人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ブラックホール撮影成果、まずは地域の住民に(天文台水沢・本間所長ら)

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tanko 2019-5-26 14:00
 ブラックホールの撮影に成功した国際研究プロジェクト、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)の日本人研究者代表を務めている国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長は25日、奥州宇宙遊学館で地域住民を対象に成果を報告した。講演依頼が各地から相次いでいる中、一般向けに成果報告するのはこの日が初めて。観測事業に理解、協力を示してくれている地域住民に感謝の意を伝えながら、研究の意義や発表記者会見後のこぼれ話などを分かりやすく、ユーモアを交えながら紹介した。
 人類史上初となる快挙もさることながら、今年は同観測所の前身、水沢緯度観測所が設置されてちょうど120年。1世紀以上にわたり、天文観測に理解と協力を示してくれた地域住民に感謝の意を込め、真っ先に報告の場を設けたいと、同観測所と市などが主催。同観測所がある水沢南地区の住民を対象に呼び掛けたところ、定員の50人を上回る約餠人が集まった。
 本間所長は「太陽や月などの天体写真を見ると、全体が輝いて見えるか、光が照らされた部分が明るく見え、外側が暗い。ところが、ブラックホールの写真は真ん中が暗い。光を発しない天体であることを端的に示している」と、撮影と解析によって得られた写真の特徴を説明した。
 「何か成果を出すと、新たな宿題が生じるのが科学の世界の宿命。ブラックホールから飛び出す『ジェット』が、今回は撮影されていない。EHTは来年以降も続くプロジェクトなので、ジェットの根源がどうなっているのか、おそらく分かってくるだろう」と話した。
 科学的成果のほか、記者会見前後の心境や想像以上の国民の関心、反響の大きさにも触れた。発表前まで「『CG(コンピューター・グラフィックス)の再現画像のほうがきれい』と言われないか、気持ちが落ち着かなかった」と本間所長。
 100年にわたるブラックホール研究の流れをジグソーパズルに例え、「今回の成果で最後の1ピースを埋めることができた」と報道陣を前に話したところ、ブラックホールの撮影画像を用いた本物のジグソーパズルが商品化されることに。「ほとんどが黒のピースなので相当難しいパズルになるだろう」と話すと、会場は笑い声に包まれた。
 報告会後半は、本間所長と研究に携わった同観測所の小山友明・特任専門員と田崎文得・特任研究員も登壇し、研究の舞台裏を紹介するパネルディスカッションが行われた。
 同観測所と市などは、6月2日午前10時から市文化会館(Zホール)で同様の報告会を開く。あらかじめ募集した児童生徒のほか、広く一般の聴講も可能。入場無料だが整理券が必要となる。問い合わせは市ILC推進室(電話0197・24・2111、内線1442)へ。
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本間所長、講演要旨

 4月10日、都内でブラックホール撮影に関する記者会見を開いた。午後10時の会見となった理由は、世界同時に会見するため。画像を午後10時7分(日本時間)に出すことも決まっていた。
 撮影したブラックホールだが、おとめ座の方向の「M87」という巨大な銀河の真ん中を非常に大きく拡大して撮った。地球から5500万光年の位置にある。
 一般的な天体写真では、天体は丸く全体が輝いて見える。しかしブラックホールの写真は真ん中が暗い。光を出さない天体の性質を端的に示している。
 この写真で大事なのは「穴」。ブラックホールは重力が強くて光さえ出てこない。吸い込まれたものは、二度と出てこられない化け物のような恐ろしい天体だ。
 ドーナツのように見える周囲の明るい部分は、空間と時間がゆがんで光がまとわりついて、真っすぐ飛べず、光の薄い衣ができている状況だ。
 撮影したブラックホールの直径は1000億km。太陽系の数十倍に当たる。私たちの日常からすると大きなスケールだが、M87銀河の規模からすると中心部の点にすぎない。温度は60億度以上あり、地球上では作れない温度だ。その高温が飛び散らず止まっていられるのは、非常に強い重力が隠れているため。だからブラックホールの存在が分かる。
 撮影は国際研究プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が行った。広い宇宙だがターゲットは二つしかない。M87と、いて座のAスター。どちらでもいいから、穴を見られるか、200人が何年も必死に力を注いできた。ターゲットはとにかく小さい。月の上のテニスボールを地球から見た時の大きさに相当する。
 国際協力ならではの苦労もある。コミュニケーションは英語で、インターネット会議は深夜まで続く。会議や観測で海外出張することも多い。意見の相違も多々発生する。日本人はお互いの意見を尊重し、うまく落としどころを探すが、欧米はまず自己主張がスタート。さらに自分たちそれぞれに進みたい方向へ行こうとする。これをどう束ねるかが難しい。
 プロジェクトが空中分解しそうな場面は何回かあった。それでも続けることができたのは、ブラックホールがそれだけ魅力的な天体で、しっかりとした姿をみんなが見たがっていたからだ。
 4月10日の記者会見は成果が大きい上、写真を見せる時間まで決められているほどシビアだった。当初はテレビや新聞のトップを十分に狙える成果だったが、発表の日の夜、桜田義孝五輪相辞任が飛び込み、その座を奪われてしまった。
 ワイドショーなど、お茶の間系番組からも解説の声がかかった。ブラックホールを見ていたら、芸能界のスターも見ることができた。
 今年は緯度観測所が開所して120年。節目の年に成果を出せて本当によかった。緯度観測所は北緯39度8分上に観測地点を設け、地球回転にまつわる謎を明らかにした。ここはもともと、国際協力による研究が進められていた場所であり、それが今も続いている。
 120年間変わらず研究活動ができたのは地元の皆さんのおかげ。ご支援やご理解をいただいたからこそ。奥州、岩手の皆さんにお礼を申し上げたい。今回の成果は、自分たちのものだと思ってほしい。

写真=研究成果や裏話などを分かりやすく、ユーモアを交え紹介した(左から)本間希樹所長、小山友明・特任専門員、田崎文得・特任研究員
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