人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC 住民の不安や疑問 理解へ「説明重ねる」(KEKや県関係者)

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tanko 2019-3-18 9:50
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」に関する解説セミナー(東北ILC準備室主催)が17日、奥州市役所江刺総合支所などで開かれた。一般市民を対象としたいわゆる「リスク説明会」で、出席した一部の住民から放射性物質に対する不安や誘致活動そのものへの批判も上がった。対応した高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)ILC研究開発プロジェクトリーダーの道園真一郎教授は、「今後も理解を得られるよう説明し続けていきたい」と話す。

 セミナーは午前中に一関市大東町大原の大原市民センターで、午後に江刺でそれぞれ実施。江刺会場には市民ら44人が足を運んだ。
 有力候補地の地元である胆江地区や両磐地区などでは、ILC誘致に期待を寄せる声がある一方、放射線管理や自然環境への影響、行政側の誘致姿勢に疑問を投げ掛ける住民もいる。東北ILC準備室メンバーの立場で説明に当たった県科学ILC推進室の佐々木淳室長は、誘致を巡る最近の動向を説明しながら「いろいろな意見がたくさんあるのは承知している。こういった場で意見を頂きながら理解を深め、前に進めたいと思っている」と述べた。
 道園教授は、放射線や放射能などに関する基礎知識やILCにおける安全管理について説明。ILCに設置される装置や場所ごとに、発生する放射線の種類や管理方法などについて細かく解説した。
 質疑では、放射性物質の管理や自然環境への影響に関する不安や指摘が集中。KEKの佐波俊哉教授は「事故や地震などによって、放射性物質が漏れないよう検討している。放射能や放射線を加速器施設の外には絶対出したくない」と強調した。
 研究者側の説明に「福島第1原発事故で、この地域の放射能に対するアレルギーはものすごい。半端な説明では納得できない。これ以上、(ILC誘致に)費用をかけるのはやめたほうがいい」と主張する人も。セミナー終了後、胆江日日新聞の取材に応じた道園教授は「トリチウムをはじめとする放射性物質の問題に、とても心配されていることをあらためて痛感した。KEKは加速器開発を主体にやっていて、地元の対応はILCに関わる地域の大学や行政に任せていたスタイルがそのまま現在に至っていたこともあり、KEKとして直接住民の皆さんに説明するという場面がほとんどなかった。何度も説明し、理解を得られる努力をしなければ」と話していた。

写真=住民の質問にKEKの研究者らが答えた解説会(市役所江刺総合支所)


“はしご質問”、不規則発言も(マナーに疑問符)

 17日に江刺で開かれたILC解説セミナーの質疑では、司会者の進行を遮ったり不規則発言をする人が相次ぐなど、マナーが疑問視される場面があった。
 この日は、江刺会場の前に一関市大東町大原でも同じ内容のセミナーが開かれた。入場対象者の制限は特に設けられていなかったが、ILCに批判的な姿勢を示している一部住民が、大原会場で質問し、江刺会場でも発言。「同様の質問は……」と進行役の県職員が制止しようとしたが受け入れず、発言を続けた。大声での不規則発言もあり、終了後「まさかこんな雰囲気のセミナーだとは思わなかった」「もっと前向きな話を聞けると思っていたのに」と、苦々しい表情で会場を後にした住民もいた。
 ILC誘致に慎重な見解を示している市民団体の複数の関係者は、胆江日日新聞の取材に「意見や不安の思いを語るのはいいが、常識的なマナーは守るべきではないか。せっかく訪れた研究者に対しても失礼だ」「開催地の地元の人たちの声を吸い上げる場になるべきで、会場を『はしご』して再度質問するのはいかがなものか。不規則発言もよくない。冷静な議論ができなければ対立構造を生んでしまう」と懸念を示していた。
(児玉直人)
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