人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致 にじむ「慎重姿勢」(日本学術会議・検討委が文科省への回答案示す)

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tanko 2018-11-15 9:50
 【東京=児玉直人】日本学術会議(山極寿一会長)の国際リニアコライダー(ILC)計画見直し案に関する検討委員会(家泰弘委員長)は14日、東京都港区内で第10回会合を開き、文部科学省から受けた審議依頼に対する回答案を審議。案文には「他分野研究者との対話が不足している」などと記され、慎重な見解と厳しい指摘がにじみ出た内容となっている。ILCを推進する素粒子物理学者たちは、明示された回答案を早急にチェック。事実が正しく反映されていない点などを確認し、一両日中に同委員会へ案文に対する見解を示し、公式な国際協議に踏み出せる環境構築に全力を注ぐ。

 同委員会は今年8月10日の第1回会議以降、ILCを推進する素粒子物理学者ら関係者を参考人として招き説明を求めてきた。回答案は、これら参考人の説明や委員間での議論、さらには国内外の誘致関係者、地元市民団体などから寄せられた意見文書なども参考にまとめられた。
 回答の核心的な部分となる「所見」は、文科省が学術会議へ審議依頼した学術的意義や素粒子物理学における位置付け、国民・社会に対する意義など4項目に対応する形でまとめた。このうち、学術全体における位置付けについては、「数々の大型研究施設計画と比べても費用が格段に大きく、研究終了まで長期にわたる計画。国民へ提案するには、学術全体の理解や支持が必要だが、諸分野の学術コミュニティーとの対話が不足していることは明らか」と指摘。「さらに丁寧かつ継続的な説明と意見交換が必要」とした。
 また、技術や経済面への波及効果については「ILCによるそれらの誘発効果は限定的と考えられる」とし、地域振興の文脈で語られている事項、放射線を含む環境面への影響について「特に建設候補地と目されている地域の住民に対して、科学者コミュニティーが正確な情報提供を行い、対話を行うことが肝要だ」と強調した。
 家委員長は会議の中で、地域の国際化が進展するとの期待論があることについても言及。「建設期間にはそれなりの人が住むが、ネットが普及した時代にあって、データ解析は現地に行く必要はない。装置運転のための常駐者は必要だろうが、どのくらい現地に外国人の滞在が見込まれるのか、議論の余地がある」と述べた。
 委員会後半は、非公開の形で委員同士が意見を交わした。終了後、報道陣の取材に応じた家委員長は「私的希望では、年内に(委員会の)取りまとめをしたいとは思うが、あくまで学術会議として提出する文書。査読や幹事会で承認を得る必要があるので、いつまでに終わるということは分からない。次回、21日の会議までには、今日出された意見や修正すべき点を踏まえ委員会としての最終版に近いものに仕上げたいと思う」と述べた。
 ILC推進派の間では、公式な国際交渉ができるよう、年内の日本政府側の意思表示が必要という見方が示されている。この点について家委員長は「われわれは回答を返すことが役割で、その先、国や文科省がどう意思決定するかは分からない。ただ、客観的には年内に表明するのは難しいようにも思う」との考えを示した。少なくとも、今月の学術会議幹事会の場で回答案が議論されることは「無理」とした。
 一方、ILC推進の中心的役割を果たしている東京大学の山下了特任教授は、委員会傍聴後に報道陣の取材に応じ「事実が反映されていない点、情報が抜けている点について、一両日中に整理し、委員会側に届けたい」との考えを示した。その上で「よく『誘致』と言われるが、誘致の最終判断はずっと先。今求められているのは、公式な国際交渉をしようという一歩。交渉を進める中で、国際的な費用分担も協議していくが、その過程で合意が図られなければ、実現はできないものと認識している」と話していた。

写真=会議終了後、報道陣の取材に応じる家泰弘委員長


「大変意外な案」達増知事らが談話

 検討委員会が示した回答案について達増拓也・岩手県知事は「多くの関係者と共に長年にわたって取り組んできた岩手県からすると、大変意外な案。関係者の多くから反論が寄せられるのではないか」などとする談話を出した。この中で案の記述を引用し、「『建設候補地と目される地域』としては、『科学者コミュニティー』と多くの情報共有や対話を重ねてきていると考えるが、今後ともそのような姿勢は続けていきたい」と主張。政府の前向きな判断へ、全力を挙げる考えを示した。
 東北ILC推進協議会の高橋宏明代表、県ILC推進協議会の谷村邦久会長は連名でコメントを発表。「科学技術は研究者だけのものではなく、社会と一体となって作り上げていくものと私どもは考える。ILCの持つ国際科学技術プロジェクトへの日本の新しい挑戦という高い志に対し、ネガティブな面を強調する議論が行われているように思われる」と指摘。「科学技術の可能性を狭めてしまっているのではないか」と懸念を表明した。
 その上で、東北の産学官が震災復興や地域振興に寄与するプロジェクトとして誘致に注力してきたこと、5年前に北上山地が建設に最適と学術関係者により判断されたことを踏まえ、「今後予定される最終答申が、研究者と社会が一体となった科学技術立国実現の後押しとなることを切に願う」と主張した。
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