人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

パネルディスカッション「わがまちの未来絵図とILC」 討論要旨(1)

投稿者 : 
tanko 2016-7-6 19:30
北上山地への国際リニアコライダー(ILC)誘致実現と地域社会の展望について意見を交わしたシンポジウムが先月、水沢区佐倉河の市文化会館(Zホール)で開かれた。素粒子物理学研究やILC計画に長年携わっている県立大学の鈴木厚人学長の基調講演に引き続き、「わがまちの未来絵図とILC」をテーマにパネルディスカッションが繰り広げられ、会場からも有益な質問や意見が寄せられた。討論の要旨を2回続きで紹介する。

【登壇者】
小沢昌記氏(奥州市長)、高橋由一氏(金ケ崎町長)、勝部修氏(一関市長)、青木幸保氏(平泉町長)、鈴木厚人氏(岩手県立大学長)、佐々木淳氏(県科学ILC推進室長)
【司会】
吉岡正和氏(岩手大・東北大客員教授)


 吉岡教授 まずは2市2町の現状とILC計画に対する考えを聞きたい。

 勝部一関市長 ILCが実現することを前提にまちづくりを考えており、施政方針にもそのことは盛り込んでいる。
 当市の政策では「中東北」という言葉を使っている。北東北、南東北というのがあるのだから、中東北があってもいいと考えた。平泉を中心に、通勤通学エリアや医療圏、文化も一緒という所がまとまれば、地域の力はかなり発揮できる。この圏域については宮城県北の栗原市、登米市も含めて考えている。
 ILCが実現した際、当市の大きな施策の柱として「資源エネルギー循環型のまちづくり」をしようと考えている。燃やして灰を埋める方法から脱皮し、焼却熱を活用するなど新しいエネルギー源を生み出すため、具体的な動きをしたい。
 平泉の世界文化遺産登録から5年を迎えたが、今度は奥州市前沢区、平泉町、一関市の北上川東側地域の「世界農業遺産」登録を目指しており、ぜひ実現させたい。

 青木平泉町長 言うまでもなく平泉は世界遺産のまち。ILCと平泉の文化遺産がどのようにリンクし、地域の発信力になっていくか。わが町にとっては大きな命題であり課題だ。
 世界は今、テロの脅威にさらされている。怨恨から復讐が行われ、さらに新たな怨恨を生むという、果てることがない状態だ。中東地域の人々の中でたまった怨恨は、ヨーロッパ諸国にも広がりをみせている。このままでは、21世紀は「怨恨の世紀」になってしまう。
 平泉を開いた人たちは、聖人でも君子でもなかった。彼らの中には肉親を殺され、殺した相手を憎む者もいただろう。しかし、彼らは戦いで敵を復讐する道ではなく、平和を築く道を選んだ。その結晶こそが平泉だ。先人の高貴なる心の営みを発信する責任が平泉町にはある。
 平泉の文化遺産は自然との共生、生きとし生けるもの全ての平等と平和が表れている。ぜひこの理念を世界各地から集まった科学者たちに知っていただき、それぞれの国に持ち帰ってもらえたらと考えている。

 高橋金ケ崎町長 当町の人口は、自然減が進む中で一定規模の社会増がある。とはいえ、全体的には1万6000人を割っている。どこの市町村も同じだが、生産年齢人口の減少を懸念している。さまざまな構造変化が起きている。
 金ケ崎は工業、商業、農業のバランスが取れている点が特色。「ILCの中心部の隣の自治体」という立場で、どんな役割を果たしていくかが大きな将来課題になる。岩手の製造業の中心地として、また農業の面でもILCとのいろいろな関わりが期待できる。また、高速道路のインターチェンジ近くに青果市場や鮮魚市場がある。食料を供給する物流の面からも発信できる強みがある。
 地域で育ち、地域で仕事をするという観点からすれば、2市2町がお互いの特徴、機能を補完し合って全体の産業振興につなげていくことが望ましい。

 小沢奥州市長  人口減、少子化、不況といった問題を地域は抱えている。個人消費も伸び悩んでいる状況だ。昔は考えられなかった問題が、当たり前になっている中、ここに住んで良かったと思えるまちづくりを進めていきたい。
 産業革命が生産性を飛躍的に伸ばし、IT革命で世界中のどこにいても情報のやりとりができるようになった。科学文明の力によって、便利な生活ができるようになった。しかし一方ではさまざまな課題もある。
 21世紀から22世紀にかけて、人類がどんな形で生き残っていくかとなったとき、大きなイノベーションが必要。その基になるのがILCだと考えてもらいたい。分からないものが分かる、できないことができる。こうした一つ一つが大きな連携を持ち、新しい時代、価値観を見いだしてくれる。そんな研究施設だ。
 当市には国立天文台水沢VLBI観測所がある。生活に直接関係なさそうな研究をしていると感じるだろうが、天文学によるアプローチで宇宙の謎に迫ることで新しい技術や知識が生まれてくる。そんな地域に、さらにILCが来るとなれば、その瞬間から私たちを見る世界の目線が変わってくる。
 今すべきことは、ここに住む人だけでなく、世界から来る人にも受け入れられるようなまちをつくっていくことだ。課題山積だが、ぜひともILCを誘致し、日本や世界を変えていくぐらいの意気込みを持ってしっかり取りくみたいと思う。

 吉岡教授 人口減少は各地域に共通した話題だと思う。その中にあって、勝部市長や高橋町長の話にもあったように、互いの特徴を持ち寄り、協力し合うことが大切といった趣旨の話があった。それでは次に、ILCの実現を各産業においてどう生かしていくか、具体例も踏まえてお示ししてほしい。

 勝部一関市長 農林業とILCとの連動がうまくいけば相当の雇用創出につながるし、期待できる。例えば研究施設や文化ホール、国際会議場は県産材で造るといった考えもある。これは、鈴木厚人先生が提唱する「グリーンILC」にもつながる。
 メーンキャンパスには、各国の研究者が大勢やって来る。その方々が昼時間に食堂に来ることになるが、食材は全て地元のものでやりたい。食材利用にも期待している。地元の農家も希望が見いだせるし、雇用にもつながる。
 スイスのCERN(欧州合同原子核研究機構)に行った際、レストランのメニューの豊富さに驚いた。例えばCERNのシェフを招いて、一関や岩手、東北の食材を使ったメニュー考案会のようなものをやってみてはどうか。CERN近郊では朝市もすごかった。やはりこれも第1次産業との関連性がある。
 ただ、最初から何でもかんでも整備するのではない。いきなり研究者と家族が来るわけではないので、しっかり計画性を持たせてやらないといけない。
 もう一つ、ILC実現の熱意を地元だけで終わらせてはだめだと強く感じる。このシンポジウムが地元紙にいくら取り上げられても、東京の人たちの目に届かない。何とかして、地元の盛り上がりを中央のほうに発信してほしい。情報発信は非常に大事。戦略的に取り組まなければいけない。

 青木平泉町長 2市2町の枠組みの中には、世界に誇れるものがいっぱいある。リンゴや前沢牛、工業団地にはトヨタの拠点があり、衣川は星空日本一、そして平泉の世界文化遺産もある。これだけの魅力が凝縮されている地域はほかにはない。
 先ほども話に出たが一関、奥州、平泉の北上川東部地域を「世界農業遺産」に登録しようと協議している。このエリアは、平泉の景観を支えてもらっている。長い間、景観を保てたのも、地域に住む方々のおかげで、農業や食文化を通じ大事にしながら守り伝えてきた。
 ILC建設により、自然景観に与える影響はどうなるのかという声も聞こえる。ILC誘致を目指しているときだからこそ、こうした景観や心を大事にし、守って伝えていかなければいけない。

8日付掲載の(2)につづく

写真=左から勝部修一関市長、青木幸保平泉町長、高橋由一金ケ崎町長、小沢昌記奥州市長
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