人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC子ども科学相談室・41 お金をかけてやる意味は?

投稿者 : 
tanko 2018-10-19 9:50
 国際リニアコライダー(ILC)が実現すると、物理学の進歩だけでなく、施設周辺地域の国際化や経済効果も生まれるそうですが、建設には多くのお金が必要となります。もっと他に税金を使うべきことがあるのに、優先的に使って国際化や経済効果を得る必要性や意味はあるのでしょうか?

一概に善しあしは決められない

 ILCの建設には、本体だけで約8000億円余りの費用が必要です。ILC計画は国際プロジェクトですから、この費用については、研究に参加する国々がそれ相当の額を分担します。日本は建設する国(ホスト国)になる予定です。これまでの国際プロジェクトの流れで見ると、建設費の半分ぐらい、約4000億円を負担しなければいけません。
 「えっ! そんな多くのお金が必要なの」と思うかもしれません。しかしこれは、準備期間約4年、建設期間9年の間に必要な金額の総額です。つまり「いきなり4000億円を払ってください」というわけではありません。
 ちなみに、ILCの周辺道路や関連する施設の整備の費用は、8000億円の中には含まれていません。これらは、地元自治体(岩手県や奥州市、一関市など)と国との相談により造るとされています。完成後、ILCを運転するために必要なお金は、年額約390億円になるのではと見込まれています。
 一方、ILCを実現させたときの経済波及効果は約3兆円。その他の生産誘発効果(ILCに関連する経済波及効果)は、5兆7200億円と見込まれています。
 このようにILCの設置費用と、ILCで得られる経済的効果などについては、ある程度試算できます。しかし、金額や目に見える効果以外のメリットについては、ILCというものをどのように理解し、個人としてどのように考えるかによって異なります。一概にILCは「良い」「悪い」と決められません。
 かけたお金に対して返ってくるプラスの影響のことを「費用対効果」と言います。お金をかけた以上に効果が大きければ「費用対効果が高い」となり、お金をかけた割にはこれといった効果がなければ「費用対効果が低い」となります。会社経営や事業などをするときには、必ず出てくる考え方なので覚えておいてください。
 費用対効果を意識して「ILCの研究はどれくらいの意味があるのか」「費用に対して得られる効果はどうなのか?」という疑問を持つ感覚は、とても大切なことです。
 この世の中にはいろいろな事に興味を持つ人、持たない人がいます。さまざまな考え方や意見を持った人たちが大勢います。いろいろな考えを持っている人たちによって、この世は成り立っています。
 ILC計画に対し、疑問や「何のために?」「もっと他にすることやお金を使うことがあるのでは?」と考えるのは不思議なことでも何でもありません。何に対しても、興味や疑問を持ち続けることで、自分自身の考えを導き、持つことができるのです。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)


番記者のつぶやき
 私が小さいころに遊んだ「いろはかるた」で、「や」の絵札には、安い値段で買った急須を使ったところ、穴が空いていて水が漏れて困り果てた人の姿が描いてありました。「安物買いの銭失い」という有名なことわざです。
 費用対効果を考えるとき「安くていい効果を出したい」と誰もが思います。しかし、安いものが必ずしも「いいもの」とは限りません。ある程度の良い成果を得るには「ちょっと高くても仕方がない」と受け止めなければいけない場合もあります。安いものを買ったけれど、使い物にならなかった、あるいは全然効果がなかったとなれば、「ちょっといい値段でも、最初からしっかりしたものを買っておけばよかった」となります。新たに買い直すことで、最初に使ったお金が無駄になってしまう、つまり「銭(お金)を失う」のです。
 逆に高ければ必ずいい結果が出るとも限りません。物を買うときに迷ってしまうのは、費用対効果を真剣に考えている証拠かもしれません。かといって、あまり時間をかけすぎて費用対効果のことばかり考えていたら、欲しかったものを別の人が買ってしまったり、いい成果を得るためのタイミングを失ったりすることもあります。簡単に判断できる場合と、そうでない場合もあるので悩ましいところです。
(児玉直人)

写真=ILC実現による効果などが記されたパンフレット
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