人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致、住民理解へ努力意思(市民有志の苦言受け、鈴木県立大学長ら)

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tanko 2018-8-24 12:40
 東北ILC準備室長を務める鈴木厚人・県立大学学長(素粒子物理学)と、県の大平尚(ひさし)・企画理事は23日、県庁内で会見。北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)に対し、誘致運動の在り方に一関市内の市民有志らが苦言を呈していることに、県の基本的考え方や今後の対応について説明した。大平理事はさまざまな不安要素や疑問への対応について、リスクマネジメント説明会の開催など、住民の理解を得るための取り組みを充実させる考えを示した。運用終了後、高レベル放射性廃棄物の処分施設に転用されるのではとの指摘については、国際プロジェクトとして作られた施設が、日本の都合で廃棄物処理の場に勝手に転用することはできないと、可能性を否定した。

 会見は、一関市在住の僧侶で「ILC誘致を考える会」の千坂げんぽう(※)共同代表ら計6人が、日本学術会議(山極寿一会長)にILC建設に関する意見書を提出したことを受け開いた。同会議では「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」(家(いえ)泰弘委員長)を設置し、ILCの日本誘致の是非を議論している。
 千坂氏らは意見書の中で、地元負担などのリスク検証不足や、誘致活動に子どもたちを利用している点などを懸念。素粒子物理学者や地元行政の取り組み姿勢に苦言を呈した。一方で、ILCの科学的意義には理解したい姿勢も示しており、地域住民の理解構築がないまま誘致を進めれば「将来に必ず禍根を残す」と主張している。
 意見書は学術会議宛のもの。県や関係自治体に対する意見書や質問状のようなものは23日時点で提出されていないが、報道などを通じてILCを推進する鈴木学長や県の関係者も知るところに。
 大平理事は基本的な考え方として、講演会などを通じて県民理解の取り組みをしてきたと説明。「世界・日本における加速器の建設や運転実績、現地調査から(ILCの)実現に伴うリスクは克服できるものと考えている」とした上で、「それは住民らの理解があってのもの」と付け加えた。
 「リスクなどに関し、講演会の質疑応答で不十分との指摘もある。(県などの)ホームページにもQ&Aを掲載してきたが、事実を正確に伝えるため、内容を充実させる。リスクマネジメント説明会なども開催する」と述べた。
 鈴木学長は「いろいろな意見が出るのは良いことで、事実はしっかりと出すべき」とした。誘致運動に子どもたちを利用しているとの指摘があったことに「そういう気持ちは全くない」と理解を求めながら、「これから注意しないといけない」との認識を示した。
 頑丈な地下岩盤があることから、研究施設としての役割を終えた後、高レベル放射性廃棄物処分施設に転用されるのではとの懸念について大平理事は、「法律上で地下300mよりも深い地層の処分と規定されている。ILCは標高100m、地表から50〜100mの場所に建設される施設で、(廃棄物処理施設の条件に)全く該当しない。ILCは世界の国々が協力する国際プロジェクト。日本が勝手に(転用を)決めることはできない」と否定した。鈴木学長も「講演会などで必ず出てくる質問。深さや構造からもILCの施設は全く該当しない。もっと理解してもらう仕組みを考えないといけない」との考えを示した。
 地元自治体の財政負担について、大平理事は「建設費を自治体に負担せよということはない。ただ、周辺の道路や下水など社会インフラ整備は自治体として必要になる」と説明した。

写真=会見で質問に答える鈴木厚人学長(右)と大平尚理事(中央)

※注釈…千坂氏の名前の漢字表記は、山へんに諺のつくりで「げん」、峰で「ぽう」
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