人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

残る課題 国民周知(年内の政府判断望むもわずか半年、至難の業)

投稿者 : 
tanko 2018-5-11 10:10
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の実現に向け、今年中に日本政府の意思表明が必要とされる中、国民に対する周知と理解形成がいまだに不十分な状況にある。誘致関係者も「最後に残った大きな課題」と認識。ツイッターなど、インターネットのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを通じてアピールに力を注ぐが、わずか半年で広く国民に認知してもらうのは、容易なことではなさそうだ。
(児玉直人)

 10日午後、仙台市内のホテルで開かれた東北ILC推進協議会の総会。誘致に携わる研究者や自治体関係者ら約200人が出席した。
 年に一度の総会では岩手、宮城両県の知事や候補地周辺自治体の首長らが登壇し、決意表明をするのが恒例に。正念場となる年を意識した言葉が相次いだ。本年度、新たに参与に就任した大船渡市の戸田公明市長は、ILCの部品荷揚げ拠点の一つに大船渡港が位置付けられていることを挙げながら「実現へ最大限協力したい」と力を込めた。
 総会後の特別講演では、東京大学の山下了特任教授が誘致活動の進展状況を報告。欧米との事務レベルの協議や地元受け入れ態勢にかかる計画の策定など、多くの作業が「順調」に進んでいると強調した。
 その一方で唯一残っている最大の課題が、国民への周知や理解の形成。山下教授は「年内に日本政府が前向きな意思を示す上では、社会全体の応援が必要」と語る。
 先月16日、都内で「ILC Supporters(サポーターズ)」の結成会見が行われた。映画監督の押井守氏が発起人。ゲームディレクターや声優など、科学とは一見無縁の分野の著名人らが賛同し、ILCをアピール。映像作家の森本晃司氏がデザインしたタトゥーシール(肌に直接貼るシール)を貼った姿をSNSに投稿し、ILCの周知を図るという。
 東北推進協の総会出席者にもタトゥーシールを配布。会場一角には撮影用のパネルが設けられ、小沢昌記奥州市長や勝部修一関市長らも手の甲にタトゥーシールを貼り、その様子はフェイスブックなどにすぐさま投稿された。
 タイムリミットが迫る中、必死に取り組む関係者。しかし国民やメディアの関心は、現政権を取り巻く諸問題や北朝鮮を巡る国際情勢、芸能界での不祥事などに注がれているのが現実で、わずかな時間で話題の上位にILCが入り込むのは至難の業だ。東日本大震災前から誘致活動を進めている岩手、宮城であっても、候補地周辺自治体とそうでない自治体とでは温度差がある。
 東北ILC準備室長を務めている岩手県立大学の鈴木厚人学長(素粒子物理学)は、国内政治の現状なども踏まえ、決して容易な取り組みではないと受け止める。その上で「むしろこういう状況だからこそ、日本が起死回生するようなもの(ILC)がなければいけない。実現へあらゆることをやっていきたい」と前を見つめる。

写真上=一関市の児童たちが作ったのぼり旗が飾られた総会会場。壇上では関係首長らが決意表明した

写真下=総会出席者に配布されたタトゥーシール
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