人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致「継続」も関門多く(他分野の理解どう得る)

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tanko 2019-3-9 11:10
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)は、誘致表明や公式な国際協議入りといったレベルの政府見解は得られなかったものの、「関心を持って国際的な意見交換を継続する」という方向性は示された。
 同時に文部科学省は「正式な学術プロセス」を踏むこべきだと強調した。具体的には日本学術会議が策定する「学術の大型施設計画・大規模研究計画に関するマスタープラン」に掲載され、さらに文科省の大型科学プロジェクト推進に関する基本構想「ロードマップ」にも計画が位置付けられることだ。高エネルギー加速器研究機構(KEK)の円形加速器施設「Bファクトリー」なども同様の手順を踏んでおり、ILCだけ「特別扱い」とはならないようだ。
 ロードマップで実施優先順位の高い計画になれば、実現の可能性は一気に高まるが、そう容易な話ではない。現行の「マスタープラン2017」では、24分野182計画が掲載されたが、この中から「ロードマップ」に新たに加えられたのはわずか7計画だ。
 学術会議は今月末まで、次期マスタープランの計画を公募。KEKの山内正則機構長は、7日のILC関連国際会議後の記者会見で、KEKが申請者となりILC計画を申し込む考えを明らかにした。誘致を望む人たちは、一刻も早い国の誘致表明を期待している。だが、これらのプロセスに要する時間を考えると、誘致表明のタイミングはまだまだ先の話だ。
 もう一つ認識しておきたいのは、慎重論が根強い他分野研究者のチェックを今後も受ける点だ。学術会議や文科省有識者会議のこれまでの審議を振り返れば、想像に難くない。推進派研究者が、過去に指摘された事項をどれだけ丁寧に説明し、理解を得られるかがポイントになる。
 他分野研究者の理解は、どうすれば得られるのか。誘致を願う候補地周辺の自治体議会や経済団体なども頭を悩ます。省庁や国会関係者への要望活動は数多くこなしているが、学術関係者に対する申し入れ行動は皆無に等しい。学術界では、政治などの権力と一線を画し、科学的な観点で議論をする環境が必要。要望活動を「やらない」のではなく、「できない」という状況に近い。
 奥州市議会ILC議連の渡辺忠会長は、2014(平成26)年6月に学術会議が開催した「ILCフォーラム」に出席。推進派の素粒子物理学者だけでなく、社会学や行政経営、自然環境など多様な分野の専門家による見解に触れた。
 渡辺会長は「門前払いを受けるようなことかもしれないが、どうすれば他分野の方々が理解をしてくれるのか、そして彼らが何を問題視しているのかを知る上でも、何らかの方法が取れないかと考えている。(2014年開催の)フォーラムのような場を候補地の地元で設けるのも、互いの考えを聞き合う一つの方法だとは思うが」。学術界の独立性に配慮しながらも、互いの理解形成につながるような道筋を探っている。
(児玉直人)

写真=2014年6月に日本学術会議が主催したILCフォーラム
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