人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】ILC子ども科学相談室・22 ダークマター、ダークエネルギーって何?

投稿者 : 
tanko 2018-4-13 10:10
 国際リニアコライダー(ILC)の研究目的の中で、よく「ダークマター」とか「ダークエネルギー」という言葉が出てきます。これって一体何なんですか?

正体不明で、何なのか分かりません

 二つの似たような言葉が出てきましたので、一つ一つ解説していきましょう。今回はダークマターについてです。
 「ダーク(dark)」は、暗闇とか正体が不明なものという意味で使われます。「マター(matter)」は物質のことです。日本語に訳すと「暗黒物質」となります。
 宇宙には水素やヘリウムをはじめ、さまざまな物質が存在しますが、ダークマターについては、今のところ「それが何なのか分からない」のです。しかし、宇宙で見られる天文現象を説明する際、正体不明のダークマターが「存在する」と考えないと、うまく説明できないことがあります。現在ではダークマターは「質量(重さ)は持っているが、光学的に直接観測できないとされる仮説上の物質」と説明されています。ダークマターには、電場や磁場によってお互いに作用する「電磁相互作用」がないため、通常の観測手段では見つけることができないのです。

 少しおさらいをしましょう。
 私たちの体も含め、この世界のありとあらゆるものは「原子」でできており、さらに原子は、「原子核」と「電子」からなり、原子核は「陽子」と「中性子」で構成されています。そして陽子や中性子は、「アップクォーク」と「ダウンクォーク」という素粒子からできています。これらは目に見える、あるいは何らかの観測や実験で確認できる物質です。
 ところが、最新の宇宙物理学の成果によれば、このように目に見える物質は、宇宙全体の4%ほどを占めているにすぎず、正体不明のダークマターが約23%に達するということが分かっています。
 つまり、宇宙には「正体不明のよく分からないもの」が、私たちの知っている物質の5倍以上もあるわけです。古代ギリシャの哲学者デモクリトス(紀元前460年ごろ〜紀元前370年)は、「あらゆるものは原子でできている」という有名な原子論を唱えましたが、今ではこの教えは、まったく通用しないことになります。今まで信じられてきた自然科学の常識がひっくり返されているのです。
 もっと驚くべきことは、ダークマターがなかったら、今の宇宙は成り立たなかったことです。
 宇宙誕生時の大爆発「ビッグバン」直後に生まれた暗黒物質の群れは、巨大な重力によって他の暗黒物質の集団や陽子、中性子などの通常の物質を引き寄せ、やがて恒星や銀河、銀河集団を作っていきました。現在、地球が太陽系の一員として存在できるのは、暗黒物質のおかげであると言えます。今この瞬間、宇宙からダークマターがなくなれば、宇宙はバラバラになってしまうでしょう。
 ではどうして、目に見えず観察不可能なダークマターというものが「存在する」ということに気が付いたのでしょうか? つづきは次回へ。
(奥州宇宙遊学館館長・中東重雄)

番記者のつぶやき

 新年度がスタートしました。学校に通っている児童、生徒の皆さんは、新しい学年の教科書や副読本(資料集)などを手に、早速中身を見たことでしょう。「楽しみだなぁ」「え〜、何だか難しそうだな」など、いろいろ感じたのではないかと思います。
 さて、かつて教科書に載っていた「常識」が、今は通じない、間違っていたということがあるようで、特に歴史の教科書で多く見られるようです。歴史研究が進む中で、新たな事実が発見されるようなことがあると、教科書に記載する内容も修正されるのです。源頼朝や足利尊氏の肖像画として教科書にも登場していた絵は、「実は違う人」「本人ではない可能性が高い」といった指摘を受けています。
 「原子」を意味する英語「atom(アトム)」は、「これ以上分けられないもの」という意味のギリシャ語が語源のようです。ところが、現代の科学では本当にこれ以上分けられないものは電子やクォークといった「素粒子」になっています。今は正体不明のために「ダークマター」「ダークエネルギー」と呼ばれている物質やエネルギーに、ちゃんとした名前が付く日が来るかもしれませんね。
(児玉直人)
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