人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】熱願冷諦 ILC誘致、識者は語る(7)

投稿者 : 
tanko 2018-10-25 10:10
政策論からのアプローチ ?
住民対話「1、2回ではだめ」
推進する研究者は責任持ち臨んで

有本建男氏(政策研究大学院大学客員教授)

 ――政府が前向きな判断を示さず、日本でのILC実現が困難だとなった場合、日本の科学振興や人材育成などに大きな影響はあるか。
 有本氏 素粒子分野の人たちにとっては、もちろん影響があると思う。しかし、科学技術分野全体からどの程度の影響なのか。日本で実現ができないとなれば、他の場所での可能性を探ることも考える。
 岩手や東北の方々は、ILCを実現したいとする研究者側の求めに応じ、多くの時間や予算を費やして、誘致活動に関わってきたのだと思う。もし、ILCの国内実現が困難となったとき、これに対してどのようなフォローをしていくのか、学術界としてしっかりと考える必要性がある。



 ――本県ではILCへの理解普及が熱心に繰り広げられてきた。一方、最近になって候補地の地元住民の一部から、ILC推進に疑問を投げ掛ける動きが表面化している。ILCを推進する側は、このような人たちにどう接するべきか。
 有本氏 日本が巨大な投資をするような政治的・社会的な行動を起こすのであれば、ILCで一体何ができるのかをまず分かりやすく説明し、納得してもらうことが当然だ。
 ILCに懐疑的な思いを抱く住民と、推進しようと考える住民との間に深い溝ができるのは最もよくない。ILCを推進する研究者たちは、自分たちのプロジェクトが原因となって住民対立を生んではいないか、しっかり責任を感じてほしい。
 住民の皆さんと膝を突き合わせて話をすることに尽きる。今の研究活動の多くは、地域社会とつながらなければやっていけない。コミュニケーションを取り、信頼を得るような努力は非常に重要だ。これは1回、2回で済むものではない、何度も繰り返し続けなければいけない。学術会議自体も候補地に出向き、地元の人たちと話す機会があっていいと思う。
 候補地の近く、奥州・水沢といえば緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)のことが頭に浮かぶ。初代所長の木村栄博士は文化勲章受章者の第一号。明治時代に日本独自で世界トップの業績を挙げた。これはものすごいことだ。このような施設がある環境、風土を地元の皆さんはあらためて認識し、大切にしていってもらいたい。

(7回にわたり掲載した「熱願冷諦――ILC誘致、識者は語る」は今回で終了します。児玉直人が担当しました)

写真=高校生と科学やILCについて語る素粒子物理学者(右)。誘致関係者は、ILC実現に期待を寄せる人たちとの交流を積極的に行ってきたが、ILCに疑問を抱く人たちや不安を感じる人たちとの対話についても、何度も繰り返す必要があると有本建男氏は指摘する
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