【連載】ILC子ども科学相談室・27 北上山地の良さって何?
- 投稿者 :
- tanko 2018-5-25 14:20
国際リニアコライダー(ILC)の候補地に北上山地が選ばれている理由は、丈夫な岩盤があるからだという話でした。でも、北上山地に国際的な研究施設を造ったり、外国人研究者らを迎え入れたりするには東京や大阪など大都市に比べ不便なような気がします。ILCを迎え入れたいですし、北上山地の良さを伝えたいのですが、何をPRすればいいのか分かりません。
今の岩手の良さを伝えて
連載のお休みが2回続きましたが、前回は北上山地がILCの有力候補地に選ばれた最大の理由として、地盤が安定しており振動が少ない花こう岩の岩盤があるからだと説明しました。
このほかにも北上山地が選ばれた理由があります。それは、電子と陽電子がぶつかる衝突地点(中間点)やILC施設への道路、鉄道、空港、港湾などのアクセスが良いという点です。
もうひとつの良さは、生活環境です。ILCの建設には10年以上の時間を必要とします。完成した後も実験装置の搬入や、世界各国の研究者や技術者の出入りが頻繁になります。北上山地の近くには、北上川沿いに奥州市や一関市などの地方都市があり、それらの町へ分散居住することが可能です。
高速道路や新幹線を利用すれば、首都圏にある研究施設や大学、政治、行政などの関係機関との往来も容易です。さらに花巻空港や仙台空港から成田や羽田国際空港などを経由し、世界へアクセスすることも十分可能です。
東北以外の連携はもとより、東北大学や岩手大学などはより身近で日常的に連携できる距離にあります。
岩手は何もない「田舎」のように感じる人もいるかもしれませんが、北上山地には、すでにいろいろな条件がそろっており、ILCを迎え入れるために特別な支障や課題はありません。
自然環境についても、最近は暑い日が多いですが、首都圏以南などの地域に比べれば冷涼な日が多く、暑さを嫌う機械装置類にとっては好条件と言えます。三陸復興公園、スキー場、温泉、マリンスポーツなど余暇を楽しむすばらしい環境が多くあります。世界文化遺産の平泉をはじめ、世界自然遺産の白神山地が近くにあるなど歴史と文化、豊かな自然環境がそろっており、申し分ありません。
私たちは、今の岩手そのものに自信を持って正直にありのまま世界に紹介すれば良いと思います。特別に改まって何かを用意したり、派手なパフォーマンスしたりする必要はないのです。
「世界各国から来るいろいろな人々と分け隔てなく自然に付き合っていくにはどうすれば良いのか?」といったことを考え、心掛けたり、協力・努力したりする姿勢こそが、結果としてILCを応援することになるのです。今の岩手の良さを生かし、ILCを素直に迎え入れることです。
岩手で暮らし働いている人に対して、あえて期待することを挙げれば「食材供給」への対応です。
岩手県は全国、世界に誇る農畜産物、海産物の宝庫です。それなのに、食材を他地域から調達するのでは、都会の大手の商社がもうかるだけです。
岩手は農業に対するノウハウを十分持っています。寒冷地という環境を逆手に取る工夫や、従来農産物の品種改良、さらには人工知能(AI)技術を利用した植物工場などの仕組みを作り、食材提供する方法を検討し、実践することもILCの応援につながりますし、農業や漁業など第一次産業そのものの発展にもなります。
もしILCが実現した時には、関連施設からの温・排水熱エネルギーを利用した農産物や家畜・養魚業などの生産も考えられています。このような新しい第一次産業に従事し、発展させていく取り組みに、若い皆さん方は挑戦してほしいなと思います。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)
番記者のつぶやき
ILC関係の講演会やシンポジウム、座談会等の席に、高校の生徒さんが参列することがあります。海外の素粒子研究施設を視察し、勉強してきた人たちもいます。ところが、そのほとんどは理数科や大学進学を前提とした勉強をしている高校の皆さんです。「彼ら以外の同年の高校生は、正直ILCをどう思っているのかな」と感じることがあります。
岩手県にはいろいろな専門学科を有する高校、専門学校、大学があります。農業、商業、工業、水産、さらには福祉、医療・看護、食物、スポーツ、芸術など実に多彩です。ILC計画がもたらす波及効果や関係する業種の多様性を考えれば、理数系の生徒の皆さんだけがILCを知っていればよいというわけではありません。
ILCを取材して9年になりますが、残念ながら理数系以外の生徒さんたちがILCに絡んだ勉強や課題研究のようなものに取り組んだという様子を、ほとんど見たことがありません。花巻農業高校の生徒さんが、ILCと記されたリンゴをつくったぐらいでしょうか。もし実例がありましたら、情報をお寄せください。
「ILCを進める側がそういう場を広く積極的に提供してこなかったのではないか」という疑問が残ります。
(児玉直人)
写真=豊かな自然と農畜産物、水産物が岩手の自慢(江刺のリンゴ園(資料))
今の岩手の良さを伝えて
連載のお休みが2回続きましたが、前回は北上山地がILCの有力候補地に選ばれた最大の理由として、地盤が安定しており振動が少ない花こう岩の岩盤があるからだと説明しました。
このほかにも北上山地が選ばれた理由があります。それは、電子と陽電子がぶつかる衝突地点(中間点)やILC施設への道路、鉄道、空港、港湾などのアクセスが良いという点です。
もうひとつの良さは、生活環境です。ILCの建設には10年以上の時間を必要とします。完成した後も実験装置の搬入や、世界各国の研究者や技術者の出入りが頻繁になります。北上山地の近くには、北上川沿いに奥州市や一関市などの地方都市があり、それらの町へ分散居住することが可能です。
高速道路や新幹線を利用すれば、首都圏にある研究施設や大学、政治、行政などの関係機関との往来も容易です。さらに花巻空港や仙台空港から成田や羽田国際空港などを経由し、世界へアクセスすることも十分可能です。
東北以外の連携はもとより、東北大学や岩手大学などはより身近で日常的に連携できる距離にあります。
岩手は何もない「田舎」のように感じる人もいるかもしれませんが、北上山地には、すでにいろいろな条件がそろっており、ILCを迎え入れるために特別な支障や課題はありません。
自然環境についても、最近は暑い日が多いですが、首都圏以南などの地域に比べれば冷涼な日が多く、暑さを嫌う機械装置類にとっては好条件と言えます。三陸復興公園、スキー場、温泉、マリンスポーツなど余暇を楽しむすばらしい環境が多くあります。世界文化遺産の平泉をはじめ、世界自然遺産の白神山地が近くにあるなど歴史と文化、豊かな自然環境がそろっており、申し分ありません。
私たちは、今の岩手そのものに自信を持って正直にありのまま世界に紹介すれば良いと思います。特別に改まって何かを用意したり、派手なパフォーマンスしたりする必要はないのです。
「世界各国から来るいろいろな人々と分け隔てなく自然に付き合っていくにはどうすれば良いのか?」といったことを考え、心掛けたり、協力・努力したりする姿勢こそが、結果としてILCを応援することになるのです。今の岩手の良さを生かし、ILCを素直に迎え入れることです。
岩手で暮らし働いている人に対して、あえて期待することを挙げれば「食材供給」への対応です。
岩手県は全国、世界に誇る農畜産物、海産物の宝庫です。それなのに、食材を他地域から調達するのでは、都会の大手の商社がもうかるだけです。
岩手は農業に対するノウハウを十分持っています。寒冷地という環境を逆手に取る工夫や、従来農産物の品種改良、さらには人工知能(AI)技術を利用した植物工場などの仕組みを作り、食材提供する方法を検討し、実践することもILCの応援につながりますし、農業や漁業など第一次産業そのものの発展にもなります。
もしILCが実現した時には、関連施設からの温・排水熱エネルギーを利用した農産物や家畜・養魚業などの生産も考えられています。このような新しい第一次産業に従事し、発展させていく取り組みに、若い皆さん方は挑戦してほしいなと思います。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)
番記者のつぶやき
ILC関係の講演会やシンポジウム、座談会等の席に、高校の生徒さんが参列することがあります。海外の素粒子研究施設を視察し、勉強してきた人たちもいます。ところが、そのほとんどは理数科や大学進学を前提とした勉強をしている高校の皆さんです。「彼ら以外の同年の高校生は、正直ILCをどう思っているのかな」と感じることがあります。
岩手県にはいろいろな専門学科を有する高校、専門学校、大学があります。農業、商業、工業、水産、さらには福祉、医療・看護、食物、スポーツ、芸術など実に多彩です。ILC計画がもたらす波及効果や関係する業種の多様性を考えれば、理数系の生徒の皆さんだけがILCを知っていればよいというわけではありません。
ILCを取材して9年になりますが、残念ながら理数系以外の生徒さんたちがILCに絡んだ勉強や課題研究のようなものに取り組んだという様子を、ほとんど見たことがありません。花巻農業高校の生徒さんが、ILCと記されたリンゴをつくったぐらいでしょうか。もし実例がありましたら、情報をお寄せください。
「ILCを進める側がそういう場を広く積極的に提供してこなかったのではないか」という疑問が残ります。
(児玉直人)
写真=豊かな自然と農畜産物、水産物が岩手の自慢(江刺のリンゴ園(資料))