人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

≪短期連載「私とILC〜4」≫ 被災地の子どもたちに夢を(齋藤武彦さん)

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tanko 2013-4-19 5:30
 東日本大震災後の2011(平成23)年4月23日。達増拓也知事は政府復興構想会議で「ILCを震災復興の象徴にしたい」と述べた。
 復興の恩恵を一番に受けるべきなのは沿岸被災地。だが、目先の復旧作業や生活再建を真っ先に望む雰囲気が根強く、県の担当者も被災地でILCの話をすることに抵抗を感じていたという。
 そんな中、いち早く沿岸の子どもたちにILCの話をした人物がいる。ドイツ・ヘルムホルツ重イオン科学研究所の研究グループリーダーで、同国マインツ大学教授の齋藤武彦さん(42)=神奈川県茅ケ崎市出身=。科学を通じて夢を与えたいと、昨年5月から6月にかけ県内の高校や中学校で科学授業を繰り広げた。
 齋藤さんは「海外に飛び出し、もっと広い世界を見てほしい」と思い、宇宙や科学全般についてや自分が住むドイツの話をした。しかし、いくつかの学校で授業を繰り返すうち、齋藤さんは思い悩んだ。
 「何かが足りない……」
 授業を終えた後、学校の教諭から「昔は故郷を離れる若者が多かったが、今は地元に残って頑張りたいという子が増えている」という話を聞いていたのだ。
 「被災した故郷を愛し、地元で頑張ろうという子どもたちの姿勢に尊いものを感じた」と齋藤さん。「もっと現実的で、身近な事柄で夢を与えることはできないか」と思案する中、脳裏に浮かんだのがILC。自身の研究分野と直接関係はなく、誘致に携わったこともなかった。
 「もちろん、被災地では現実的な復興を望んでいるかもしれないが、もしILCが東北に誘致されても子どもたちに損は一つもない」
 久慈市立長内(おさない)中学校。いつものように授業をし、最後の数分にILCの話を取り入れてみた。反応に齋藤さんは驚いた。
 「今、一番苦しい状況下にある地元が、世界の中心になるかもしれない。そのことを子どもたちは予想もしていなかったようで、とても目を輝かせていた。周囲の先生たちも同じだった」。以降、宮城、福島で科学授業を開いた際、ILCの話を取り入れた。
 ところが、反応は好意的なものばかりでなかった。ILC誘致と電力不足問題を結び付け「子どもの夢のために原発を再稼働させるのか――」との批判が、インターネットを通じ舞い込んだ。
 福島第1原発事故を契機に高まった科学技術への不信と不安。齋藤さんは「僕は原発はゼロになるべきだと思っている」との持論を示しながら、こう付け加えた。「すべてのことには利点と欠点がある。それぞれを平等に議論し、建設的に考え行動するしか問題解決はできない」
 短絡的に「科学=悪」と決めつけるのではなく、互いの違いを認め、より良い点をうまく取り出すことが本当の議論だと齋藤さん。「残念ながら日本の教育ではその訓練が弱い。僕の経験でも、意見の統一化や『みんな一緒じゃないといけない』という雰囲気が強かった。それに、議論を『戦わせる』という言葉を勘違いし、勝たなければ気が済まない人があまりにも多い」と指摘。「子どものうちから違いを認め、学び受け入れる経験が必要。ILCが誘致されれば、そういう訓練ができる環境をつくり上げることができる」と主張する。
 科学者の姿勢にも疑問を呈する。「科学に精通していない一般の方々に対する、原発事故直後の科学者の言動はあまりにもお粗末」と一蹴。一般社会との接点が無さすぎたことに原因があるという。「子どもや専門知識のない大人に、どれだけ分かりやすく面白く話せるか。僕たち専門家の実力が問われる所」と話す。
 「ヨーロッパでは科学者が社会に溶け込み、貢献活動をすることは当たり前。将来、ILCに来るかもしれない彼ら、彼女らは社会貢献の大切さをよく知っている。そして、被災地のために何かしたいという人も多い。私たち大人がやるべきことは、夢と希望を子どもたちに与えることなんだと思う」

写真=沿岸部の学校で科学授業をする齋藤武彦さん(齋藤さん提供)
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