人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC子ども科学相談室・13 ILCが誘致できない場合はどうなるの?(後編)

投稿者 : 
tanko 2018-1-19 11:10
 1月5日付から続く「国際リニアコライダー(ILC)が誘致できなかった場合は」の最終回。一部の人たちから「ILCは核廃棄物の貯蔵場所になる」といううわさが出ていましたが、それは本当なのでしょうか?

構造上、核処分場や貯蔵場所には適しません

 ILC計画がどの段階で中止したのかによって、多少対応が異なると思います。
 工事を始める前に、日本への誘致やILC計画そのものの実施が困難となれば、研究者は別の実験方法や施設の姿を考えるかもしれません。ILCを北上山地に誘致する活動をしていた団体なども解散し、奥州市や一関市のあちらこちらで見掛けた「ILC実現を!」などと書かれた看板やのぼり旗も取り外されると思います。もしこのような結果が起きてしまったら、とても残念な気持ちになってしまうことでしょう。
 アメリカのSSC(超伝導超大型加速器)のように、建設工事が始まっている途中で中止になった場合は、ちょっと大変です。造ってしまった施設をどうするのかという問題があるからです。
 「せっかくなので別なことに使おう」となった場合に、心配されているのが「核廃棄物貯蔵施設」への転用です。少し難しい言葉ですが、原子力発電所などで不要になった放射線を出し続ける物質「放射性物質」を捨てる場所に使われないかということです。
 放射性物質にはいろいろな種類があります。短い時間しか放射線を出さないものもあれば、何万年、何億年と出続けるものもあります。
 放射線を大量に浴びたり、少ない量でも長時間浴び続けると、人体の健康に影響を与える恐れがあります。そのために、核燃料を扱う原子力発電所やそこから発生する「核廃棄物(核のごみ)」を捨てる場所に対しては、「本当に安全なのか」「危険だからそういう施設は造らないでほしい」と心配する声があるのです。
 では、ILCのために造ってしまったトンネルがそのような施設になるのでしょうか。
 結論から言うと、心配ありません。北上山地にILCを造る場合、標高約100mの位置にトンネルを掘ることになっています。標高とは「海面からの高さ」です。つまり、北上山地の地面に立ったとき、場所によってトンネルの位置が地面から50m下だったり、100m下だったりするのです。奥州市や金ケ崎町の中心部は標高50m前後の場所にあるので、ILCのトンネルはそれよりも高い位置に掘られることになります。
 一方で、経済産業省などが構想に描いている「核廃棄物貯蔵施設」は、地下300m以上の深さの「安定した地層に貯蔵する」ことが法律によって決められています。したがってILC用に掘削されたトンネルは、標高100mに位置しているので対象外になり、転用される心配はありません。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

番記者のつぶやき
 ILCに関連した記事には、たくさんの専門用語や、理解するのが難しい現象が次々と出てきます。皆さんに分かりやすくしようと心掛けていますが、まだまだ努力が足りないなと感じ続けています。
 ただし、分かりやすく表現しようと思うがあまり、かえって誤った情報を伝えてしまう危険性もあります。今回の中東さんの解説にも出てきた、ILCのトンネルの位置についてもそうです。新聞記事に限らず、ILCの誘致団体や専門家の講演会、説明用のパンフレットなどには「地下100m」と書かれていることがあります。
 いきなり「地下100m」と言われたら、どんな場所をイメージするでしょう? きっと「自分の足元から100mの深さ」をイメージする人もいるのではないでしょうか。
 専門家の世界では「常識的」なことも、一般の方々にとっては分からないこと、違うイメージで伝わってしまうことがたくさんあります。知人の科学者はこんなことを話していました。「子どもたちに分かるように説明できない専門家は失格ですよ」と。
(児玉直人)
写真=ILCのトンネル想像図=(C)Rey.Hori/KEK
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