人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致推進派の姿勢に苦言(一関市の有志ら日本学術会議へ意見書)

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tanko 2018-8-18 9:30
地元リスク検証不足/子どもを利用しPR/「復興」絡め意義強調

 一関市や平泉町内の僧侶、社会学が専門の大学教授らによる有志が、素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の建設に関する意見書を日本学術会議(山極寿一会長)に提出した。地元負担などのリスク検証不足や、子どもを利用した誘致PRを問題視。素粒子物理学者や地元行政の取り組み姿勢に苦言を呈しながら、地域住民への懇切丁寧な説明と理解構築の努力がないまま誘致を進めれば「将来に必ず禍根を残す」と主張している。他分野の学術研究者からもILC計画に対しては厳しい指摘が出ているが、有力候補地・北上山地の地元関係者から突き付けられた批判を推進派側はどう受け止め、対応していくのか。
(児玉直人)

 意見書を提出したのは「ILC誘致を考える会」共同代表を務める一関市の僧侶・千坂げんぽう(※)氏(73)ら計6人。同会議に設置された「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」(家(いえ)泰弘委員長)の第1回会合開催日の今月10日付で提出した。
 意見書は「ILCの学術的意義についてはできる限り理解したいと考えている」と前置きした上で?地元で展開している誘致運動の問題点?大規模で複雑な科学的公共事業に伴う内在的問題点――の二つを指摘した。
 取材に応じた千坂氏が特に問題視しているのが、子どもたちを利用した誘致活動。意見書では学校などでの出前授業を例示していたが、このほかにもポスターコンクールの開催、誘致を期待させる内容で小中学生が描いた絵をプリントした印刷物やのぼり旗の作製、国内外の研究者が集う歓迎行事での中学生による英語スピーチ、着ぐるみやキャラクターグッズを使ったPRなども展開されてきた。
 短大教授を務めた経歴がある千坂氏は「子どもたちの側からILCに対する説得が進んでいくため、親や周囲の大人たちが疑問を抱いても声に出しにくい雰囲気が築かれていく」と分析。自然や宇宙の営み、科学全般に興味関心を持ってもらうという範ちゅうを超えているとして、強く批判している。
 財政負担など、学術会議の検討委や文部科学省のILC有識者会議で取り沙汰された不確定要素が、候補地の地元住民に十分に伝わっていない点も指摘。東日本大震災復興の切り札、起爆剤としてILC計画が有効だとする趣旨の主張にも疑問を投げ掛ける。
 千坂氏は「リスク情報が知れ渡っていない中で、『子どもたちのため』『被災者のため』というような雰囲気が醸成されている。議会や地域の経済界、産業界、そして子どもを含む一般住民すべてが賛成している大政翼賛会的な状況にある」と警鐘を鳴らす。
 意見書は“ILC反対”を明確にするものではないと千坂氏は強調。メリットだけが独り歩きするのではなく、リスクやコストも適正に評価し、決定していく仕組みの必要性を訴える。科学と地域が両立する可能性を踏まえた、広範な議論の実現を学術会議側に期待している。
 学術会議事務局によると、提出された意見書は21日の第2回会合で各委員に配布されるという。
 千坂氏を除く意見書提出有志は、山下祐介氏(首都大学東京教授)、茅野恒秀氏(信州大学准教授)、高塚龍之氏(岩手大学名誉教授)、菅野成寛氏(中尊寺釈尊院)、佐々木邦世氏(同寺円乗院)。

写真=日本学術会議に提出した意見書の写しを手にする千坂げんぽう氏
※注釈…千坂氏の名前の漢字表記は、山へんに諺のつくりで「げん」、峰で「ぽう」
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