人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】ILC子ども科学相談室・36 未知の物質、何の役に?

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tanko 2018-8-24 9:30
 宇宙全体のうち、95%は私たちがまだ知らない物質のようです。国際リニアコライダー(ILC)では、それらが何なのか調べるそうですが、発見できたとして、私たちの生活にどのように活用していくことができるのですか?

新しい科学や技術に応用

 まだ知らない物質とは、「ダークエネルギー」や「ダークマター」のことですね。
 ダークエネルギーは「暗黒エネルギー」とも言われ、宇宙全体の約70%を占めると考えられています。ダークマターは「暗黒物質」とも呼ばれており、宇宙全体の約25%を占めると考えられています。「暗黒」と言っても「真っ黒い色」をしているわけではなく、現時点では正体がよく分からないから「ダーク」「暗黒」と呼んでいます。
 ダークエネルギー、ダークマター両方合わせて95%ですから、残りの5%が私たち人類がその存在を知っている物質です。科学技術が進んで、まるで何でも分かっているような錯覚になりますが、実は私たちは宇宙のわずかなことしか知らないのです。
 宇宙は現在も膨張し続けています。さらに最近の観測結果では、その膨張する速度が速くなっているということが分かっています。研究者の間では、宇宙を膨張させているエネルギー、すなわち、膨張させている力の元になっているのがダークエネルギーではないかと考えられています。
 ダークエネルギーがどのようなものなのか、どのような性質があるのかが分かると「宇宙は今後も今までと同じように膨張し続けるのか」「膨張しないで止まるのか」「膨張が止まったらそのままでいるのか、それとも今度は収縮していくのか」など、宇宙の未来の姿を予測することができるかもしれません。
 ダークマターは、現在の宇宙がどうしてこのような姿になっているのかを説明する上で、欠くことができない存在です。「もしダークマターの存在を無視すると、宇宙に点在する銀河がバラバラに飛び散ってしまっているはずだ」と研究者たちは考えています。ダークマターがなければ、今の宇宙の姿を理論的に説明できないのです。目に見える銀河と目に見えないダークマターとが引力で引き合っているから、今の宇宙は成り立っていると考えられています。
 宇宙や物質の研究をしている人たちにとっては、面白いテーマかもしれません。しかし、ダークエネルギーやダークマターの正体が分かったからといって、私たちの日常生活が急に変わるとか、変化が起こるというようなことはないと思います。
 素粒子物理学などの理論は、今まで考えられていたものと変わってくるかもしれません。今の素粒子物理学は「標準理論」という理論に基づいて、さまざまな物理現象が説明されています。もしダークエネルギー、ダークマターの存在や性質が解明されれば「今までの理論や説明は間違っている」「このように考えられる」など新しい理論や考えが生まれるかもしれません。
 さらにこのような基礎研究の成果を通じ、物質やエネルギーの性質が今まで以上に詳しく分かってくると、それらの性質を利用して、新しい科学や技術、商品開発などへの応用が開けるかも知れません。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)

番記者のつぶやき

 先日、東京都内でノーベル物理学賞を受賞したシェルドン・グラショー氏(85)とバリー・バリッシュ氏(82)の記者会見に出席しました。グラショー氏は、力を伝える素粒子である「電磁気力」と「弱い力」の統一理論(電弱統一理論)に貢献。物質を構成する素粒子の一種「チャームクォーク」の存在も予言しています。不老不死や完全性の象徴として古代から用いられている絵「ウロボロスの蛇」を使い、「素粒子の研究を進めることで、宇宙全体の構造が分かる」と提唱した人物としても知られています。
 会見前に親交のある日本人研究者がグラショー氏について「とてもユーモアにあふれた先生」と紹介していましたが、全くその通りでした。会見でグラショー氏はこう述べていました。
 「普通、科学者というのは自分が考えた理論がなんとか正しいものであってほしいと悩み、そして希望するものです。しかし、素粒子物理学者は標準理論が間違っていてほしいとも思っています。というのは、答えが見つかっていない質問が非常に多くあるからです。そして非常に多くの疑問が残っているからです。ILCによってそういった疑問の答えが見つかることを期待します」
 間違いを指摘された瞬間は落ち込むことが多いですが、より正しいものを追求したい思いが強いからこそ、「間違っていてほしい」という感情が湧いてくるのかなとも感じました。
(児玉直人)

写真=「素粒子物理学者は標準理論が間違っていてほしいと思っている」。ユーモアあふれる表現を交えながら語るシェルドン・グラショー氏=今月7日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で
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