人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致 是か非か(学術会議検討委の議論スタート)

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tanko 2018-8-11 12:10
素粒子学界=科学的意義強調、他分野委員=疑問や厳しい指摘

 【東京=児玉直人】北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の国内誘致の是非を議論する、日本学術会議(山極寿一会長)の「ILC計画の見直し案に関する検討委員会」の第1回会議が10日、東京都港区の日本学術会議2階会議室で開かれた。素粒子物理学以外の分野を専門とする研究者らも名を連ねる同委員会。科学的意義に一定の理解を示したものの、スケジュールやコスト、地元との合意形成に対し、疑問の声や厳しい指摘が相次いだ。委員長には、日本学術振興会理事の家(いえ)泰弘氏が就任した。

 同検討委は物理学のほか、哲学や環境学、土木工学など他の学術分野の専門家を含む10人で構成。下部組織として技術検証分科会を設置しており、7人の分科会委員のうち3人は上部委員会の委員が兼任している。分科会の委員長には、慶応大学先導研究センター特任教授の米田雅子氏が選ばれた。
 同日はILC計画を推進する国際研究者組織、リニアコライダー・コラボレーション物理作業部会共同議長の藤井恵介氏らがILCの研究意義や施設設計について説明。文部科学省のILC有識者会議の委員を務めた大阪大学核物理研究センター長の中野貴志氏らも、有識者会議での議論のまとめについて報告した。
 藤井氏は、物質に質量を与えているヒッグス粒子について「複数種類存在する素粒子かもしれない。新しい物理を発見するためにヒッグスの精密測定の期待が高まっている」と強調。全長20kmの施設規模に見直された現計画は、ヒッグス粒子だけの研究施設と受け止められがちだが「新粒子探索の可能性はある」と説明。見直し後の施設であってもノーベル賞級の発見が期待できるとアピールした。
 これに対し、検討委員会委員からは厳しい質問や指摘が相次いだ。分科会委員で土木工学などが専門の経済調査会理事長・望月常好氏は、ILCの加速器を通り抜ける電子ビームが最後に到達する「ビームダンプ」と呼ばれる設備に関連して質問した。
 ビームダンプでは、水とビームが反応し放射性物質の一種「トリチウム(三重水素)」が発生。人体への影響は弱い放射性物質ではあるが、除去処理が難しく、東京電力福島第1原発事故の汚染水処理を難しくしている存在だ。
 望月氏は「ILC実現には地元との合意形成が不可欠。夢に向かうのはいいが、例えばビームダンプが壊れた場合はどうなるかなど、しっかり説明できなければ、地元との合意は得られない」と指摘。さらに「用地交渉や環境アセスメント、人的体制の確保など相当の時間を要するが、建設前の準備期間が4年となっている。明らかに短い」と疑問を呈した。
 このほかにも「国内の物理学者、素粒子物理学者の間では、ILCに対する賛同をしっかり得られているのか」「(見直し計画に対しては)科学的意義がしっかりあるという説明だが、世間一般では予算削減が目的だと受け止めている人が多い」といった指摘もあった。
 ILCを推進する素粒子物理学者らの間では、ヨーロッパの次期素粒子計画策定作業のスケジュール上、年内に日本政府が前向きな意思表示をしなければ、実現が厳しくなるとみている。一方、同検討委員会は来年7月まで設置することが可能だ。会議終了後、報道陣の取材に応じた家委員長は「課題が多岐にわたっており、しっかりと審議を尽くさないといけない。文科省からも『速やかに』との要請を受けているが、かといって締め切りを設定するわけではない」との考えを示した。

写真=日本学術会議のILC見直し案検討委員会の委員長に就任した家泰弘・日本学術振興会理事(中央)。写真左は2015年ノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章・東京大教授
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