人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致願うも乏しい実感  積極的対応、思い惑う

投稿者 : 
tanko 2017-1-1 11:00
 国際リニアコライダー(ILC)計画が、一般市民に知られるようになり今年で8年。「あと2年程度がILC実現への最後の機会」(東北大大学院・山本均教授)と言われる中、候補地の地元自治体や産業界などは受け入れ態勢の構築を進めている。「待つだけでは、波及効果は得られない」と、誘致関係者はあの手この手で地元熱意をアピールしている。しかし、北上山地への建設を確定付ける日本政府の判断が示されていない状況で、巨額予算に対する国民理解が得られるかも未知数。東京五輪問題に象徴されるような新たな課題への対応と方針の見直し、自国優先主義やさまざまな外交課題が山積する世界情勢などが日々伝えれる状況もあり「期待はしているが、本当に想定通りになるのか実感が乏しい」という本音が見え隠れする。(児玉直人)

【農林業との結びつき】
 岩手県職員時代からILC計画に関わってきた一関市の勝部修市長は、農林業とILCとの関係構築を主張している。昨年6月、奥州市文化会館(Zホール)でのシンポジウムでは「例えば研究施設や文化ホール、国際会議場は県産材で造るといった考えもある。これは、(県立大学の)鈴木厚人先生が提唱する『グリーンILC』にもつながる」と、具体的な話も示した。
 外国人研究者が喜ぶような新しい野菜の作付けの可能性も視野に入れている勝部市長。スイスのCERN(欧州合同原子核研究機構)のレストランを視察した際の話を織り交ぜ「ILCの場合も、各国の研究者が大勢やって来ることが想定される。施設内の食堂で使う食材は、全て地元のものでやりたい。地元の農家も希望が見いだせるし、雇用にもつながる」と強調する。CERNのシェフを招いて、一関や岩手、東北の食材を使ったメニュー考案会を開くといったアイデアも披露した。
 昨年12月、勝部市長は盛岡でのシンポジウムでも農林業とILCの関係を再度強調。計画性をもって取り組む必要はあると前置きしつつ、「ILCが来るのを待つという状況から脱却しなければ」と呼び掛けた。

【期待しているが…】
 奥州市ILC推進連絡協議会副会長を務める、JA岩手ふるさと経営管理委員会の門脇功会長。「もちろん夢のある話であり、実現すれば関係者が滞在する。来訪者、定住者が増えれば必ず『食材の提供』が生じ、地元農業の振興にも結びつく。放射能対策に関わるような研究発展も期待したい」と願う。だが、地域農業とILCとの具体的な取り組みを検討、着手するという段階にはまだ至っていない。
 政府判断が正式に出ていないこともあるが、門脇会長は胆沢ダムの発電用利水を例にILCに対する認識を語った。
 ダム堤体直下には、電源開発(Jパワー)が運営する「胆沢第一発電所」がある。門脇会長によると、発電用水の調整などの制御は現地ではなく、埼玉県川越市のJパワー施設で行っているという。「つまり、ILCも同じように『ここ』以外のどこかに多くの研究者がいて、遠隔操作するという方法を取ることもあり得るのでは――と思ってしまう。今の時点では、本当にどれくらいの数の研究者や家族らが住むのかも分からない」

【どこまで「確実」か】
 これまで公表された各種ビジョンでは、研究拠点となるメーンキャンパス(中央研究所)や研究者らの居住地域は、ILC本体近くに整備するような青写真が描かれている。外国人を含む研究者とその家族が約3000人住むともされている。
 しかし、これらはあくまで計画通り、想定通りに事が進んだ場合の話。政府判断が示されておらず、関連するデータ、ビジョンも推測や希望論が中心の状況であるため、具体的な一歩を踏み出しにくい。
 仮に日本政府がゴーサインを出したとしても、多様な外交問題が起きている中、世界の主要国が本当に同意してくれるかも見えない。産学官の高度な交渉努力が求められる。
 地域全体が本腰を入れるようなレベルまで、機運を高められるかも気に掛かる。東京五輪をめぐっては、競技会場がある東京都以外の自治体に対し、仮設施設の費用負担を求める可能性が浮上。「後出しじゃんけん」のごとく、後になって想定外のコスト負担が地元に求められるような事態も懸念される。
 こうした現実に起きている問題が、ILCでも起こり得るのではという一種の疑心暗鬼のような心情を駆り立て、熱意高揚を妨げている可能性もある。
 農林業に限らず、地域が持つ潜在的な力をILCに生かすための具体的な一歩を踏み出すには、現実味のある雰囲気をいかに示せるかが重要なポイントとなる。県ILC推進協議会や東北ILC準備室といった関係組織では、より踏み込んだ経済効果額の算出や実現のために必要な具体対応を整理しており、なるべく早い段階で提示したい考えだ。
 誘致活動に直接携わったり、国内外の研究者らと接触している関係者にとっては、取り組み状況の把握や互いの熱意を共有しやすい。一方で、そのような機会が少ない地元産業関係者や一般住民にとって、ILC計画はまだまだ現実味や具体性が感じにくいプロジェクトと言っても過言ではない。
 誘致の旗振り役となっている研究者や自治体、経済団体などが、地元企業や一般市民の心をどれだけつかめるのか。ILCの賞味期限が切れぬうちに、講じなければいけない手だては山ほどある。

写真上=農林業とILCとの結びつきについて持論を述べる一関市の勝部修市長(昨年12月、盛岡市中央公民館)
写真下=ILC誘致に対す考えを語るJA岩手ふるさとの門脇功会長
トラックバックpingアドレス http://ilc.tankonews.jp/modules/d3blog/tb.php/537

当ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は胆江日日新聞社に帰属します。
〒023-0042 岩手県奥州市水沢柳町8 TEL:0197-24-2244 FAX:0197-24-1281

ページの先頭へ移動