人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

「政府判断」捉え方に相違? ILC回答案・候補地の地元反応

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tanko 2018-11-16 9:50
 「事実を誤認している」「とても妥当な判断」――。北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)について、日本学術会議のILC計画見直し案に関する検討委員会(家泰弘委員長)が文科省への回答案を示したことに、候補地周辺では賛否さまざまな反応が出ている。
(児玉直人)

 14日に明らかになった回答案。今後修正が加わるものの、「適正な国際経費分担の見通しなしに日本が誘致の決定に踏み切るのは危険」など厳しい文言も散見された。候補地周辺の住民に対する配慮を求める表現も随所に見られた。
 ILC誘致活動の在り方に疑問を呈している市民団体「ILC誘致を考える会」の共同代表で、一関市の僧侶・千坂げんぽう氏(※)は「我々が危惧していたことにも触れており、(懸案していたことが)妥当なものだったということが分かった」と評価。「大学や既存施設でやる国際共同研究ではなく、自然に手を加えて行う事業。一定の見通しが示されないまま話が進めば、地域住民は不安に思う。全体的に計画が荒っぽいという印象があり、実行するのは時期尚早だ」と指摘した。
 一方、奥州市議会ILC誘致推進議連の渡辺忠会長は「(検討委のメンバーは)ILCを進めたくないのではという印象を受けた。なぜそういう考えになるのか全く理解できない」と批判。「研究者とその周囲がやってきた積極的な動きが伝わっていないのではないか」とし、場合によっては検討委側に面会を求め、議論の経緯の説明を受けることも必要になると示唆した。
 回答案の内容や関係者の声を聴く中で浮かび上がるのは、年内までにとされる日本政府の「前向きな判断」に対する受け止め方の相違だ。一つは、後戻りやストップが極めて難しくなる「最終決断」と同等の重みがあり、回答案に示されたような慎重な対応が求められるとする見解。もう一つは、公式な協議のテーブルを設けようとする「意思表示」の段階であり、「誘致判断というのはまだまだ先の話」というILCを推進する研究者側の見解だ。
 東京大学の山下了特任教授は14日、検討委傍聴後の報道陣との取材応答の中で、ILC計画の進め方について「大学入試」を例に説明した。
 「日本の大学は入るのが大変で出るのが楽。アメリカは逆で、入るのは楽だけど出るまでが大変とよく言われている。日本の従来のプロジェクトの進め方は、条件を全部決めてゴーサインを出す。しかし、ILCでは提案し議論しながら進めていく方法で、海外では当たり前のやり方。今求めているのは、海外との公式な議論につける一歩を踏み出しませんかということ。その先の過程で、海外との費用分担の話も出てくる。そこで『工面できません』となれば、その先には進めない。いつでも止められるやり方だ」
 「とりあえずやってみよう」と「石橋を叩いて渡る」。それぞれの方法に良し悪しがある。「政府判断」という場面のとらえ方の根底には、こうしたそれぞれの国に根付いた事業の進め方に対する考えや習慣、文化の違いも影響しているようにみえる。推進派と慎重派が互いの主張を認め合い、折り合うことはできるのか。それとも、平行線をたどりやがて大きな亀裂を生む方向へと傾くのか。議論の行方が注目される。

※…千坂氏の名前の漢字表記は、「げん」は山へんに諺のつくり。「ぽう」は峰。
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