人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC子ども科学相談室・23 ダークマター、ダークエネルギーって何?(その2)

投稿者 : 
tanko 2018-4-20 10:30
 宇宙には、私たちが知っている物質のほかに、ダークマター(暗黒物質)とダークエネルギー(暗黒エネルギー)という正体不明の物質やエネルギーがあることが分かりました。それにしても正体不明のものが、なぜ「存在している」と分かるのですか?

天体の動きが説明できない

 ダークマターの存在を最初に提唱したのは、アメリカ・カリフォルニア工科大学の天文学者フリッツ・ツビッキー(1898〜1974)です。1933年のことでした。
 彼は地球から約3.2億光年離れた場所にある「かみのけ座」銀河団の質量(重さ)を知ろうと観測を始めました。1000個以上の銀河が集まっている場所です。
 観測を続ける中、銀河団には高速で動いている銀河がいくつもあることに気付きます。ツビッキーは「これらの銀河はどうして飛び出していかないのだろうか?」「飛び出さないように、つなぎとめるだけの引力を及ぼしている『何かの物質』があるのだろうか?」と疑問を持ちました。
 銀河の動きから質量を計算したのですが、銀河団の明るさを手掛かりに計算する方法で求めた質量よりも桁違いに大きい、という結果が出ました。
 ツビッキーは「銀河団には、目に見えず、光も発しないが巨大な重さを持った『何か』がある。だから明るさを手掛かりに計算した重さのほうが、銀河の動きから求めた重さよりも小さくなったのだろう」と考えました。また、そのように考えなければ、「銀河団の中で高速で運動している銀河は、宇宙のどこかに飛んで行ってしまうだろう」。銀河をつなぎとめる「何か」が存在しなければいけないのです。
 ところがツビッキーのこうした考え方や論文は約40年間、放置されたままになっていました。

 ダークマターが「確かに存在する」という証明をしたのは、アメリカの女性天文学者・ヴェラ・ルービン(1928〜2016)です。彼女は1970年に「アンドロメダ銀河の回転」という論文を発表し、「この銀河には目に見えない物質が大量に存在する」と言いました。
 アンドロメダ銀河は、太陽系がある「天の川銀河」の隣にあります。隣と言っても、地球から約230万光年も離れた場所にある渦巻銀河です。この銀河では、円盤状に集まった恒星(自分で光っている星)が銀河の中心を回っています。
 太陽系では、水星など太陽に近い惑星ほど太陽の周りを早く回っており、海王星など遠い惑星ほどゆっくり回っています。太陽に近い水星は、太陽の引力で取り込まれないよう高速で動き、遠心力を獲得して太陽の引力とバランスを取っています。一方、海王星のように太陽から離れている惑星では、太陽の引力の影響は小さく、ゆっくり回っていてもよいのです。ちなみに太陽の周りを回る平均速度(公転速度)は、海王星が秒速5.5kmであるのに対し、水星は秒速48km。およそ9倍の差があります。
 アンドロメダ銀河でもこのように中心に近い銀河ほど早く回っていると考えるのが常識です。ところが、実際に観測してみると、中心部の銀河と遠くの方にある銀河(外縁部の銀河)とはほぼ同じ速度で動いていたのです。なぜでしょう?
 ルービンもツビッキーと同じような考えを持ちます。「目に見えない物質が満ちているようなことを考えなければ、このような事象は説明できない」「外縁部の星が高速で走り回っても飛び散っていかないほど強力な引力で銀河に引きとめられている。何か分からない物質があると考えなければ説明できない」
 2人の天文学者は、説明のつかない天体の動きから、「見えないけれども何かがある」と感づいたわけです。
 次回もまた正体不明のダークマターについて見ていきましょう。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)

写真=かみのけ座銀河団
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