人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】熱願冷諦――ILC誘致、識者は語る(1)

投稿者 : 
tanko 2018-10-18 6:20
リスク論からのアプローチ?
市民生活との関係つかめず
経済効果力説も乏しい実感

小松丈晃氏(東北大学大学院文学研究科・文学部教授)


 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致実現を巡り、日本学術会議の「ILC計画見直し案に関する検討委員会」(家泰弘委員長)は年内にも議論をとりまとめ、政府がILC誘致に対する考えを示す上での参考となる所見を示す見通しだ。研究意義や波及効果の大きさを熱っぽくアピールする誘致関係者に対し、同検討委では厳しい意見が相次いでいるほか、候補地近傍の市民団体や市民有志からはリスク面の不安や誘致運動の在り方に疑問が投げ掛けられている。政府判断のリミットが迫る中、社会学と科学技術政策の専門家2人に、ILCを巡る直近の動向を踏まえて見解を聞いた。7回続き。(児玉直人)


 1人目の専門家は、東北大学大学院文学研究科・文学部教授の小松丈晃氏。災害や科学技術によるリスク問題などを研究テーマに掲げる社会学者で、リスク管理や「無知」が引き起こす科学、政治の問題に関する著書、論文がある。ILCの周知・広報の在り方、慎重な見解を示す市民運動が起った現状などについて聞いた。


 ――文部科学省ILC有識者会議(7月4日で終了)や学術会議では、国民理解や地元理解が不可欠と指摘している。オリンピック以上の経済効果や人材育成面の意義があるとも言われるILCだが、候補地以外の地域では計画の存在すら知らない人が圧倒的。これほど認知度が高まらない理由として何が考えられるか。
 小松氏 発電所や廃棄物処分場、工場などであれば、目的が誰にとっても分かりやすい。
 しかし、ILCの施設目的を理解するには、最低限の科学的な素養が必要。目的が理解できても、それが自分たち市民の生活にどう関わるのかが見えにくいという点がある。「宇宙の謎を解く」という施設が立地したところで、果たして自分たちの生活にどう影響するか。判然としないだろう。
 ILCはあくまで科学者のための施設。なので「市民の側で必要性うんぬんを議論する余地はない」と捉えられている面があるかもしれない。
 経済効果も力説されているようだが、それは国内全体の効果であり、候補地の地元自治体にどれくらいの効果があるかは分からない。地元住民からすれば、県や市町村レベルの試算が欲しいところだろうし、数字だけでなく「町の姿がこう変わる」「雇用創出の点ではどうなのか」というように、市民が実感できるレベルの説明がなければ、認知度や市民間の議論は大きく盛り上がらないだろう。
(つづく)



小松 丈晃氏(こまつ・たけあき) 1968年、宮城県出身。東北大学文学部社会学科卒業後、同大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。同大学助手、日本学術振興会特別研究員、北海道教育大学釧路校・函館校准教授などを経て、東北大学大学院文学研究科・文学部人間科学専攻社会学講座教授。専門は社会システム理論、環境リスク論、地域社会研究。著書に「リスク論のルーマン」(勁草書房)。

※プロフィル写真は東北大学HPより
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