人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】育て科学する心(2)中学生つくば研修とILC

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tanko 2017-2-17 11:40
「ノーベル賞」が及ぼす力

 旧水沢市が中学生科学体験研修をスタートさせた2003(平成15)年、ILCはまだ一般に知られていない「水面下」のプロジェクトだった。当時、旧水沢市教育長を務めていた岩井憲男・奥州市社会福祉協議会長はこう振り返る。
 「小柴昌俊さんの講演会が水沢で開かれた時、同行した吉岡正和さん(現・KEK名誉教授)から『水沢の子どもたちをつくばに連れてきたらどうですか』と言われた。市長ら幹部職に限られてはいたが、ILC計画の存在は知っていた。子どもたちにとっても、いい刺激になるはずだと思い実施した」
 ちょうどそのころ、水沢市教委は米国との交流研修を検討していた。しかし、同時多発テロの影響を受け頓挫。科学研修実施の流れが一層強まった。
 いずれにせよ、ノーベル賞受賞者の小柴氏の講演や関係者の働き掛けがなければ、中学生が高度な科学を学ぶという全国的にもまれな研修事業はスタートしていなかった。
 KEKでは、小林誠氏と益川敏英氏による「小林・益川理論」の証明や、イスラエル人女性のアダ・ヨナット氏によるリボソーム(細胞内でタンパク質合成する微小器官)結晶化など、重要な研究成果に結び付く実験が行われてきた。小林、益川両氏は2008年、ヨナット氏は2009年にそれぞれノーベル賞を受賞。「ノーベル賞と縁がある研究所」と言っても過言ではない。
 KEKを訪れた生徒たちが最初に通された常設展示ホール「KEKコミュニケーションプラザ」には、小林、益川両氏の功績を紹介するコーナーがあり、ノーベル賞メダルのレプリカも置いてある。2氏の理論を即理解することはできなくても、ノーベル賞と聞いただけでその研究の価値や影響力の大きさはおおよそ想像でき、生徒たちの関心を集めた。
 コミュニケーションプラザには、宇宙から飛来する放射線「宇宙線(ミュー粒子)」を雷のように目視できる装置「スパークチェンバー」や、体の中をどれだけの宇宙線が通り抜けたか表示される「宇宙線ラボ」など、難解な素粒子物理学の世界を少しでも分かりやすく伝えるため、目で見て分かるような模型や体験装置が多い。
 ILCの周知活動を見ると、計画段階の施設であるためか、コンピューターで制作した画像や動画で見せることが中心。常設のPRコーナー設置の必要性も求められているが、県南では奥州宇宙遊学館内のパネル展示やJR水沢江刺駅の動画コーナー、JR一ノ関駅コンコースの模型ぐらいだ。
 手の込んだ常設施設は予算的な問題も絡む上、政府判断のゴーサインが出ていない現状では尚早との指摘があるかもしれないが、日本誘致が決定し、実現の運びになった場合には、いずれこのような施設は必要になってくるだろう。
(つづく)

写真=生徒たちの関心を集めたノーベル賞メダルのレプリカ=KEKコミュニケーションプラザ
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