人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

加速器の冷却用水 胆沢ダムに熱視線 (東北準備室が活用模索)

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tanko 2016-12-17 11:30
 江刺区東部を含む北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)の冷却用水の調達に、胆沢ダムの貯水と同区まで延びる胆江広域水道の給水管を活用する案が検討されている。ILCの受け入れ態勢などを協議している連携組織・東北ILC準備室の室長を務める鈴木厚人・岩手県立大学学長が16日、仙台市内で開かれた同準備室報告会で明らかにした。ILCが稼働する際、加速器や関連設備から熱が放出される。既存施設を使って安定的に冷却水を調達する観点から、同ダムや広域水道の存在に関係者が注目した形だ。(児玉直人)

 同準備室は今年6月の東北ILC推進協議会総会の承認を経て設置。岩手県立大学や東北大学、岩手大学、岩手・宮城両県、仙台市、岩手県ILC推進協議会の関係者らで構成している。▽広報▽地域▽技術▽産業――の4部門と、地下施設、マスタープランの2専門部会が、ILCの日本誘致実現を見据えた具体的な受け入れ態勢の準備を推進。候補地の地元が準備万端の状況だと示すことで、日本政府の受け入れ判断を強力に後押しする狙いもある。
 同日の報告会で鈴木学長は、準備室発足から現在までの協議、検討状況を説明。この中で、技術部門が検討している冷却設備の最適設計で、胆沢ダムの貯水を利用して加速器や関連設備を冷却するアイデアが示された。
 ILCが稼働する際、加速器や熱併給発電(コージェネレーション)システム、空調用冷温水発生装置など設備から顴度から数百度程度の排熱が生じるという。これらの設備の冷却や熱エネルギーの有効利用を図る手段として、同準備室は胆沢ダムの貯水や、江刺区まで既に整備されている胆江広域水道の給水管に着目した。
 同広域水道は、衣川区を除く胆江地域に工業用水や家庭用水を供給。江刺区方面には、同区のフロンティアパーク(工業団地)と万松寺地区に配水施設を設け、製造系企業や家庭向けの給水事業を行っている。
 同広域水道を運営する奥州金ケ崎行政事務組合(管理者・小沢昌記奥州市長)によると、胆沢区若柳の同ダムから江刺区内の2配水施設までの配管距離は30km余り。現在は工業用、家庭用合わせて1日当たり約1700t供給しているが、需要計画に基づき同1万tの供給に対応できる給水管を設置しているという。
 冷却水によってILCの排熱を回収し、その熱エネルギーを地元産業などへの活用案も描く。鈴木学長は「ヨーロッパなどで大規模な実験施設を整備するときには、省エネ対策を検討することがもはや義務のようになっている」と説明。自然エネルギーでILC施設自体を動かす『グリーンILC』を実現する必要性を強調した。
 このほか鈴木学長は、ILC実現を見据え奥州市など関係自治体などが策定したまちづくり計画を集約し、地域広域基本計画の取りまとめを進めていることや、特区申請、多文化共生社会の構築に向けた取り組みなど、同準備室による作業の進捗状況も紹介。各部門が検討した受け入れ対策は、来年夏ごろにもまとめられ、その後、政府に提言しながら日本誘致の判断がしやすい環境を構築する。

写真上=ILC加速器等の冷却用水の調達先として検討されている胆沢ダム(奥州市胆沢区若柳)
写真下=東北ILC準備室での協議状況を説明する鈴木厚人・岩手県立大学長(TKPガーデンシティ仙台)
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