ懸念を表明した。天体が放つ光や電波を調べ、宇宙の謎を解き明かしてきた天文学界では、以前から人工的な光や電波の存在に悩まされ、さまざまな対策を講じてきた。
 天文学界がこの時期に懸念を示したのは、米国スペースX社の巨大通信衛星ネットワーク事業「スターリンク」が、本格化してきたためだ。
 インターネットの高速化を図るため、2020年代半ばまでに1万2000基もの通信衛星を地球を取り囲むように配置する計画。第1弾として5月24日、60基の衛星を搭載したロケットを打ち上げ、高度550kmの軌道上に投入した。
 衛星本体や太陽電池パネルは、月が光るのと同じ原理で太陽光を反射し星のように輝く。天体観測をする上で、人工の光は邪魔な存在。米国アリゾナ州のローウェル天文台は、銀河の観測中に写り込んだスターリンクの衛星の画像を公表している。
 1万2000基の衛星が予定通り軌道に投入されれば、常時200基の衛星が夜空に見える状態になる。同天文台周波数資源保護室長の大石雅寿特任教授は「肉眼で見える一番暗い星は6等星だが、われわれが観測する天体としては明るすぎる星。スターリンクの衛星は4等から7等の明るさ。計画を中止してくれとまでは言わないが、観測する側からすればものすごく邪魔」と話す。
 天文観測には、星の光(可視光線)を観測する方法のほか、星が放つ電波を観測する方法もある。水沢VLBI観測所で現在行っているのは電波天文観測。直径20mと同10mの電波望遠鏡(パラボラアンテナ)が稼働している。
 大石特任教授は「現時点では衛星本体の反射光が問題だが、通信サービスが始まれば、電波天文観測への影響も心配される。その前に、事業者側と天文学界が共存できるための話し合いをしなければいけない。すでに米国の天文関係者はスペースX社に協議の打診をしているようだ」と話す。電波天文学が専門の亀谷收・同観測所助教も「人工衛星の数が多くなればなっただけ、影響は受ける。他国の衛星となると、いろいろ大変な面もあると思うが、うまく共存できる道を探さなければ」と語る。
 アマチュア天文家にとっても、人ごとではない。大石特任教授は「アマチュアの皆さんが、個々に声を上げるのは難しい。日本を代表する天文研究機関として、きれいな星空を守るため取り組みたい」と話している。
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