人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

パネルディスカッション「わがまちの未来絵図とILC」 討論要旨(2)

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tanko 2016-7-8 19:30
(1)からのつづき















 高橋金ケ崎町長 うまくいけばあと2年で建設準備とのことだが、お互いに勉強し、やるべきことを考え取り組まないと、夢で終わってしまう危険性がある。
 シンポジウムには工業団地内企業の経営者も来ているが、現在、この地域には開発部門がない状況だが、ILCとうまく結びついた産学連携をしていかなくてはいけない。
 ILCでは16万kWの電力を必要とするそうだが、それをどのようなエネルギーで供給するかも検討されることだろう。私は今、LNG(液化天然ガス)について勉強をしているが、LNGのパイプラインが新潟から仙台まで来ている。当地域まではまだ来ていないが、低コストのエネルギーが安定的に供給できるだろう。太陽光や風力による発電もあるが、LNGのパイプラインが延伸されれば、地域のインフラ環境も変わってくるだろう。
 企業誘致に関しては従来、場所を用意したり税金を下げたりといった対策を講じていたが、大きなメリットにはなっていないと思う。それよりも、人材やエネルギー、物流環境が整っていれば企業は来る。ILCを通じたインフラ整備によって、そのような環境も整備できるのではないかと思う。
 教育面では「ILC専門学校」のようなものができないものかと想像する。国際色豊かな環境の中で、子どもたちが成長していけたらと思う。
 何もかも「いいな」と思う一方、実はこれらの整備や費用の負担を誰がするのかという問題がある。役割分担をうまくやならなければ実現性は薄くなる。

 小沢奥州市長 奥州市は今年4月に「ILCまちづくりビジョン」を策定した。今やること、ILC建設が決定してからやることなどを指針としてまとめた。市民と関係者が一緒になり、でき得ることから進めたい。
 花巻空港と台湾との間にチャーター便が運航されている。えさし藤原の郷や、偉人の記念館がある当市へどう観光誘客をつなげるかも考えなくてはいけない。
 それから、インターネットを使用する上で必要なWi-Fi(ワイファイ)スポットも整備しなくてはいけない。Wi-Fiは「情報の入り口」。観光客だけでなく、地元住民にとってもメリットがある。
 こうした方向性をビジョンの中にまとめた。本年度は総合計画の策定年。より具体的な計画や事業は、実行計画の中にしっかり掲載し、予算付けしていきたい。
 一番のポイントは、国家プロジェクトとして「ILCがここに必要だ。ここに造るんだ」という思いを示し、国民理解を促していく努力をしていかなければいけない。これが当面の課題だろう。外部への情報発信をしっかりしていきたい。

 吉岡教授 ここまでの話を聞いて、鈴木学長や佐々木室長にコメントをお願いしたい。

 鈴木学長 そろそろILCに「枕ことば」が必要だと思う。例えば「自然と文化と共存するILC」といった、特色を生かしたキャッチフレーズをつけてみてはと思う。
 ILCには、いろんな国からさまざまな人たちが集まってくる。その人たちは、互いに相手の存在を認め合うだろう。その姿を世界に示せないかと思う。これこそ世界平和の一つの例だと思う。

 佐々木室長 ILCは世界に触れ、世界に出会い、世界に発信する機能を持つ場所になり得る。一種のショールームのようなもので、建物や暮らしぶりなどの情報も世界に向け発信されるだろう。もし現状の悪い点があれば指摘をされる。それはそれで改善へとつながる良いことだ。
 第1次産業との関連性について、ILC関連施設の内外で直接的に地場産品を扱うのもいいが、海外マーケットにつなげることも考え、視野を広げることも大切だろう。その過程では食品の保存・保冷技術といったものも発達する。次の世代に何を残すか努力し、チャレンジしてほしい。
 今、ILCの話をこうしてできるのは、この地域にしかないアドバンテージ(優位性)だ。子どもたちが素粒子物理学とかILCを知っているような地域はなかなかない。大人から子どもまで携わる過程そのものが、ILC計画がもたらす「世代を超えた地域の振興の在り方」を示すことになる。
 そう考えると、これまでは推進する側の一方的な説明に終始していたような気がする。1次、2次、3次産業のそれぞれの立場において、ILCとはどういうものか、どんな関係が自分たちにあるのか、分かりやすく説明しなくてはいけないと反省している。この点については積極的にやっていきたい。

 吉岡教授 会場の皆さんからは、何か質問はありませんか。

 聴講者1 ILCが来ることによるビジネスへの展開に協力したいと考えている。進捗状況を示していただき、こういうことが可能だというのを知らせてもらいたい。
 外国人がたくさんやって来る点についてだが、岩手県民はおもてなしの心は持っているが、ファーストコンタクト(最初の接点)に対する気持ちの壁が高い。金ケ崎町の中学生たちによる英会話キャンプの様子を見たが、最初はどうしてもモジモジしている。ファーストコンタクトのハードルを下げることにも協力してほしい。

 吉岡教授 ILCは東北にできるのではなく、東北が造るILCだと思う。もちろん世界からメーカーは来るが、実際に働くのは現地の人たち。私も東北の企業を回っている中で、この地域の企業が集まれば何でもできることが分かった。その上で、もっと情報を伝えなくてはいけないと感じた。

 鈴木学長 言葉についてだが、研究所内での使用言語は英語だが、居住地域では日本語で構わないと思う。実際、スペイン人やロシア人の子どもたち、奥さんたちは英語が分からない。「日本にいるんだから日本語を勉強しなさい」ということになる。主の言語は日本語とし、どうしても分からない部分は英語でカバーするというのが良いと思う。

 高橋金ケ崎町長 共通言語となり得る英語は、お互いを高める上でも必要かなと。日常会話のちょっとぐらいは学習を進めてはどうかと思う。先日開催した金ケ崎マラソンでは、日本語と英語両方でご案内した。そんなことを通じて違和感なくコミュニケーションが取れればと思う。

 聴講者2 あと1、2年で誘致に関していろいろ決まってくるとの話だが、中央衝突地点は一関市の摺沢の辺りではないかと聞いている。コメントをいただきたい。

 鈴木学長 環境保全や道路アクセスなど、専門的な観点から決めなくてはと思う。場所についてのうわさはいろいろ出ているかもしれないが、今の段階でどこにというのはない。ちなみに、北上山地か九州の脊振山地かを決めるときにも、200人ぐらいの専門家が集まって決めた。

 聴講者3 ILCには、大きな期待を寄せている。一関市の工業クラブの者だが、ILCを切り口としたまちづくりについて検討している。今後とも支援をよろしくお願いしたい。

 勝部一関市長 産業界の方々が一生懸命取り組まれていることに感謝申し上げたい。
 一関市内の学校の先生の話では、将来「科学者になる」と言う子どもが増えてきたそうだ。
 ILCに関連する仕事はたくさんある。研究者だけでなく技術者も働いている。CERNにはホテルも幼稚園もある。郵便局、銀行もある。

 佐々木室長 東北全体で、ILCに関心のある製造業の方々と研修会をやっており、地域としてILCの技術を一緒に取り組んでいく。「地元の企業でILCを造る」という方向で何とか向かっていきたい。

 吉岡教授 東経連(東北経済連合会)の方もいらしているので、よろしければコメントを。

 大江修・東経連専務理事 東経連ではこのほど創立��周年記念し、鈴木学長とキャロライン・ケネディ駐日米国大使を招き講演会を開催した。ケネディ大使は講演の中で、初めてILC計画について触れた。ILCについて話すことの影響力について、大使も意識されたのだろうと思う。
 地元の方々の熱意が米国の関係者にも影響を与えている。今年2月のILC議連訪米時には、岩手県ILC推進協議会の谷村邦久会長も同行し、地元の熱意をスピーチし、大きな感銘を与えた。
 これからさらに大人も子どもも巻き込み、東北全体、日本全体で盛り上げていくことで、ILC誘致実現に近づくことができるだろう。

 聴講者4 私はさまざまな企業経営者の方々とお話をするのだが、皆さんILC計画を知らない。この会場にいる皆さんの間では盛り上がっているようだが、勝部市長が指摘されたように、情報発信が全くと言っていいほどなされていない。国民レベルで「ILCはいらない」という意見なのであればそれでも構わないが、科学技術立国を目指す日本の国民がまるっきり知らないというのは私たちの努力不足だと思うが、どうか。

 鈴木学長 津々浦々までILC計画の周知ができていないのは、われわれも感じている。九州や神戸、広島、大阪、東京、そして岩手や宮城で、年に2回ぐらいILCの技術関係の会議はやっているものの、産業界の方々とお話をする場面はなかった。
 国のお金以外に何らかの、国民自らサポートできる仕組みはできないか考えている。1円でもいいから寄付してもらい、「ILC友の会」のような組織をつくり、情報を流せないだろうか。
 「国民レベルの議論がないと、なかなか難しいのでは」と、いろいろな人たちに言われている。今いただいたご意見も取り入れたい。

 吉岡教授 トリプルエー(AAA)の事務局長さんもいらっしゃるので、一言お願いします。トリプルエーとは、一般社団法人・先端加速器科学技術推進協議会のことです。

 松岡雅則・AAA事務局長 私たちはILCの誘致を目指す産学官連携の組織として活動している。やはりマスコミの力を活用しなくては広がらないと考えている。国際協力が重要となるプロジェクトなので、全国紙レベルで情報を伝えないといけない。ぜひ期待してもらえれば。

 吉岡教授 岩手県推進協の谷村会長からも。

 谷村邦久・県ILC推進協会長 今年の�q月、盛岡市でILCの国際会議「LCWS2016」が開かれる。日本や海外に、ILC実現に向けた情報発信ができる絶好の機会。しっかりと、地元の熱意を発信したい。

 吉岡教授 2市2町の首長と鈴木学長、佐々木室長の声に加え、客席からも有益な質問や意見があった。正式決定を実現するためにも、引き続き努力していきたい。
(おわり)

写真=左から吉岡正和教授、佐々木淳室長、鈴木厚人学長
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