人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

近代科学の黎明期 研究者の営み今に(水沢・旧緯度観測所4建造物 登録有形文化財へ)

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tanko 2017-7-22 10:34
 奥州市水沢区星ガ丘町の国立天文台水沢キャンパス内にある旧緯度観測所時代の建造物4棟が、国の登録有形文化財(建造物)に選定される見通しとなった。文部科学大臣の諮問機関である文化審議会(馬渕明子会長)は21日、登録妥当と答申した。今後、約1年をめどに官報告示され、正式登録となる。登録となれば、胆江地区では江刺区稲瀬の千葉家住宅主屋、金ケ崎町六原蟹子沢の旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎に続く3カ所目となる。

 登録妥当の答申を受けたのは、同観測所の前身「臨時緯度観測所」が設立された1899(明治32)年竣工の眼視天頂儀(がんしてんちょうぎ)室、翌年完成した同天頂儀目標台とその覆屋、初代本館(現・木村栄(きむら ひさし)記念館)。さらに、緯度観測所移行後の1921(大正10)年に建てられた2代目本館(現・奥州宇宙遊学館)の計4棟。2代目本館は2006(平成18)年から奥州市所有となっているが、それ以外は水沢キャンパス内で研究活動している水沢VLBI観測所(本間希樹所長)が管理している。
 臨時観測所は、水沢など北緯39度08分上にある世界4カ国、全6地点に同様の観測所を設け、地球の緯度変化を調べる「国際緯度観測事業」を目的に開設。日本最初の国際観測事業で、水沢の初代所長・木村栄(1870〜1943)は観測過程で、天文学史に輝く「Z項」を発見している。
 天頂儀室は、ドイツ製の緯度観測専用望遠鏡「眼視天頂儀」の1号機が設置されていた建物。中央にある本体設置の台は頑丈な石積みで、観測に影響するわずかな振動を与えないようにしていた。観測時は、屋根を東西水平方向にスライドし上部を開放。大気の内外差をなくすため、外壁には鉄製の鎧板を設けている。現在、1号機本体は初代本館内に展示しているが、台やテーブル、椅子は当時のまま残っている。
 天頂儀室から真北、約100mの地点にある目標台は、国内現存例が少ない施設。頑丈なれんが積みの直方体の台に電球点灯装置が固定されており、天頂儀室にいる観測者は、覆屋の窓越しに見える電球の明かりを頼りに正しい北の方角を確認し、天頂儀を操作していた。
 調査した東北工業大学の高橋恒夫名誉教授らは「建物に修繕などが加えられているものの、保存状態は極めて良好。近代科学黎明期の観測施設を伝え、設備・器具が残される点、この施設からZ項が生み出された点も合わせ、高い歴史的価値を持つ」と評価した。
 初代本館は木造平屋で、旧文部省建設課長・久留正道による設計。これまで数回移築したが、構造や資材はほとんどそのまま。木村栄記念館として公開されている。
 木造2階建ての2代目本館は、緯度観測国際中央局としての機能も一時果していた。国内建築史における優れた近代洋風建築としての価値も高く、中央にシンボルとなる洋風の「塔屋」を設け、小壁には星と太陽をモチーフとするレリーフを入れるなど、こだわった意匠が随所に施されている。文部科学省は2005年、老朽化などを理由に解体方針を打ち出したが、保存を求める市民運動が巻き起こり、その後は宇宙遊学館として活用されている。
 市教育委員会事務局の川田啓介上席主任学芸員は「明治に始まる国際緯度計測の装置、建物がそのまま現存しているだけでも大変なものだが、観測所本館が初代、2代目、そして現在の3代目が一緒に残っていることにも価値がある。公開・活用されていることもほかに例をみない」と説明。市教委の田面木茂樹教育長は「建物としての貴重な価値が認められ、大変喜んでいる。今後も地域の宝として大切に保存し、子どもたちの学習などに一層活用していきたい」とコメントした。

写真1=「奥州宇宙遊学館」として保存活用されている旧緯度観測所本館


写真2=木村栄記念館として公開されている初代本館


写真3=眼視天頂儀室。後方は現在使用中の20m電波望遠鏡


写真4=眼視天頂儀室の北側にある目標台の覆屋


建造物の配置図
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