人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC子ども科学相談室・11 ILCが誘致できない場合はどうなるの?(前編)

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tanko 2018-1-5 10:30
 国際リニアコライダー(ILC)は、建設することすらまだ決まっておらず、研究者の皆さんや候補地の地元の人たちが頑張っていることは、前回(昨年12月29日付)説明がありました。あまり考えたくありませんが、もし誘致が実現しなかったらどうなるのでしょう? 過去に同じような失敗例はあったのでしょうか?

失敗例……。実はありました

 ILCのような大きな科学実験施設の建設計画で、途中で中止になった例があります。アメリカの「SSC計画」です。SSCとは Superconducting Super Collider の頭文字で、「超伝導超大型加速器」と呼ばれる円形の加速器施設を造る計画でした。加速エネルギーがTeV(テラ電子ボルト、1Tevは1電子ボルトの1兆倍)クラスの巨大な加速器です。当時の素粒子物理学では、TeVクラスのエネルギー領域が、物質の究極的な構造とそれを支配する基本法則を解明するためには、絶対的に必要なエネルギーだと言われていました。
 平田光司氏の論文によれば、SSCは1982年に計画が提案され、1987年にはジョージ・H・W・ブッシュ大統領によって認可され、議会でも建設が承認されていました。総予算は53億ドル。テキサス州を建設地に選びました。
 ところが1990年、エネルギーが1TeVから2TeVに変更されました。エネルギーを大きくする分、必要な機器も増えてしまうので、予算は当初より30億ドル多い83億ドルになりました。
 計画変更は政府によって認められましたが、連邦予算は5億ドルしか増えず、足りない25億ドルは自前で調達するよう求められました。そこで、10億ドルはテキサス州が、残りの15億ドルは海外に頼ることになります。この時点でSSCは国際プロジェクトに位置付けられたことになります。
 しかしヨーロッパでは、スイスのジュネーブ近郊に欧州合同原子核研究機構(CERN)という国際研究機関を既に持っており、大型電子陽電子衝突型加速器(LEP)を稼働させていました。ヨーロッパにとっては、あえてSSCに資金を拠出する意図はなく、残る頼みは日本でした。
 1991年にSSCの建設は始まり、地下200mのトンネル掘削がスタートしました。
 工事が20%ほど進んだ1992年、連邦議会下院がSSC中止を決議する事態が起きます。このときは、上院は継続を支持し、下院も認めたことから事なきを得ました。
 しかし翌年、下院で再びSSC中止の決議がなされます。上院は継続、両院議員総会でも継続の結論が出ましたが、今度は下院は拒否。SSC計画は建設途中で中止してしまうという結末を迎えたのです。
 SSCが中止してしまった詳しい原因は何だったのでしょうか。そして、ILCで同じようなことが起きる可能性はあるのか、ないのか。続きは次回へ。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

写真=テキサス州にあるSSCの関連施設の建物跡。現在は民間企業が使用しているそうです(Wikipediaより)
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