人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

政府表明「年内」微妙な情勢(ILC計画、年末迫り日程過密)

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tanko 2018-12-3 8:00
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」を巡り、国際協議に入るために必要な日本政府の意思表明が、年内までに行われるかどうか微妙な情勢となってきた。政府にとって、日本学術会議(山極寿一会長)から回答されるILC計画への所見が判断のよりどころの一つ。回答提出までには学術会議内での査読作業と幹事会の了承を経る必要があるが、次回幹事会は19日の予定で祝日や年末年始の休業なども勘案すれば、年内に政府内で協議できる時間はわずか。仮に年内表明が間に合わない場合、日本の誘致関係者らは、国際協力体制構築を左右する欧州の科学者界に対し時間的猶予を求めて交渉せざるを得ない場面も出てきそうだ。(児玉直人)

 国際プロジェクトに位置付けられるILC計画を実現するためには、公式な国際協議の場で費用分担などを話し合い、その都度合意を得ていく必要がある。ILC計画を推進する素粒子物理学者らは「今回の政府の意思表明は、誘致の是非ではなく、公式協議を始めようという姿勢を示してもらうもの」と強調する。
 一方、日本学術会議の「ILC計画見直し案に関する検討委員会」(家泰弘委員長、委員10人)が11月14日に公表した文科省への回答案には、ILC計画に対する慎重な見解や各種対応の不十分さを指摘する文言が目立った。推進派研究者や東北、岩手の経済関係者らは、事実誤認や情報が正しく理解されていないなどと一斉に反論。同19日、検討委に意見・説明書を提出している。
 検討委の家委員長は当初、同21日の第11回会合(非公開)で最終版に近いものに仕上げる意向を示していた。しかし、関係者によると取りまとめまでには至らなかったという。12回目の会合時期について、学術会議事務局は「未定」としている。
 学術会議では、審議などの依頼を受けた案件を回答する前に、査読と呼ばれるチェック作業と幹事会での承認を踏む必要がある。学術会議事務局によると、幹事会は月1〜2回開催しており、次回は19日に開催される予定だ。2013年に学術会議でILC計画の協議が行われた際は、案がまとまってから文科省に回答するまで約1カ月半かかっている。
 あらゆる分野の科学者の意見をまとめ、国内外に発信する立場にある学術会議が、慎重姿勢の色濃い所見を回答した場合、推進派の考えとぶつかることになる。推進派関係者は、国会のILC議連や自民党のILC関係組織の存在を頼りに、政界での理解構築に努めてきた背景がある。推進と慎重双方の立場を考慮すると、政府がわずか数日で公式見解を示すのは容易ではなさそう。
 年内までに日本政府の意思表示が求められている理由は、2020年5月を始期とする欧州の次期素粒子物理学計画の策定作業があるためだ。同計画にILCが盛り込まれなければ、国際協力体制が構築できない恐れがある。
 ILCを推進する研究者の一人は、計画策定に大きな影響力を持つ欧州原子核合同研究機構(CERN)のファビオラ・ジアノッティ機構長らが「年内に日本政府の前向きな発表がなければ欧州の戦略でILCは考慮しない」と述べていたと説明。これが現時点での公式見解になっているという。この研究者は、仮に日本政府の意思表示が年内に間に合わなかったときは、欧州側に時間的な猶予を求める交渉が必要になってくると推測している。

 ◇LCC最高責任者ら議連で講演へ(7日)
 超党派国会議員で組織するILC議連と、自民党のILC誘致実現連絡協議会の総会は7日、東京都千代田区の衆議院第一議員会館内で開かれる。ILCを推進する国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」の最高責任者リン・エバンス氏と、LCC副責任者の村山斉氏を招き、ILCを巡る海外での状況について報告を受ける。
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