人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILCの段階的建設を正式支持(国際組織が日本に早期誘致勧める)

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tanko 2017-11-11 21:30
 奥州市江刺区東部を含む北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)について、世界の主要物理学者らによる二つの組織は日本時間の10日未明、「ステージング」と呼ばれる段階的な建設方針について、正式に支持する声明を発表。日本が主導権を持った国際プロジェクトとして時宜を得て実現することを奨励した。世界の研究者たちから、あらためて日本政府側にILC誘致のゴーサインを求めるボールが投げ掛けられた格好だ。

 声明を発表したのは、世界主要加速器研究所の所長や研究代表者らで組織する「国際将来加速器委員会(ICFA)」と「リニアコライダー国際推進委員会(LCB)」。両組織は、国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」が提案していたステージングについて協議していた。
 ステージングを支持する声明は、同セミナー最終日の9日午前11時すぎ(日本時間10日午前2時すぎ)に発表された。日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)によると、今セミナーでICFA委員長職を退くヨアキム・ムニック氏(ドイツ電子シンクロトロン研究所)は「世界の主要な素粒子物理学研究者の意見が、このように一致したことは非常に喜ばしい。素粒子物理学はヒッグス粒子の発見のような、世界の注目を集める目覚ましい成果を挙げてきた。次のステップは、より強力な加速器を用いて根源的な謎をより深く解明するためのさらに国際的な取り組みとなる。世界の科学者はこの心躍る未来に向け一致団結して取り組んでいく」と述べたという。
 ステージングの正式支持を受け、文部科学省のILC有識者会議は、声明やステージングの内容を精査した上で、次回以降の協議を進める見通し。東北ILC準備室による地元受け入れ態勢の方針については、年内にも公表できるよう調整を進めるという。


 【解説】 加速器を使った素粒子物理の実験では、加速させる粒子に与えるエネルギーの大きさによって、研究対象が異なってくる。物理の世界では、電子1個が1ボルトの電圧で加速される時のエネルギーの大きさを「1電子ボルト」と呼んでおり、単位は「eV」が用いられている。素粒子実験施設の加速器では、光の速さに近い状態で粒子を加速させるため、エネルギーの数値も膨大となる。
 「ステージング」では、全長20kmの施設規模からILCをスタートさせるが、この規模で得られるエネルギーの大きさは250ギガ電子ボルト(250GeV)。ギガは「10億」の意味なので、250の10億倍のエネルギーが得られる。
 250GeVのエネルギー領域では、物質に質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」の詳細な研究が可能。「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれる未知の素粒子が見つかるかもしれないという。
 加速器の台数を増やし、全長をさらに伸ばせば、エネルギーはさらに大きくなる。当初計画の30kmでは、ヒッグス粒子を二つ同時に生成できる。南端が宮城県気仙沼市まで達する50kmは、人類にとって未知の領域だ。
 空港の滑走路を延伸するような施設拡張は、直線型加速器施設であるILCだからこそ可能なもの。欧州合同原子核研究機構(CERN、スイス)や中国で計画されている大型加速器は、円形のため、同様の拡張をするには、直径を長くした施設を新造するしかない。拡張性が劣る上、ILCでは30km以上の拡張で実現できる高エネルギー領域の研究は不可能という。
 「段階的」「多段化」という意味合いを持つ「ステージング」。研究者らは、規模縮小やILCのレベルを下げることではないと強調する。
 だが、ILC誘致をめぐるこれまでの動向では、約1兆円のコストに対する懸念が出たこともあって、「ステージング」より「コストカット」「ダウンサイジング」という印象がぬぐえない。良かれと思い取り組んだ支出抑制が、「ILCの魅力低下」と映ってしまっては元も子もない。
 「ILCの価値は何ら変わっていない」。今、必死に熱意を見せるのは候補地の地元関係者や子どもたちではない。この分野に関係する日本や世界の研究者であろう。候補地周辺や一部の研究者のみならず、日本社会全体にILCの必要性を語り掛けてほしい。
(児玉直人)
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