人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】熱願冷諦 ILC誘致、識者は語る(6)

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tanko 2018-10-24 6:20
政策論からのアプローチ ?
別枠予算の実現 考えにくい
他分野研究者 懐疑的見方か

有本建男氏(政策研究大学院大学客員教授)

 ――2度目となる学術会議でのILC議論だが、前回と同様、素粒子物理学以外の専門家を中心に厳しい指摘が相次いでいる。このような雰囲気の議論になっているのはなぜか。
 有本氏 日本の科学技術予算は、毎年およそ4兆5000億円ぐらい。ILCを推進している人たちは「これに影響を与えないような新しい予算枠を設けます」と言っているが、厳しい財政事情の下で、そんなことができるのか。
 一時しのぎでそんな状況がつくれたとしても、全体の予算を考えると「これはできないだろう」と他分野の研究者たちは分かり出してきているのではないか。予算面に対する影響のインパクトは相当に大きなものだと思う。



 ――仮に学術会議が慎重な見解を示したのに対し、政治の側が「それでも推進する」となった場合、学術界と政界との間に亀裂が生じることになるのでは。
 有本氏 科学と政治とが絡む問題は、GMO(遺伝子組み換え生物)や福島第1原発事故などでも見られるように、互いの関係がバランスを欠き、信頼感を失うという状況をこれまでも繰り返してきた。
 学術会議が最終的に出すのは政府への「助言」、選択肢である。政府は自らの責任として、判断を下すことになる。役割が異なる。そのことをどう受け止めるかだと思う。
 政府が推進の判断をした場合、繰り返しになるが「科学技術予算本体に影響を与えない」という対応を一時的には取るかもしれない。しかし、結果的に科学技術予算に手をつけざるを得ない状況になったら、国内ではILCを進めにくい状況になるだろう。一方で、海外の素粒子研究者たちからは「日本政府は推進すると言ってきたではないか」と迫られる。ILCを推進する人たちは、国内と国外双方から板挟みのような状況に遭うことも想定される。
 こういうことが起きないよう、政府はじっくり見定めて判断を出さなければいけない。
(つづく)

写真=他分野の研究者もメンバーとなっている日本学術会議の「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」。2013年にも同様の検討委員会が設置されたが、スケジュールやコスト、地元との合意形成などに対し、今回も疑問の声や厳しい指摘が相次いでいる
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