人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】ILC子ども科学相談室15 宇宙に始まりがあるのは、なぜ分かったの?

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tanko 2018-2-2 18:40
 ILCは宇宙誕生の謎を調べるそうですが、どうして宇宙に始まりがあることが分かったのでしょうか。宇宙が誕生する前は、一体何があったのでしょうか。

理論と観察結果から分かりました

 「宇宙には始まりがある」という科学的な考え(学説)は、いつごろからあったか、振り返ってみましょう。
 アルベルト・アインシュタイン(1879〜1955)は、1915年に重力場の理論である「一般相対性理論」を発表しました。この理論によって「宇宙誕生のモデル」が作れるのではないかと考えたのです。
 アインシュタインは、当時信じられていた「宇宙は静止している」という「定常宇宙モデル」を導こうとして、自身の基礎方程式である「アインシュタイン方程式」を解き始めます。しかし「アインシュタイン方程式」では、万有引力はすべての物質に引力として働くため、はじめは静止していても宇宙の物資はお互いの重力が作用し合い動いてしまうので、宇宙は「膨張」または「収縮」してしまいます。
 その後、旧ソ連の宇宙物理学者、数学者のアレクサンドル・フリードマン(1888〜1925)や、ベルギーの宇宙物理学者ジョルジュ・ルメートル(1894〜1966)は、アインシュタイン方程式を解きます。その結果、フリードマンは「大きさのない宇宙が誕生」し「膨張する」か「膨張後、収縮する」。ルメートルは「宇宙は膨張している」という考えをそれぞれ発表しました。このように理論的には「宇宙は、どうやら膨張しているらしい」と考えられるようになります。
 1929年になり、エドウィン・ハッブルというアメリカの天文学者が、銀河を観測していたところ「宇宙が膨張している」ことを発見しました。ハッブルは、遠くの銀河ほど速い速度で遠ざかっていることを見いだし「ハッブルの法則」として発表した。理論だけでなく観測結果からも「宇宙は膨張している」ことが分かったのです。このことは「宇宙には始まりがある」ということを端的に示している重要な観測事実です。
 また「空間が膨張している」という観測事実は、「宇宙全体の体積が増加するため、物質やエネルギーの密度は低下する」ということを物語っていることになります。
 逆に、現在から宇宙誕生の瞬間に向かって時間をさかのぼっていくと、密度は上昇することになります。物質の密度やエネルギーはどんどん増大すると、温度も上昇します。
 単純に考えれば、138億年前には密度と温度が無限大となります。この状態が、宇宙誕生直後の大爆発「ビッグバン」に当たります。宇宙は、密度と温度が極めて大きい、超高温・超密度状態から始まったことになります。
 では、フリードマンらが提唱した「大きさのない宇宙」とはどのような宇宙なのでしょうか。これまでにさまざまな理論が唱えられていますが、それらを用いて宇宙誕生前の状態を解き明かすには、あと100年ぐらいはかかるとも言われています。残念ながら、現在の物理学では「宇宙の始まり」について何も答えることができません。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

番記者のつぶやき
 久しぶりに「科学」の専門的な話を取り上げました。
 宇宙もそうですが、科学の世界には一度疑問を持ちだすと、次から次へと「なぜだろう」「わからない」という新たな疑問が生まれてきます。一般の人たちからすれば、研究者の皆さんは難しそうな研究や観測、実験に挑んでいるように見えますが、おそらく、とても素朴で単純な疑問がすべての始まりなのではないかと思います。
 宇宙に誕生する瞬間があったとすれば、もしかしたら「終わる瞬間」もあるかもしれません。知りたいような、知りたくないような……ですね。
(児玉直人)
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