人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致表明に至らず(文科省担当局長が政府見解)

投稿者 : 
tanko 2019-3-8 10:50
正式プロセスで議論を 学術会議の所見を重視

 【東京=児玉直人】 文部科学省の磯谷桂介・研究振興局長は7日、素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」に関する同省の見解をILC計画を推進する研究者組織に説明した。昨年、同省に提出された日本学術会議の所見を重視。学術会議が策定する「学術の大型研究計画に関するマスタープラン」に掲載されるなど、正式な学術プロセスによって議論されるべきだと強調した。これまで実施してきた事務レベルの国際的な意見交換は継続する一方、いわゆる公式の国際協議というレベルの対応や誘致表明という段階には現時点では「至らない」とした。誘致表明を期待していた研究者サイドからは「残念」との声も聞かれたが、日本側の現状に一定の理解を示し、現実的な対応の中で引き続き計画実現に向け取り組む姿勢だ。学術会議の次期マスタープランは、今月末まで搭載計画の公募が行われているが、他分野研究者によるチェックやライバルとなる大型研究も多数あり、大きなハードルとなりそうだ。

 磯谷局長は、東京大学で始まった国際将来加速器委員会(ICFA)、リニアコライダー国際推進委員会(LCB)などによる合同会議に出席。会議は冒頭のみ報道陣に公開された。
 説明や質疑応答終了後、報道陣の取材に応じた磯谷局長は「国際協議を開始するということまでは申し上げていない。これまでの意見交換を継続することを申し上げた。『誘致に至らない』というのは、誘致するかしないかという点に関して表明するまでの熟度になっていないということ。それを前提に、計画そのものには関心を持ち、関心があるからこそ意見交換は続けていきたいという理解だ」と述べた。
 正式な学術プロセスを踏むという見解は、柴山昌彦・文部科学大臣も強調していた点。磯谷局長は「研究者側が(学術会議の)マスタープランに応募し、正規のプロセスに入るとなれば、段階が前進したということになるのでは」との考えを示した。
 文科省の見解を受けICFAのジェフリー・テイラー議長(メルボルン大教授)、LCBの中田達也委員長(スイス工科大ローザンヌ校教授)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の山内正則機構長は7日夕、東京大山上会館で会見を開いた。
 テイラー議長は、磯谷局長の会議出席に敬意を表しながら「(誘致表明がなく)残念だったという意見もあった。しかし、6日夜に日本の国会議員と会談したときは、前向きな印象を受けた。行き止まりではなく、期待より遅れるかもしれないが、現実の中で対応していくしかない。欧州次期素粒子物理戦略も現状に基づいて策定されるのではないか」との見解を述べた。

写真=ILCに関する政府見解説明のため国際会議に出席した文科省の磯谷桂介・研究振興局長(前列左)ら(東京大)

=======================================================================
文部科学省の見解全文
 本日のリニアコライダー国際推進委員会開催にあたり、本レターを送付できることは大変光栄です。
 国際リニアコライダー(ILC)計画は、国際的な研究者組織において検討が進められてきた素粒子物理学分野における学術の大型プロジェクトであると承知しています。
 これまでわが国においては、ILC計画について、わが国の科学コミュニティの代表機関である日本学術会議における「国際リニアコライダー計画に関する所見(2013年9月)」を契機として、文部科学省において「国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議」を設置し、科学的意義、コスト及び技術的成立性、人材の確保・育成方策、体制及びマネジメントの在り方等の観点から、検証を進めてきました。
 2017年11月には、ILCに関する国際的な研究者組織において、欧州CERNにおけるLHC実験を踏まえて、ILCの衝突エネルギーを500GeV(ギガ電子ボルト)から250GeVとする見直し案(250GeV ILC計画)が公表されました。
 これを受けて、有識者会議においてILC計画についてあらためて検証を行い、2018年7月に「ILC計画の見直しを受けたこれまでの議論のまとめ」を取りまとめ、計画の全体像を可能な限り明確に示した上で、日本学術会議に対して、ILC計画についてあらためて審議を依頼しました。
 2018年12月には、日本学術会議より文部科学省への回答として「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」が取りまとめられ、「政府における、ILCの日本誘致の意思表明に関する判断は慎重になされるべきであると考える」とされました。
 文部科学省においては、同所見の内容を精査しつつ、ILCに関する意義や効果について、学術的な観点のみならず、関係省庁とも連絡を密にして意見を聴取し、検討を行いました。
 ここに現時点のILC計画に関する見解を述べます。
 国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議による「ILC計画の見直しを受けたこれまでの議論のまとめ」を受け、日本学術会議が審議を行い公表した「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」において、「現状で提示されている計画内容や準備状況からして、250Gev ILC計画を日本に誘致することを日本学術会議として支持するには至らない」「大型計画について学術会議としてさらに検討するとすれば、マスタープランでの枠組みで行うのが適切」とされたことを踏まえ、ILC計画については、現時点で日本誘致の表明には至らないが、国内の科学コミュニティの理解・支持を得られるかどうかも含め、正式な学術プロセス(日本学術会議が策定するマスタープラン等)で議論することが必要であると考えます。
 併せて、国外においても、欧州素粒子物理戦略等における議論の進捗を注視することとします。
 また、ILC計画については、日本学術会議の所見において、諸分野の学術コミュニティとの対話の不足、成果が経費に見合うか、技術的課題の克服、実験施設の巨大化を前提とする研究スタイルの持続性といった懸念が指摘されている一方、素粒子物理学におけるヒッグス粒子の精密測定の重要性に関する一定の学術的意義を有するとともに、ILC計画がもたらす技術的研究の推進や立地地域への効果の可能性に鑑み、文部科学省はILC計画に関心を持って国際的な意見交換を継続します。
トラックバックpingアドレス http://ilc.tankonews.jp/modules/d3blog/tb.php/830

当ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は胆江日日新聞社に帰属します。
〒023-0042 岩手県奥州市水沢柳町8 TEL:0197-24-2244 FAX:0197-24-1281

ページの先頭へ移動