人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

新粒子探査 間接的な方法で(文科省の有識者会議、計画変更に伴う検証報告)

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tanko 2018-6-1 10:00
 【東京=児玉直人】 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の国内誘致について協議している文部科学省の有識者会議(座長・平野真一名古屋大学名誉教授、委員14人)は31日、東京都千代田区の文部科学省16階会議室で第9回会合を開いた。施設全長20kmで建設を始める計画見直しを受けて実施した科学的意義やコストに関する再調査について、作業に当たった2部会が報告。委員からは、コスト削減ありきの見直しではなく「科学的意義がある点をしっかり示す必要がある」などの意見が出された。

 同会議では、当初計画の全長約30kmの規模を前提に議論を進めてきた。しかし、ILC計画を推進する国際研究者組織が昨年11月に了承した計画見直しを受け、再度内容を検証する作業部会を立ち上げ、科学的意義やコスト面の検証を進めていた。
 見直し後の施設規模は、スイスとフランスの国境にある素粒子研究施設「CERN(セルン)」の最新実験成果などを踏まえ、研究者組織が提唱。物質に質量を与えている素粒子「ヒッグス粒子」の生成に最適な規模が、全長20kmであることに基づいている。初期投資も当初より抑えられるメリットもある。
 一方で、まだ未発見の新粒子を直接生成する可能性は低くなる。だが、作業部会の報告ではヒッグス粒子の精密測定などを通じた間接的な方法で探査することは可能という。もちろん、偶然に新粒子が発見されることも完全には否定できないという。
 このほか、見直しによる施設の構造やコスト削減による影響、課題に関する検証についても報告があった。
 見直し後の計画では、トンネルの断面が幅11mから9.5mに縮小している。ILCのトンネルには左右を仕切るコンクリート製の遮蔽壁が設置され、加速器を設置する空間と電源供給装置などを設置する空間を分けている。これにより放射線が発生する加速器運転中でも、電源供給装置があるエリアは出入りが可能となっていた。
 しかし、トンネル断面が小さくなることで、遮蔽壁の厚さが3.5mになり、電源供給装置がある空間にも加速器運転中は入れなくなった。報告では「運営上の支障にならないよう工夫をする必要がある」とした。
 同日は、野村総合研究所に委託した計画変更後の経済波及効果の再計算結果も公表された。金額はILC本体のみに特化したもので、計画見直し前の2014年時点では4兆4606億円だったが、今回の試算では2兆6489億円から2兆9067億円と算出した。ただしこの結果については、建設期間の光熱費の算出方法などに疑問が相次ぎ、再度算出し直すことになった。
 次回有識者会議は今月19日に開く。

写真=文部科学省で開かれた第9回ILCに関する有識者会議
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