人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

次世代も興味津々 ILC誘致の意義 3氏説く(水沢でシンポ)

投稿者 : 
tanko 2015-10-18 13:10
 「先端加速器科学技術推進シンポジウム2015in東北」(いわてILC加速器科学推進会議など主催)は17日、水沢区佐倉河の市文化会館(Zホール)で開かれた。北上山地への誘致が期待される国際リニアコライダー(ILC)の意義や、建設実現によってもたらされる効果について3人の有識者が講演。誘致関係者に加え、将来を担う中高生も多く聴講した。(児玉直人)


 約800人が聴講。次世代を担う世代にもILC計画の意義を知ってもらおうと、胆江地区を中心とした中学、高校生にも参加を呼び掛けたこともあり、一般市民に交じり若い世代の姿も目立った。小沢昌記市長をはじめ、戸田公明大船渡市長、青木幸保平泉町長らも駆け付けた。
 同区の認定こども園日高ななつ星・日高さくら木による「いわて国体ダンス」が披露され、和やかに開幕。園児たちの「みんなの希望ILC!」と元気のいいメッセージに、会場は大きな拍手に包まれた。
 講師として迎えられたのは▽山内正則氏(高エネルギー加速器研究機構長)▽山下了氏(先端加速器科学技術推進協議会大型プロジェクト研究部会長、東京大学准教授)▽増田寛也氏(日本創成会議座長、前岩手県知事)――の3氏。
 山内機構長は、素粒子物理学の基本的な話から研究者が解明しようとしている宇宙にまつわる「謎」について解説。山下氏はILCの構造や計画の推進状況を紹介した。
 前知事の増田氏は「もしILCが立地した場合、海外研究者の住環境をどう考えるかとなるが、失敗例が研究学園都市として整備されたつくば市だ。特別に何か身構えてしまう必要はない。地域と交流するという発想がなく、専用住宅を造るようなことをしてしまった」などと指摘。「空き家を少し手直しするなど、今あるものを活用し、地域に彼らを溶け込ませるような考えで進めたほうがいい。研究者に日本語を教えるようなボランティアがいてもいい。お互いの橋渡し役にもなる」と提唱した。
 聴講した県立水沢高校1年の菅原志保さん(16)は「(素粒子の話は)少し難しかった。ILC実現で外国人がたくさん居住すると聞き、自分も英語を覚えなくてはいけないと思っていただけに、増田さんが『身構える必要はない』と言ってくださったのは新鮮だった」。県立前沢高校1年の鈴木脩矢君(16)は「宇宙の話とかに興味があった。可能ならILCで働いてみたい」と話していた。
写真=(左から)増田氏、山下氏、山内氏


【宇宙の大きな謎とILC=山内正則氏(KEK機構長)】
 宇宙は素粒子でできているとはいうものの、それは宇宙全体の4%にすぎない。残り馥%は人類の知らないものだ。宇宙のことはほとんど知らない。�|%を暗黒物質や暗黒エネルギーが占める。これらの全体像を明らかにしようというのが素粒子物理学の大きな役目だ。
 宇宙の謎を解くため、日本にはいくつかの研究計画がある。茨城県東海村のJパークや、同県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)にあるBファクトリーという装置を使った研究だ。
 そのほかに、海外ではスイス・ジュネーブの欧州原子核研究機構(CERN)のLHCという装置を使った実験をしている。最終的には日本にILCを誘致したいと考えている。
 科学の流れにとって重要なのは経験の積み重ね。宇宙の大きな謎を発見していきたいと思う。
 ILCを実現するため、KEKではナノビームという小さなビームを作るための施設を造り、練習している。また、長い直線加速器が必要なのでその研究も進めている。
 サイエンスと技術を高め、結集してILCにつなげていきたい。

【日本初の国際研究所を=山下了氏(東京大准教授)】
 ILCの特徴は世界の研究所という点。日本だけで造れるものではない。人も予算も各国が持ち寄る。今、日本には国際研究所がないので、非常にいいチャレンジになる。
 既にILCの研究所が目指すもの、建設場所、製造技術がそろっている。政府内での検討もスタートし、一部では海外の政府間との議論も始まっている。
 建設時は、今ある環境を十分に生かして造らないといけない。そこへ国際的都市として必要な要素を付け加える形だ。
 ユーロ誕生前の紙幣を見ると、フランスフランはキュリー夫妻、ドイツマルクは数学者のガウスだった。ヨーロッパでは文化の中に科学や数学が根付いていた。そのような雰囲気が息づく地域を日本の中につくれると本当に素晴らしい。
 ILCを誘致するというこの機会を使い、日本全体で教育、技術、科学、文化・ブランドなどを考えてもらいたい。
 単にILCの建設計画を作るだけではいけない。ILCをいかに地域や日本全体のために生かしていくのか、皆さんと一緒に考えていきいたい。

【決して身構える必要ない=増田寛也氏(日本創成会議座長)】
 今地方創生が言われているのは、人口が地域を維持できないくらい減っているからだ。これを何とか変えていきたいという狙いがある。「経済を良くする」ということだけでは不十分。次世代、次々世代までを見据えて、この地域で安心して生活し、希望があるならば結婚し子どもを産み育て、学べる地域にしていくことまで考えなければいけない。これまでの「地域振興」とは違う。
 今日は多くの高校生がいらっしゃっているが、自らの夢や希望をかなえられる地域を見通さないといけない。
 ところが、全国で出来上がろうとしている地方創生の総合戦略を見ると、どれもアイデア不足だ。
 一方で、この地域はILCという可能性を持っている。多国籍の研究者が家族を含め多い時で1000人が地域に溶け込む。その効果は絶大で、このような可能性があるのはこの地域だけだ。
 政府を含め、着々と準備が進んでいるので、研究者の居住環境などを含め、どんな準備が必要か考えてもらいたい。だが、決して身構える必要はない。今ある資源や環境を活用してほしい。
トラックバックpingアドレス http://ilc.tankonews.jp/modules/d3blog/tb.php/427

当ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は胆江日日新聞社に帰属します。
〒023-0042 岩手県奥州市水沢柳町8 TEL:0197-24-2244 FAX:0197-24-1281

ページの先頭へ移動