人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】育て科学する心(4) 中学生つくば研修とILC

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tanko 2017-3-3 20:40
「異」の壁越え 心通わす

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)での研修に加え、宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター、つくばエキスポセンターを見学し終えた生徒たちは、1月6日に奥州市へと無事戻ってきた。それから2週間余り過ぎた同25日、奥州市役所江刺総合支所多目的ホールで研修報告会が開かれた。保護者や学校関係者、市議会議員らが見守る中、3日間の様子を堂々と発表。緊張の報告を終えた生徒たちの表情からは自然と笑みがこぼれた。
 水沢中の菊池円さん(14)は、KEKの放射光実験施設「フォトンファクトリー」で行われたチョコレートの食味改善が印象に残ったという。「チョコレートと科学が関係あるとは思っていなかったので驚いた。(KEKでは)スケールの大きな話がたくさんあったが、自分たちの生活もどこかで関係しているのが分かった」と振り返る。同じように、それまで非日常的なものと受け止めていた科学研究や実験が、何らかの形で身近に関わっていることを実感した生徒たちは多い。
 科学的な知識に加え、生徒たちが知らず知らずに身に付けたのは、仲間同士が互いに認め合い、協力することの大切さであろう。
 今回訪問した研究機関には、国内外さまざまな所から人材が集まっている。生まれも育ちも、接してきた文化、価値観、宗教観、そして言葉も異なる。研究者や技術者ばかりでなく、事務職や広報業務、警備、食堂・物販などそこで働く人の職種も多種多様だ。
 これと同じような構図が、参加した生徒たちにも当てはまっていたような気がする。それまで異なる地域で育ち、異なる規模の学校で勉強してきた31人。学年と使用言語は同じであっても、やはり「異」に接する時の遠慮、もどかしさみたいなものがあったと察する。思春期のまっただ中であれば、なおさらかもしれない。3回の事前研修を経て本番に臨んだとはいえ、研修初日はどこかよそよそしい雰囲気があった。
 ところが、各研修先で科学研究の現場を目の当たりにする時間を共有すると、そこはやはり同じような志を持って集まった者同士。気が付けば互いに打ち解け合い、帰りのバス車内は初日とは真逆のように会話が弾んだという。
 国際リニアコライダー(ILC)誘致運動の中では「波及効果」に対する関心が高く、プロジェクト実現を呼び寄せるための説得材料としても使われる。この場合、経済効果や地域振興効果を指す割合が大きいが、金額や雇用、交流人口の増減といった数字だけでは捉えきれない効果も存在する。その一例を挙げるとすれば、今回の中学生たちが経験したような精神面に与える好影響かもしれない。
 本連載のタイトルにもなっている「科学する心」について、旧水沢緯度観測所初代所長の木村栄博士(1870〜1943)が、晩年に論じたことがある。木村博士は「星の研究をしなければ『科学する心』じゃないというのは間違っている」と例示し、物事をわきまえる上では「これは何か」と、常に疑問や好奇心を持ち続けることが大切で、それが「科学する心」だと強調した。
 研修参加生徒が、必ずしも物理や宇宙科学の道に進むとは限らないにしても、「科学する心」はどのような場面にあっても必要な視点となるだろう。
 「商売ひとつするにも、難しい施設をつくるにしても、何をするにも必ず『科学する心』を持ってやらなければいけない。それだけです」と、木村博士は語っている。
(つづく)

写真上=報告会を終えほっとした表情を見せる生徒たち=市役所江刺総合支所
写真下=木村栄博士の「科学する心」。1941年に録音された肉声が、国立天文台水沢キャンパス内の木村栄記念館で聞くことができる
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