人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】ILC子ども科学相談室4 Q:電子と陽電子をぶつけるって危険じゃないの?

投稿者 : 
tanko 2017-11-10 11:00
 ILCでは電子と陽電子という素粒子を光速に近いスピードでぶつけるという話でした。でも、それってとても危ないんじゃないですか? 原発事故みたいなことが起きないのか心配です。
A:原発事故のように内部が溶ける(メルトダウン)ようなことは考えられません

 電子と陽電子はほとんど重さがない素粒子(計算すると約0.00000000000000000000000000000091kg)です。たとえ光の速さに近い速度で衝突しても、発生するエネルギーは、0.3ジュールぐらいしかありません。1立方cm(1?)の水の温度を1度上げるのに必要なエネルギーが4.2ジュールですから、非常に小さなエネルギーでしかないことが分かります。従って電子と陽電子の衝突によって発生するエネルギーの大きさに対する心配はありません。
 むしろ衝突しなかった電子や陽電子が持っているエネルギー(熱)を下げる方が課題です。このエネルギーは「ビームダンプ」と呼ばれる水槽によって処理されます。
 放射線の発生と被ばく対策も気がかりだと思います。ILCは放射線発生装置であることには間違いありません。運転中、加速器トンネル内は電子のエネルギーが高いため、電子ビームがパイプや容器の壁に当たったりすると「制動放射線」と呼ばれる一種のX線が放出されます。
 衝突しなかった電子と陽電子は、先ほど紹介した「ビームダンプ」という水槽に導かれ消滅しますが、水槽の水と反応し、わずかですが放射性物質が生成されます。しかし、これらの放射性物質は数時間足らずでなくなります。
 最も特徴的なことは、これら放射線の発生は、加速器の運転停止とともに止まります。原発事故のように、人間の手で止めたくても止められない――というようなトラブルはまず起きないと思います。
 また加速器トンネル内の空気中のチリなどが、放射化して放射線を出す物質になる場合があります。しかし、これら放射性物質が外部に直接放出されることはありません。加速器トンネルやアクセストンネル内の空気は、必ず排気ダクトを経由して放出されることになっています。この排気ダクトにはフィルターや放射線モニターなどが設置されおり、これによって一般大気への汚染空気の排気の監視や除去が行われます。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

“番記者”のつぶやき
 「衝突」「ぶつける」という言葉だけを聞くと、まるで交通事故でも起きたかのような印象を受けますが、電子や陽電子の特長やエネルギーに関する知識が分かれば、特段怖いことではないと感じることができるのではないでしょうか。
 放射線管理に関しては、東京電力福島第1原発事故で私たちが受けたショックが大きいため、特に心配に思う人が多いと思います。原発のような事故がILCで起きることは、システム上、考えにくくても「なぜ大丈夫なのか」「万が一のときはどんな対策を取るのか」ということは、特に科学の専門知識がない一般の人たちに向けて丁寧に説明し、理解してもらう努力を続けてほしいものですね。
(児玉直人)

写真=高エネルギー加速器研究機構にある超伝導リニアック試験施設(STF、Superconducting RF Test Facility)の入り口。停止中は放射線が出ないので中に入れます。中に人がいる時には、装置が動かないようにするなど、厳重な安全対策が取られています(茨城県つくば市)
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