人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

段階的建設「ステージング」新方針受け部会設置し再協議へ(文科省有識者会議)

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tanko 2017-12-6 12:40
 【東京=児玉直人】 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の日本誘致を検討する有識者会議(座長・平野真一名古屋大学名誉教授、委員14人)は5日、東京都千代田区の文部科学省15階特別会議室で8回目の会合を開き、国際研究者組織が11月に了承した「ステージング」と呼ばれる段階的な建設方針が示されたことを受け意見を交わした。加速器本体を中心に初期コストが約4割削減されるステージングは、これまで有識者会議が議論の前提としてきた諸条件と内容が異なる見直し計画に相当することから、かつて同会議内に設置していた科学的意義やコストに関する作業部会を再設置し、詳細な議論を行うことを確認した。

 有識者会議は、理系分野の専門家を中心に構成。日本政府のILC誘致判断の参考材料となる検討結果をまとめるため、2014(平成26)年5月に設置された。今回は、ILC計画を推進する素粒子物理学分野の国際組織2団体が「ステージング」を了承してから最初の会合で、委員11人が出席した。
 有識者会議では、2013年に示されたILCの技術設計報告書(TDR)などに基づき、予算面を含めステージング発表前の建設計画を基に議論を進めてきた。TDRに示された当初の計画では、全長約30kmの規模で建設し実験を開始する予定だったが、ステージングでは全長20kmの規模から建設を開始し、物質に質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」の詳細研究を進める。一定の研究成果を得た上で、必要に応じ30km、50kmと施設規模を拡張するという考え方だ。
 30kmからの建設だと約1兆円とされていた初期コストは、約4割削減できる見通し。同日の会合でステージングについて説明したリニアコライダー国際推進委員会(LCB)の中田達也議長によると、加速器の設置台数が減ることによるコストダウンが主だという。
 有識者会議は、議論の前提としていた施設規模やコスト面に見直しが生じたことを受け、再度研究の意義やコストに関する詳細検証が必要と判断。2015年に一度役目を終えた「素粒子原子核物理作業部会」と「TDR検証作業部会」を再度設置することにした。両作業部会は、年明けにも会合を開く予定だ。
 同日は中田氏のほか、欧州合同原子核研究機構(CERN)研究計算機部のエクアルド・エルゼン部長が、CERNの最新の研究成果などを説明。ヒッグス粒子の詳細研究や新たな物理の探究を進めるためにも、CERNが運用する大型加速器「LHC」に加え、ILCの存在が必要であると強調。ヨーロッパの次期科学計画が2020年5月に実行される見通しを示しながら、2018年までにはILCに対する日本の姿勢が示される必要があることを訴えた。
 素粒子物理学者やILC誘致団体の間では、日本政府の判断がこのまま示されない状態が続けば、ILC実現に必要不可欠な国際協力体制が構築できず、中国で予定されている大型加速器計画に科学の人材が集中するとの懸念を示している。慎重議論を進めながらも、タイムリミットを意識しなければならない段階に入っている。
 会合後、取材に応じた平野座長は「これまでも皆さんが丁寧に議論を進めてきた。今回も同様に、両作業部会からの報告を受けて今後の会議の進め方も含め考えていく」と述べた。コスト削減につながるステージングに関する見解については「私からはコメントは控えたい」とした。

写真=ILCの新建設方針「ステージング」について意見を交わした有識者会議(文部科学省)
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