人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】熱願冷諦 ILC誘致、識者は語る(5)

投稿者 : 
tanko 2018-10-23 9:40
政策論からのアプローチ ?
「政治化」で話は進むのか
地域活性以前にコスト増懸念

有本建男氏(政策研究大学院大学客員教授)

 2人目は科学技術政策の専門家で政策研究大学院大学客員教授の有本建男氏。2014(平成26)年に日本学術会議が主催した「ILC計画学術フォーラム」では、学術政策・行政の観点から、ILC計画の在り方について見解を述べた。フォーラム開催から4年。現在のILCの動向について、あらためて語ってもらった。


 ――4年前に学術会議が主催したILCフォーラムに登壇されて以降のILCの動向についてどのようなことを感じているか。
 有本氏 日本だけでなく世界の財政、経済構造は10年ほど前と比較し大きく変動している。そのような中で、日本が多くの部分を負担し、ILCのようなものを誘致できる時代なのかどうか。日本学術会議でILC誘致の議論を進めているが、大きな時代認識の下で落ち着いて考えるべき問題であろう。
 本来であれば、素粒子物理学者だけでなく、人文学や社会学、経済学といった大きなスコープの中で考える作業を最初にすべきだった。ところが、一部の人たちが政治との結びつきを重視する動きを取ってしまったのではないか。「政治と結びついていればお金がおりてくる」という時代なのか。ILCプロジェクトを政治化すれば実現へスピードアップできるとは、個人的には思えない。
 かつて米国ではSSC(超電導超大型加速器)という計画があり、1993年に議会の承認を得られず建設途中で頓挫した。これを受け米国は、資金を節約しCERN(欧州原子核研究機構)に投資する道を選んだ。研究者にとって、いかに実験時間を確保し成果を上げるかが重要。米国は国境を越えて欧州の既存施設への投資で、自国の研究者らの活動を担保する方法に転換した。日本にもこのような発想をするくらいの構想力が必要ではないか。
 日本の全学術分野に占める素粒子物理学者の割合は非常に小さい。素粒子の人たちは自分たちがやろうとしていることによって、他の研究分野にどれだけの影響を与えることになるのかも十分考えてほしい。ILCは地域活性化にも意義があるという主張もあるが、こういう超大型施設は当初よりコストが膨れ上がる例が多い。
 私は東日本大震災以降、災害復旧や復興に即効性のある研究開発成果を被災地域に実装する取り組みの一環で、津波被害を受けた漁業や農業地域の復興などに携わった。現地で寝泊まりし、被害状況を見させてもらった経験を通じて感じるのは、震災復興や地域振興は巨大施設だけでどうにかなるというものではない。残念ながら、そういった観点からの積み上げが十分にできていないと思う。
(つづく)


 有本 建男氏(ありもと・たてお) 1948年、広島県出身。京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、科学技術庁入り。文科省科学技術・学術政策局長などを経て、現在は政策研究大学院大学客員教授、科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター上席フェローなどを務める。JSTの社会技術研究開発センター長時代には、東日本大震災からの復旧・復興に、即効性のある研究開発成果を取り込む事業を各地で展開した。
トラックバックpingアドレス http://ilc.tankonews.jp/modules/d3blog/tb.php/783

当ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は胆江日日新聞社に帰属します。
〒023-0042 岩手県奥州市水沢柳町8 TEL:0197-24-2244 FAX:0197-24-1281

ページの先頭へ移動