人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致正念場 政府公式見解 想定リミットは今夏(有識者会議、流動的要素も)

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tanko 2018-1-1 10:20
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」について誘致関係者は、日本政府の誘致判断を今や遅しと待ち望んでいる。文部科学省のILC有識者会議(座長・平野真一名古屋大学名誉教授)は、素粒子物理学者側が提示した段階的建設方針「ステージング」の検証作業を今月早々にも始める。同会議の委員任期は3月末までだが、それまでに作業が終了するかは不透明。研究者側は日本政府の公式な誘致判断のリミットを今年夏ごろと想定しているが、明確な見解が示されないまま時間だけが経過する可能性も否定できない。ILC計画を巡る動きは、誘致活動が本格化して以来最大のヤマ場を迎えようとしている。

 ILCでは、肉眼には見えない電子と陽電子を光速に近い状態で衝突させ、物質に質量を与える「ヒッグス粒子」の詳細研究や、未知の素粒子の探索などを進める。
 計画に携わる東京大学の山下了特任教授によると、2013年(平成25)年に完成したILCの技術設計報告書(TDR)では、加速器装置などを全長約30kmの地下トンネルに設置し、実験を始める内容が示されていた。30km規模の施設であれば、ヒッグス粒子の詳細研究が可能という推測に基づいたものだという。
 ところが、TDR完成直前にヒッグス粒子と思われる粒子が発見され、実験成果などからヒッグス粒子生成に最適な施設規模は全長約20kmであることが分かった。国内の研究者組織は2014年、全長20km規模から整備するのが適切と提案。のちに、段階的建設方針「ステージング」がまとめられ、国際的な研究者組織も承認している。
 一方、ほぼ同時進行的な動きとして、日本国内では本体のみで約1兆円というコストの大きさに対する懸念が生じていた。こうした状況もあり「ステージング」が示された際には、コストダウンした部分に注目が集まった。さらには、ヒッグス粒子生成に最適な全長20kmからの施設整備が、むしろ「規模縮小」というマイナス印象を与えてしまった。
 文科省ILC有識者会議は、ステージングで示された内容は、これまで議論の前提としてきた諸条件と異なることから、2014年の有識者会議発足時から2年間設置されていた「素粒子原子核物理作業部会」と「TDR検証作業部会」を再度設置。今月早々、会合を開く予定だ。
 有識者会議事務局の文科省素粒子・原子核研究推進室は「2期目となる有識者会議委員の任期は3月で満了するが、それまでにまとまるかどうかは別な話。前回の部会作業で得た成果をベースに時間をかけず進めるのか、一つ一つ丁寧に検証していくのかは、初回の会合を開いてみてからでないと分からない」としている。年度をまたぐ可能性も否めない。
 研究者サイドは、このまま日本政府がILCに対する公式なスタンスを示さなければ、計画実現に支障が出てくるとの共通認識。ヨーロッパの次期科学計画が2020年5月に実行されるため、策定に必要な期間から逆算し、今年夏ごろがリミットとみる。
 政界でも政府の動きを後押しする態勢づくりを進めている。超党派国会議員で構成するILC議連(議長・河村建夫衆院議員)などは、今月8日からフランスとドイツを訪問し、連携構築を図る。
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