人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】ILC子ども科学相談室・14 ILCは税金で造るの?

投稿者 : 
tanko 2018-1-26 16:00
 日本では「お金があまりない」「財政が厳しい」とよく聞きます。国際リニアコライダー(ILC)は、税金を使って造るのですか?

公共性が高いので税金で造ります
 税金とは私たちの社会を支えるためのもので、公共的な財産を購入・建設したり、公共サービスを提供したりするため、法令に基づいて国民(住民)に負担を求めるお金です。したがって税金を使う事業は、公共性があるかどうかが重要となります。
 ILCについては、その目的や内容から「純粋な物理の基礎研究のための施設」であることから、税金を投入する事業の対象となり得ます。
 「国益になるかどうか」ということも重要な事項です。▽ILCが国民に対しどのようなメリットがあるか▽メリットはすぐ表れるのか時間をかけて出てくるのか▽どの程度の経済的波及効果が見込めるのか▽環境への影響はどうか――など、あらゆる方面から検討されます。国はそれらの検討結果をまとめ、国会の承認を得て、実施するかどうか決定します。
 ILCの本体建設費は、当初計画の全長31kmでは約1兆1000億円とされていました。しかし、新しく示された全長20kmから開始する計画だと、当初の建設費より約40%少なくなると見積もられています。北上山地に建設されることが正式決定すると、ホスト国となる日本は、本体建設費の半分よりやや多いくらいの金額を負担することになると言われています。
 仮に当初より建設費が約40%削減されるなどの条件に基づき計算してみると、日本は3300億円から4000億円程度負担することになるでしょう。実際に日本がどれくらい負担するのかは、今後の話し合いによって変化してくると思います。ここでの金額は、あくまでも「仮の計算」で導かれたものです。
 ところで、ILCに対する日本の負担額の中で、よく誤解されるのは「一気に数千億円ものお金を日本が支払わなければいけない」と勘違いされてしまう点です。ILCの建設期間は約10年と見込まれているので、平均すれば年間数百億円程度の負担です。
 ちなみに国際宇宙ステーションの運営に、日本は2010年までに約7100億円負担しています。2011年からの5年間は計2000億円、2011年以降は年間400億円投じています。
 では、ILCを建設することによるメリットは、基礎研究の発展以外に何かあるのでしょうか。
 まず考えられるのは経済波及効果です。2013年に日本生産性本部が、当初計画である施設規模全長31kmを前提に、「建設期間10年、運転期間20年」という条件で試算したところ、加速器関連産業(1次)関係で12.1兆円、加速器利用関連産業(2次)関係で32.6兆円の計44.7兆円の効果があると予測しています。ILC建設には数千億円規模を支出しますが、その見返りとなる経済波及効果が44.7兆円です。税金を使う価値は十分あると思われます。
 この試算では「運用期間20年」と条件を設けていますが、これは「ILCの施設を20年しか使わない」という意味ではありません。スイスの欧州原子核合同研究機構(CERN)では、建設から60年たった現在でも研究を続けています。ILCについても同様のことが考えられるのです。
 外国からの研究者や技術者もたくさんやってきます。そうなると住民と研究者家族との国際交流が盛んになると思われます。地域の小・中学校にさまざまな国の子どもたちが通学するかもしれません。わざわざ海外に行かなくても、異文化交流ができます。地域の教育レベルの向上も期待できそうです。
 国際交流や教育面の効果については、はっきりとした数字がまだ公表されていませんが、地域住民にとっては貴重な経験となるに違いありません。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)


番記者のつぶやき
 先日、うちの子どもたちがお風呂の中で遊べる「実験入浴剤」というものを買ってきました。理科室にあるビーカーのような入れ物に、専用の粉と液体を入れて棒で混ぜると、泡状の入浴剤がブクブク出てくるというものです。
 ただし、わが家のお湯を温める装置は、入浴剤が使えない構造。「無駄な買い物だな」と思ったのですが、子どもたちはお風呂の中ではなく洗面器を使い、目の前で起きる不思議な現象を楽しんでいました。
 ある人から見れば無駄な買い物かもしれませんが、別な人にとってはとても大切なものだったり、想像以上の効果を生み出したりすることがあります。税金の使われ方を見ていても、似たようなことを感じることがよくあります。
 子どもたちが「あの泡のブクブクは、どうやってできるのかな」と、いつか自由研究でもしてくれたら「無駄な買い物」ではなかったかもしれませんね。
(児玉直人)

写真=胆江法人会が毎年開催する小学生による税のポスター展。税金は有意義な形で使われてほしいものですね(資料)
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